第二百七十七話 水の聖龍(前編)
-----三人称視点---
「ニャ、ニャ、ニャ、帝国軍も粘るニャン」
「でも最早フルボッコ状態ニャン」
「このままやっつけちゃう……。
ニャ、ニャ、アレは何だニャン?」
「ニャ? どうかしたニャン?
ってあの巨竜は……聖龍だニャン」
狩人気分で居た猫族の魔導師達の表情が凍りついた。
彼等の視界の先には、
地面を踏みならして、
前進する水の聖龍エレライムの姿があった。
「――行くんだぁっ! エレライムよっ!!」
「了解した。 ――凍てつく息吹っ!!」
シュバルツ元帥の号令と共に聖龍エレライムは、
口から凍てつく息吹を吐き散らした。
その息吹を浴びた連合軍の空騎士。
その魔獣に相乗りした猫族達も
絶叫と共に綺麗に凍りついた。
その対象は連合軍の兵士達だけでなく、
地面や周囲の草木も綺麗なまでに凍りついた。
「ニャー、ヤバいニャ!
今すぐ魔獣を聖龍から遠ざけて!」
「あ、ああっ……」
「うわっ! 第二波が来るニャン!」
「エレライム、一気にぶちかませっ!」
「了解したっ。 ――アイシクル・バレッドッ!!」
聖龍エレライムがそう叫ぶなり、
聖龍の口から無数の氷の弾丸が放射される。
そして前方の連合軍の空騎士やその魔獣。
また魔獣に相乗りした猫族達を
その氷の弾丸で容赦なく貫いた。
「ぎ、ぎゃあああっ!!」
「あ、アニャーンッ!!」
「だ、誰か対魔結界を……あああっ!!!」
氷の弾丸によって、
氷結した者の身体が砕かれ、
それ以外の者も身体を撃ち抜かれて、
死亡、または重傷、戦闘不能状態となった。
「まだだ! もっと攻めろ!
今度は地形変化で地面を氷漬け。
あるいは泥沼化させるんだ!」
「それは良い考えだな。
地形変化開始っ!!」
聖龍エレライムがそう叫ぶなり、
前方の連合軍が陣取る地面が瞬く間に凍りついた。
「う、うおっ……何が起きたっ!?」
「地形変化による氷結化だ。
この状況では進軍は出来ぬ。
とりあえず兵を退かせるぞっ!!」
中央に陣取るバウアー将軍がそう指示を出した。
だが急な事態に連合軍の兵士達も動揺していた。
その間隙を突くように、
シュバルツ元帥が周囲の帝国兵に命じた。
「良し、敵は混乱状態にある。
このまま聖龍を前進させるから、
他の者も飛龍や竜に乗って後に続けっ!」
シュバルツ元帥の部下達は、
「御意」と答えて、飛龍や竜と共に前進を開始。
「バウアー将軍、敵が追撃して来ました」
「ならば中央だけでなく、
左翼、右翼の部隊も後退させよ。
後、ラミネス王太子に伝令も出しておけ」
「わ、分かりました」
将軍の言葉に副官のライネルがそう答えた。
前線で孤立した猫族部隊も
聖龍や飛龍などの攻撃を受けて、
蜘蛛の巣を散らすように、四方八方に逃げ回った。
それを中列からリーファ達が見えていた。
味方の苦戦にリーファも表情を曇らせて――
「ラビンソン卿、ここは我々が支援すべきでは?」
と、控えめにそう進言したが、
小さな黒兎の大魔導師は、首を左右に振った。
「いやボクらにはそんな余裕はないピョン。
味方にもある程度戦ってもらわないとね。
それにあれだけの数の竜の相手はボクでも厳しいよ」
「そうですか」
思わず声を落とすリーファ。
するとラビンソンも少し態度を軟化させた。
「でもせめて凍りついた地面だけでも、
解凍しておくよ」
「……ありがとうございます」
「これくらいお安い御用ピョン。
じゃあちょっと本気を出すよ。
ハアァア……アァァァ……」
ラビンソンはしゃがみ込んで、
地面に手をつき、全身から魔力を解放する。
「――超熱風っ!!!」
ラビンソンがそう叫ぶなり、
地面にはみうみるうちに熱を帯びて、
前方に広がった氷が短時間で解凍されていく。
「す、凄いわ」
「え、ええ」
「氷結した地面をこうも簡単に溶かすとは……」
リーファだけでなく、
アストロスとエイシルも驚きの声を上げた。
だがラビンソンは、少し疲れた様子で――
「ちょっと頑張りすぎたピョン。
思った以上に疲れたね……」
「ラビンソン卿、この後はどう動きますか?」
「そうだね、ボクらは護衛部隊と聖龍討伐隊と共に、
中列で待機して様子を見よう。
そこのジョンソンくんと補佐の雌猫族ちゃん。
それとロミーナ……くんだったね?
君もいつでも弓を打てる体勢を維持して!」
「「了解」」「了解だわさ」
「じゃあしばらくボクらは高見の見物で行くピョン。
味方部隊に被害が出ると思うけど、
そこは心を鬼にして耐えるピョン」
ラビンソンの言葉に、
リーファも控えめに「はい」と頷く。
その後、ラビンソンの予想通り、
シュバルツ元帥率いる帝国軍の第四軍の猛攻で、
バウアー将軍率いる中央の部隊は、大苦戦に陥っていた。
「ああああっ! 身体が燃えるっ!」
「糞っ……火竜のブレスか!」
「敵は前だけじゃないぞ。
上空から飛龍に乗った竜騎士の一団が一斉に手槍を投げて来る」
「バウアー将軍、如何なさいますか!?」
ヒューマンの中年男性の副官ロベールがそう問う。
するとバウアー将軍は、
苦虫を噛み潰したような表情で――
「左右の両翼にも支援するように伝えよ!
後、戦乙女とその盟友にも
援軍に駆けつけるように伝えよ!」
「は、はっ!!」
チャンスから一転してピンチになり、
バウアー将軍の部隊は浮き足だった。
だが左翼、右翼のバイン将軍とレバン騎士団長代理も
急な展開の前に、慌てふためいた。
その間にも帝国軍の第四軍の猛攻は続き、
徐々に死傷者が増えてていく中、
リーファ達はその状況を固唾を呑んで見据えていた。
次回の更新は2024年11月13日(水)の予定です。
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