第二百七十五話 挙国一致(前編)
-----三人称視点---
10月22日の正午過ぎ。
連合軍と帝国軍の戦いは、更に苛烈になっていく。
連合軍は今まで通り、
左翼にバイン将軍率いる約三万の部隊。
中央にバウアー将軍率いる約三万七千の部隊。
右翼にはレバン騎士団長代理のサーラ教会騎士団。
その数、凡そ一万七千人。
更にニャールマン司令官が率いた猫族軍は、
左翼、中央、右翼に各部隊を配置して、
敵部隊に魔法攻撃、あるいは対魔結界を張る。
といった具合に得意の魔法力を生かしていた。
対する帝国軍は、
タファレル元帥率いる約二万五千の第六軍を左翼に配置。
シュバルツ元帥率いる三万の第四軍を中央に、
クインラースと傭兵隊長マクトレフ率いる傭兵、冒険者部隊を右翼に配置。
今まで通りの陣形を維持して、戦闘を続けた。
勢いと流れは連合軍に傾いているが、
その戦力差には大きな開きがなく、
激しい消耗戦が続くであろう。
誰もがそう思っていたが、
ハイ・セージのラビンソンの登場によって、
その予想は大きく裏切られる事となった。
ラビンソンはまず中央エリアに陣取り、
そこで前方の帝国軍の第四軍の周囲に、
地形変化によって泥沼を作り上げた。
これによって帝国軍の第四軍は足止めされた。
更にラビンソンは、そこから強力な魔法で
帝国軍の第四軍を攻め立てた。
泥沼化した周囲で巨大地震を起こし、
シュバルツ元帥やその部下に、
精神的にも肉体的にもダメージを与えた。
「ぐっ……何という強力な地震攻撃だ。
周囲は泥沼化しているし、前進も出来ない状況だ。
仕方ない、ここは一旦兵を退かすぞ」
シュバルツ元帥は、咄嗟にそう指示を出した。
だがラビンソンは、更に火炎属性魔法。
その後に光属性魔法を放ってきた。
「あ、あああっ……あああぁぁっ!!」
「凄い魔力だ! 何故急にこんな状況になったのだ!」
「シュバルツ元帥、それは分かりませんが、
ここは犠牲を覚悟の上で兵を後退させましょう」
「あ、嗚呼……」
シュバルツ元帥は、予想外の魔法攻撃に
肝を冷やしながらも、第四軍を後退させた。
「うひひひ、効いてる、効いてる」
子供のように笑うラビンソン。
だがその魔力と魔法攻撃力は、
敵味方合わせても一、二を争う程であった。
「ラビンソン卿、魔力は大丈夫ですか?」
「リーファくん、まだまだ大丈夫ピョン。
ボクはあまり魔力酔いもしないから、
万能薬を二、三本飲めば、
後、十時間近くは戦えるピョン」
「そ、そうですか」
どうやらその言葉に嘘はなさそうだ。
見た目は小柄で、性格は何処かふざけているが、
その実力は、「小さな大魔導師」という異名通りのようだ。
「でもこの後に聖龍戦も控えてるからね。
だからここからは魔力の消費を控えるよ」
「そうですか、ではしばらくは様子見でしょうか?」
と、リーファ。
「ウン、でも適度に攻撃もするピョン。
だから盟友の君達も協力してね」
「「はい」」「ウン」「はいだわさ」
ラビンソンの言葉に、
アストロス達も大きく頷いた。
「ではここはボクが行きます!」
「はいよ、エルフ子ちゃん、頑張れピョン」
「ぼ、ボクの名前はエイシルです」
「了解ピョン、頑張れ! エイシルちゃん!」
「……我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
エイシルが呪文と紡ぐと、周囲に強力な魔力が生じる。
エイシルの周囲の大気が激しく振動している。
だがエイシルは無表情のまま、呪文を更に唱えた。
「天と大地に我が身を捧ぐ!
天よ、大地よ、我に力を与えたまえっ!!」
エイシルはそう呪文を紡、
両手で両手杖を強く握り、頭上に掲げた。
攻撃する座長展は、帝国軍の第四軍の前線。
「――サイコ・ブラスターッ!」
次の瞬間、エイシルの両手杖の先端から
大気を震わせる強力な念動波が放たれた。
念動波は渦巻きながら、
帝国軍の第四軍の前線部隊に迫った。
「ぎ、ぎゃあああ……あああっ!!」
「ああああっ!! あ、頭が割れるぅっ!」
「こ、これは念動魔法! う、うわあああぁぁぁっ!」
聖王級の念動属性の攻撃魔法。
この念動波を受けた者は、
両眼から血を流して、
口から血の泡を吐いて、地面に倒れた。
今の一撃だけで、
二百人以上の死者が出た。
負傷者を含めれば、四百人を超える結果となった。
「次は私の番よっ!
我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。
母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
リーファが前へ出て、呪文を読み上げる。
するとリーファの左腕に強力な魔力を帯びた光の波動が生じた。
そしてリーファは、
全身から凄まじい魔力を放出しながら、
呪文を更に唱えた。
「そして天の覇者、光帝よ! 我が身を光帝に捧ぐ!
偉大なる光帝よ。 我に力を与えたまえ!」
そこでリーファは左腕を力強く引き絞った。
攻撃する座標地点は、同じく帝国軍の第四軍の前線部隊。
そして右手で素早く印を結んで、
リーファは大声で叫んだ
「光よ、敵を貫きたまえっ! ――ライトニングバスターッ!!」
そう叫ぶなり、
リーファの左手から迸った光のビームが放出される。
やや間を置いてから、
前方の帝国軍の第四軍の前衛部隊を追撃した。
「ぐ、ぐ、ぐっ……ぐあああぁぁぁっ!!」
「か、か、身体は焼けるぅぅぅっ!!」
「うああああ……あああぁぁぁっ!」
神帝級の光属性の攻撃魔法。
単体でもその威力は、
一瞬で数百人の兵士を焼き焦がしたが、
エイシルの魔法攻撃の後という事もあって、
敵の犠牲者は、想像以上に多かった。
エイシルの魔法攻撃で、
負傷及び戦闘不能状態だった者は、
この一撃をまともに受けて前進を焼かれた。
そして気がつけば、三百人以上が犠牲となった。
前のエイシルの魔法攻撃と合せれば、
この短期間に五百人以上の敵を倒した事になる。
「良し、良し、良い感じピョン」
目の前に広がる死屍累々の光景。
ラビンソンは、その光景を見ながら笑みを浮かべる。
見た目は可愛い黒兎だが、
その中身は冷徹な心も持ち合わせた獣人であった。
それを見て同じ獣人である猫族も触発された。
そしてニャールマン司令官は、
左翼、中央、右翼に散らばった猫族の魔導師部隊に――
「この好機、逃す手はない!
さあ魔導師部隊よ、徹底して魔法攻撃を仕掛けよ!」
「御意、全軍にそう伝えます」
ニャールマン司令官の言葉に、
副官ニャーモンが鷹揚に頷く。
そして猫族の魔導師部隊による大攻勢が始まった。
次回の更新は2024年11月6日(水)の予定です。
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