第二百七十四話 疲労困憊
-----三人称視点---
帝国の西部エリアで聖龍オルパニーアが討伐されたが、
予想に反して、戦局は大きく動かなかった。
だが聖龍が倒された。
という事実は連合軍にも帝国軍にも少なからず影響を与えた。
だが当のリーファは、
疲労困憊の中、馬車で浅い眠りに就いていた。
そして翌日の10月22日。
リーファとその盟友、護衛部隊は、
ラミネス王太子が陣取る本陣の天幕に到着した。
睡眠を取ったことにより、
リーファの披露も幾分か軽減されたが、
まだ身体全体にずっしりとした疲労感が残っていた。
そこでリーファはまず魔力回復薬を服用。
どうやら魔力酔いも起こらず、
普通に魔力を補充出来た模様。
するとリーファはそこで更に万能薬を服用。
それと同時に全身から疲労感が消えていく。
「お嬢様、体調は如何ですか?」
「だいぶ楽になったわ。
でも「能力覚醒」と「神の肉体」の併用は、
想像以上に身体に負担がかかるようね」
「ですね。 こんな疲れた顔のリーファさんは、
初めてです。 くれぐれもご無理なさらずに」
「エイシルちゃんの言うとおりワン。
お姉ちゃん、無理は駄目だよ?」
「エイシル、ジェイン、気遣いありがとう。
でも私はこの後も戦う事になるでしょう。
帝国南部エリアの聖龍討伐。
その聖龍を使役するのは、あのシュバルツ元帥。
楽に勝たしてくれる相手じゃないわ」
「その後には、あの漆黒の戦女も控えてるだわさ。
リーファさん、ここはもう少し休養したら?
流石の戦乙女でもこう連戦がかさむと厳しいだわさ」
ロミーナがそう釘を刺す。
するとリーファは柔和な笑みを浮かべて――
「ロミーナも心配してくれてるのね。
でも私はあえて戦うわ。
だけど能力覚醒」と「神の肉体」の併用は、極力控えるわ。
マリーダ戦では必須でしょうけど、
聖龍やシュバルツ元帥戦では、
何とか温存できるように努めたいわ」
「「そうですね」」「「ウン」」
アストロス達もリーファの言葉に同意する。
その時、近くに居たラビンソンが会話に割り込んできた。
「そうだね、あの漆黒の戦女は、
リーファくんに任せるけど、
聖龍とその契約者は、
ボクも協力するから、何とかするだピョン」
「アンタ、凄い自信だわさね」
「うん、ボクは自信しかないピョン」
「ある意味、羨ましい性格ですね」
と、エイシル。
「でも口先だけじゃないのも事実ワン」
と、ジェイン。
「うん、皆で協力して聖龍とその契約者を倒すピョン」
「そうですね……」
「それじゃ皆でラミネス王太子に謁見するピョン」
「「「はい」」」「「ウン」」
そしてリーファ達は、
連れたって本陣の天幕の中へ入った。
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「リーファ殿、その盟友。
そしてラビンソン卿、この度はご苦労であった。
卿等のおかげで聖龍を倒す事が出来た。
そのおかげで連合軍の士気も上がっている。
この多大なる功績には、感謝しても感謝しきれん」
「いえ、私は任務を全うしたまでです」
無難な言葉を返すリーファ。
だが彼女の後ろに居たラビンソンは、
容赦なく本音をぶつけた。
「感謝の言葉なんかどうでも良いピョン。
それより残りの討伐報酬。
そして次の聖龍戦の前金が欲しいピョン」
「……」
場の空気をまるで読まない発言。
これにはリーファだけでなく、
ラミネス王太子も無表情で一瞬黙り込んだ。
だが次の瞬間には、微笑を浮かべる王太子。
「勿論だとも、成功報酬として1500万。
それと次の聖龍戦の前金1500万。
合わせて3000万ローム(約3000万円)。
君達の冒険者ギルドの銀行口座に振り込むから、
君達の冒険者の証と口座番号を教えてくれたまえ」
「はい、はい、ピョン」
ラビンソンは、間髪入れず自分の冒険者の証。
そして自分の口座番号を書いた紙片を王太子に見せた。
「この成功報酬は、
ここに居る六人で均等に分けるのかい?」
「いや風の聖龍の討伐報酬は、
グレイス王女殿下にも払うピョン」
「……意外だな、そこは正直に均等に分けるのか?」
王太子の言葉に「うん」と頷くラビンソン。
「ボクは約束はきっちり守るよ。
だから王太子殿下も約束は守ってピョン」
「分かった、分かった。
ならばそろそろ聖龍討伐に関する話をしても良いか?」
「うん、皆も良いよね?」
ラビンソンの言葉にリーファ達も首を縦に振る。
それを見たラミネス王太子が淡々と作戦を述べる。
「まず君達には、陣の中央に居てもらう。
聖龍の契約者のシュバルツ元帥も
基本的に中央に陣取っている模様。
敵味方合わせて三十万以上の大軍が
この狭い戦場でひしめいている状態だが、
敵が後退して、聖龍を前線に出すまでは、
リーファ殿は力を温存してもらいたい」
「私は聖龍及びシュバルツ元帥。
そしてマリーダの戦いに専念する形ですか?」
「その通りだ、上記の者意外なら、
既存の兵力で戦う事も可能だ。
だが聖龍や漆黒の戦女の相手は君しか出来ん。
我々がきっとその舞台を整えるから、
君とその盟友は、その機会をジッと待って欲しい」
「……分かりました」
「王太子殿下、ボクもリーファくんと同様に
高みの見物をすれば良いの?」
「いやラビンソン卿。
貴公には聖龍戦以外でも働いてもらいたい。
貴公の実力は本物だ。
だからその力で連合軍を勝たせて欲しい。
尚、戦果次第で褒賞金や報酬も上積みするつもりだ」
「それは良いピョン」
ラビンソンは、王太子の言葉に上機嫌になり、
右手の指を「パチリ」と鳴らした。
「ならばボクも頑張っちゃうよ」
「嗚呼、貴公には期待しているよ。
とりあえずリーファ殿と盟友一行。
またラビンソン卿にも、
私と直通出来る「携帯石版」を渡しておこう。
定期的に連絡するから、
その際は必ず「携帯石版」で返事してくれたまえ」
「了解です」「了解ピョン」
「では貴公等の健闘を祈るよ。
もう少しであの怪物ナバールを倒せる。
そうなればこのエレムダール大陸にも再び平和が訪れる。
その為に私と連合軍に力を貸してくれ」
こうして大した休みも与えられないまま、
リーファは再び戦場へ赴く事となった。
現時点では肉体的な疲労はないが、
精神的にはやや疲労していた。
だがそれを気力でねじ伏せてリーファは、
盟友と共に馬に乗って、
連合軍の中央陣へ向かうのであった。
ちなみにラビンソンは、
小柄だったので何かn乗る事もなく、
加速魔法と飛行魔法を駆使して、
リーファ達の後を追従していた。
次回の更新は2024年11月2日(土)の予定です。
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