第二百六十七話 小さな大魔導師(前編)
-----三人称視点---
ワールスリー地方の南部。
連合軍の本陣の天幕。
そこに総司令官ラミネス王太子。
副官レオ・ブラッカー。
そして戦乙女リーファとその盟友四人が集結していた。
更には猫族の狙撃手ジョンソン。
その相棒の白いシャツに白いズボンという格好の雌猫族。
レベル37のハイ・レンジャーのシリル・グライソン。
また見慣れぬ黒のレッキスの雄兎人の姿も見えた。
青いケープマントを羽織り、
威風堂々とした佇まい。
発している魔力も非情に鋭く、
見た目に反して、かなりの実力者のようだ。
「諸君、わざわざ集まってもらってすまない。
だが今回の任務には、諸君にとっても名誉となるであろう。
単刀直入に云う。 ここに居る八人で力を合わせて、
帝国軍の聖龍を討伐してもらいたい」
「……」
マリーダとの戦いから、ほぼ休む間もなく、
新たな任務、更には聖龍討伐という重大任務。
この人はとことん私を使うつもりね。
リーファはそう思いながらも、
とりあえずは黙り込んで様子を窺った。
「戦乙女殿とその盟友四人。
そして彼女等と面識がある狙撃手のジョンソン殿。
その補佐としてグライソン女史にも働いてもらう」
ラミネス王太子は、いきなり外堀を埋め始めた。
だがリーファ達は、あくまで一兵士。
それ故に彼の言葉に黙って耳を傾けていたが――
「前置きはいいだピョン。
このボクも呼んだからには、
それ相応の任務になると思っていたけど、
まさか聖龍討伐とはね、これは驚いたピョン」
「……ラビンソン殿、自信がないのかね?」
「いやボクは自信しかないピョン」
ラビンソンと呼ばれた黒のレッキスの雄兎人は堂々とそう答えた。
「ならば君にも聖龍討伐に参加してもらいたい」
「別にそれは良いピョンよ。
でも条件がいくつかあるピョン」
「……その条件を申したまえ」
「討伐する聖龍は何体ピョン?
もし複数ならば、一体につき三千万ローム(約三千万円)の褒賞金が欲しいピョン。
これが任務を受ける最低条件ピョン」
ラミネス王太子相手にこの態度。
流石のリーファも少し驚いていたが、
そう言えば冒険者の間の噂話を思い出した。
黒のレッキスのラッピー・ラビンソンという雄兎人の超凄腕のハイ・セージの噂を。
かつてはジェルミナ共和国軍の魔導師部隊の司令官をしていたが、
超個人主義に加えて、名声欲と金欲が非情に強い為、
共和国軍を除隊して、
特殊任務を請け負う冒険者になった。
そして数々の任務を達成した伝説的な兎人。
どうやら眼前の兎人が噂の人物のようだ。
「成る程、一体につき三千万ローム(約三千万円)の褒賞金か。
良かろう、討伐に成功したら、その希望額を払おう」
「駄目ピョン、成功しなくても前金で1500万。
これは払ってもらうピョン。
そうでないとボクは任務を引き受けないよ」
「……」
ラミネス王太子に相手にこの態度。
どうやら噂以上の人物のようだ。
だがリーファとて、成功報酬や前金は欲しい。
なのでこの場は傍観者に徹して様子見する。
「……そうだな、聖龍討伐はかなり困難な任務だ。
良かろう、君の言う希望額と前金を払おう。
ちなみにこの褒賞金は、八人で均等に割るのかい?」
「当然ピョン、それが冒険者の常識だよ。
ね、リーファくんもそう思うよね?」
「え、ええ……まあそうですね」
急に話を振られて戸惑うリーファ。
彼女がこのように戸惑うのは少し珍しかった。
「んじゃ皆もそれで良いピョンね?
そこの猫族のお二人さんも良いピョン?」
「嗚呼……」「いいですわ」
「うむ、皆の了承は取れたピョン。
それじゃ具体的な戦術を練って行くピョン」
「あ、嗚呼……」
ラビンソンのハイテンポなトークに、
ラミネス王太子も思わず唖然とした。
この兎人、私相手にここまで堂々とした態度を貫くとは……。
だがこの男の噂は、よく耳にした。
見た目こそ可愛らしいレッキスだが、
その魔法力と魔力は、
エレムダール大陸でも一、二を争う程の大魔導師。
だが兎に角、名声欲と金欲が強くて、
依頼者と衝突する事も珍しくないが、
その腕は超一流。
ラミネス王太子もやや不愉快に思いつつも、
ここは私情を捨てて、指揮官として振る舞う。
「まずここに居る八人に三百名程の護衛をつけて、
帝国の西部エリアまで移動して、
グレイス王女と騎士団長エルネス率いる連合軍の第二軍に合流してもらいたい」
「ピョン、先に帝国の西部エリアの聖龍を殺るのピョン?
南部エリアは後回しなのかい?」
「嗚呼、南部エリアは、我々、連合軍の主力部隊が居るから、
聖龍相手といえど、そう簡単にはやられないさ。
だが西部エリアの戦いでは、
勇者グレイス王女の力を持ってしても、
苦戦が続いている模様。
だから諸君は第二軍と合流して、
グレイス王女と共闘して、
まずは帝国の西部エリアの聖龍を倒して欲しい」
「まあある意味、妥当な判断ピョンね。
うむ、ボクはそれでもいいよ。
他の皆はどうかな?」
「自分もそれで問題ありません」
「同じく自分もです」
リーファとジョンソンがそう言うと、
ラビンソンは両腕を組んで「了解ピョン」と頷いた。
「それで西部エリアの聖龍を倒したら、
次はまた南部エリアに戻る感じピョン?」
「あ、嗚呼……そうだが君の話振りだと、
まるで確実に聖龍を倒せるような言い方だな」
「うん、皆でちゃん協力すれば、
必ず倒せるよ。 ボクは特殊任務成功率97パーセントなんだピョン」
「……それは頼もしいな」
「うん、それで南部エリアでは、
グレイス王女殿下は同行しない感じピョン?」
「その辺はその時の流れで決めてくれ。
だがグレイス王女殿下は、
仮にもエストラーダ王国の王族。
彼女にあまり危険な真似をさせれないのも事実」
「それでも良いピョン。
ボクと戦乙女殿。
そしてその盟友とそこの猫族コンビ。
この八人が居れば、聖龍相手でも必ず勝てるピョン」
「凄い自信だが、過信でない事を願いたいな」
「過信じゃないピョン、確信だピョン」
「……うむ、ではとりあず私からは伝える事はもうない。
後の細かい戦術や作戦は、
君達で決めてくれたまえっ!」
「はいピョン」
こうして瞬く間に、
聖龍討伐の話し合いは終わった。
終始、ラビンソンのペースで話が進んだが、
リーファとしても特に異論がなかったので、
とりあえずは彼の方針に従う事にした。
そしてリーファとその盟友。
ジョンソンとシリル。
ラビンソンはそれぞれ軍馬。
あるいは馬車に乗って、
護衛部隊三百人に護られながら、
帝国の西部エリアで戦う連合軍の第二軍と合流を果たした。
急に現れて場の主導権を握る大魔導師ラビンソン。
彼は只の自惚れ屋か。
それとも実力以上の大魔導師か。
とりあえずそれを見極めてみよう。
リーファとその盟友は、
そう言葉を交わして、しばらくは様子見する事にした。
次回の更新は2024年10月9日(水)の予定です。
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