第二百六十五話 兵貴神速(前編)
-----主人公視点---
「あああっ……マリーダァッ!
覚悟なさいっ!!!」
「くっ、その目は狂気に満ちている。
私がアナタを倒して、
楽にさせてあげますわっ!
――ハイ・カウンターッ!!」
マリーダは再び返し技を放った。
先程、同様に漆黒の魔剣で薙ぎ払いを繰り出す。
だがその動きが手に取るように分かった。
ここは力業で押し切るわっ!
「――ヴォーパル・ドライバーッ!!!」
「な、なっ……なんて重い一撃なのっ!?」
気がつけば、私の放った突きの衝撃で、
マリーダが右手に持った漆黒の魔剣が近くに弾き飛ばされた。
……凄い。
只の初級の剣技でこの威力。
この力ならば、マリーダにも勝てる!
「――戦乙女の舞っ!!」
私は距離を詰めた状態で、
得意の独創的技を繰り出した。
まずは左構え型から、
渾身の左ストレートでマリーダの顎の先端を強打。
綺麗な左ストレートが決まり、
マリーダは思わず身体を九の字に曲げた。
「まだよ! まだ終わりじゃないわっ!」
「く、く、くう……がはァァァッ!!」
今度は左ボディフックで、
マリーダの右脇腹を強打。
会心の肝臓打ちが決まり、
マリーダが口から胃液と血液を吐いた。
そこから私は身体を捻って、
ローリング・ソバットの体勢に入った。
「ま、マリーダちゃん! ハイ・ヒールだニャン!」
主人のピンチに守護聖獣が回復魔法をかけた。
「……それ以上はやらせん!」
「ニャン! 君、しつこいニャン」
ランディが再びガーラを動きを封じる。
そこで私はローリング・ソバットを打たず、
僅かに後ろに下がって、再び体勢を整えた。
「……つ、強い、強すぎる!
ま、まるで鬼神のような強さだわ」
マリーダが左手の甲で、
口元を拭いながら、そう言った。
だが彼女の眼の闘志は衰えてない。
危機的状況の中でも、
その目は死んでいなかった。
「――サイコキネシスッ!!」
マリーダは咄嗟に念動魔法を唱えて、
地面に落ちた魔剣を自分の右手に手繰り寄せた。
「……ま、負けないっ!
絶対に負けないわっ!!」
マリーダが激しくそう言い放つ。
……大したものね。
この状況でも闘志は、まるで揺らいでない。
ならば手加減無用ね。
こちらも全力でマリーダを叩き潰す。
「マリーダ、覚悟なさいっ!」
「そ、それはこちらの台詞ですわぁっ!
うおおお……おおおぉぉぉっ!!」
マリーダは、雄叫びを上げながら、突貫して来た。
その負けん気は買うけど、
それだけじゃ戦いは勝てないわよ。
「グランド・クロ――」
「させないわっ! 神速殺っ!!」
「き、きゃあああ……あああっ!」
マリーダが剣技を放つ前に、
私は得意の独創的技を繰り出して、
魔剣を持つマリーダの右腕を斬り裂いた。
腕の切断には至らなかったけど、
神経は確実に切断したわ。
「ぐ、ぐ、ぐっ……アーク・ヒールッ!」
マリーダは咄嗟に回復魔法を唱えるが、
神経を切られた右腕は、完治するまでには至らない。
その間に私は地を蹴り、一気に間合いを詰めた。
「――掌底打ちっ!!」
「うおおお……おおおっ!!」
マリーダは後方に跳躍して、
何とか私の掌底打ちを回避した。
そして左腕を前にかざして――
「アポートッ!!」
初級の念動魔法を唱えて、
地面に落ちた漆黒の魔剣を左手に手繰り寄せる。
それから何度かバックステップして、
一定の距離を保つと、
左手を錐揉みさせて、大技を繰り出した。
「ハアァア……アァァァ……。
アァァァッ! ――ダークネス・スティンガー!」
来たわね。
これを待っていたのよ。
「――ゾディアック・フォースッ!!」
私は条件反射的に、
職業能力「ゾディアック・フォース」を発動させた。
今の私は能力値が四倍化。
そこに「ゾディアック・フォース」を発動させたら、
恐らくどんな一撃でも跳ね返せるでしょう。
それを身を持って、証明してみせるわっ!
「――ライトニング・ブレイクッ!!」
私がそう技名コールするなり、
右手に持った聖剣に雷光が宿る。
ここは七割くらいのパワーで撃ちましょう。
「ハアァア……アァァァッ……アァッ!!」
私は気勢を上げて、
雷光を宿らせた聖剣を前方に突き出した。
それと同時に聖剣の切っ先から、
神速の速さで稲妻が放出された。
次の瞬間、うねりを生じた薄黒い衝撃波と稲妻が真正面から衝突した。
耳朶を打つ爆音が周囲に鳴り響く、
私の放った稲妻がマリーダの放った薄黒い衝撃波を
完全に打ち消して、後方に陣取るマリーダに迫った。
「ま、マズいわ! ――ノワール・バリアァッ!!」
危機を悟ったマリーダは、
右手を前に突き出して、咄嗟に漆黒の壁を張った。
通常の攻撃や魔法攻撃なら防げたであろう。
だが迫り来る稲妻は、
通常どころか、最強クラスの威力であった。
稲妻が漆黒の壁に衝突すると、
何秒かタイムラグが生じたが、
気がついた時には、漆黒の壁に放射状の罅が入り、
物凄い爆音と爆風が起きて、
その衝撃でマリーダは後方に激しく吹っ飛んだ。
「あああ……あああぁっ……」
稲妻の直撃こそ避けれたが、
その余波だけでも、マリーダは瀕死の状態となった。
もし直撃していれば、
その瞬間にマリーダは死んでいただろう。
声にならない声を上げるマリーダ。
身体中に焼け付くような激痛が走り、
腕や指を動かすので精一杯であった。
「……決まったわね」
勝利を確信するリーファ。
だが次の瞬間、彼女の意識が朦朧としてきた。
どうやら想像以上に魔力を消耗したようだ。
気がつけば、彼女の張った封印結界も解除されていた。
だがリーファは歯を食い縛って、
薄れゆく意識を無理やり叩き起こした。
「……この勝負、私の勝ちよっ!」
体力と魔力が消耗した状態で、
彼女は勝ち誇るようにそう勝利宣言した。
だが正直、彼女も限界に近かった。
そしてリーファとマリーダの戦いを目の当たりにした観衆達は、
息を潜めた状態で、二人をじっと見据えていた。
こうして因縁のラバーマッチは、
戦乙女リーファの勝利という形で決着が着いた。
次回の更新は2024年10月2日(水)の予定です。
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