第二百六十四話 因縁のラバーマッチ(後編)
-----主人公視点---
「――ダブル・ストライクッ!」
「せいっ! ――トリプル・ドライバーッ!!」
私達は、再度、剣技を繰り出して、
幾度も剣を切り結んだ。
「……やりますわね」
「貴方もかなり成長したわね」
私達はそう言葉を交わして、
剣と盾を構えながら、お互いに睨み合う。
やはりマリーダの剣は鋭い事は鋭いけど、
何処かに荒さがあるわね。
でも剣術は荒削りでも、
漆黒の意思で私を全力で倒しに来ている。
この点だけは絶対に油断してはいけないわ。
……でも全体の動きは拙い部分も多い。
これは真正面から戦うより、
絡め手を使った方が良さげね。
「……」
「……」
お互いに無言のまま、
視線を交わしながら、摺り足で間合いを取る。
向こうも決め手を欠いてるようね。
ならばここは相手に合せる必要はない。
隙を作り次第、一気にたたみ込むわ。
「……何やら考え込んでるようですわね」
「……」
「あら? 私とは口も聞きたくない。
アナタらしい反応ですわ」
「……」
「まあいいわ、ならばこちらから行かせてもらうわ!」
マリーダはそう言って、
左足で地を蹴って、間合いを詰めてきた。
「――ヴォーパル・ドライバーッ!!」
マリーダがまた剣技を放ってきた。
良し、好機だわ。
私はそう思いながら、
左足で地を蹴り、左にサイドステップした。
「あっ……」
間抜けな声を漏らし、バランスを崩すマリーダ。
やはり私の見立て通りね。
能力に頼り切っていて、
全体的な動きはまだまだ未熟。
だからこのような不規則な動きに弱い。
でも悪いけど、容赦はしないわっ!
そして右脇腹ががら空きよ。
ここは攻めさせてもらうわ!
「――シールド・ストライクッ!!」
「が、がふっ!!」
私は左手に持った「幻魔の盾」で、
マリーダの右脇腹を強打した。
見事な肝臓打ちが決まり、
マリーダの動きが一瞬止まる。
良し、ここからが本番よ!」
「ランディ、行って!!」
「了解したっ!」
「ニャオン! な、何をする気ニャン!?」
私の掛け声と同時にランディが四本足で地を掛けて、
空中に浮遊する猫妖精目掛けて突撃する。
「――ハイパー・タックルッ!」
「ニャ、ニャ、ニャオオオンッ!!」
ランディのタックルが見事に命中。
これで相手の守護聖獣の動きは封じれた。
ならばこちらも全力を尽すのみ!
「――シールド・ストライクッ!!」
「あっ、あああぁぁぁ!!」
今度は光の闘気を「幻影の盾」に宿らせて、
マリーダの顔面を強打。
盾を持つ左手に確かな感触が伝わり、
次の瞬間、マリーダの鼻から血が迸った。
「く、くっ……小細工を弄して!!!
盾で顔面を強打なんて酷いですわ!」
「……これは戦いよ。
卑怯も何もないわよっ!」
ここで私は再び「幻魔の盾」を背中に背負って、
空いた左手でマリーダの右脇腹を再度狙った。
「さ、させるかぁぁぁっ!」
マリーダも気力を振り絞って、
右肘を下げて、エルボーブロックの体勢を取る。
でもここまでも想定内の動きよ。
私は左手を手元に引き戻して、
身体を内側に捻って、
引き戻した左手を真正面に突き出した。
「が、が、がふぅぅぅっ!!」
フェイントを存分に利かせた左ストレート。
それが綺麗にマリーダの顎の先端に命中。
その衝撃でマリーダは思わず腰を落とした。
良し、ここから一気に……!?
「あああぁぁぁっ! あああぁっ!」
突如、マリーダが野獣のように吠えた。
そのせいで私も一瞬、反応が止まった。
……大丈夫、ここは攻めるべきよっ!」
「――ヴォーパル・ドライバーッ!!」
私は前へ出て剣技を放つが、
それと同時にマリーダが後方に跳躍した、。
まさか顎を打たれた状態でこんな動きを……1?
「――ハイ・カウンターッ!!」
「なっ……あぁっ!?」
マズい、逆にカウンターを合わせて来た。
ここはサイドに……いや後ろに下がるべきね。
私は咄嗟にバックステップするが、
マリーダの漆黒の魔剣が水平に薙ぎ払いを繰り出した。
「あ、あああっ!?」
完全に回避は出来ず、
魔剣の切っ先で私の首筋が斬られた。
……大丈夫、頸動脈はヤラれてないわ。
ここは素直に回復すべきね。
無詠唱……は心許ないから、短縮詠唱で行くわ。
「――ディバイン・ヒールッ!!」
私は咄嗟に短縮詠唱で、上級回復魔法を唱えた。
それによって、切り裂かれた私の首筋の傷が瞬く間に塞がれた。
……良し、これで大丈夫っ! あっ……。
「ハアァアッ!! ――シャドウ・フレアァッ!!」
ここで魔法攻撃に来るとは……。
回避は無理ね。
ならば対魔結界を張るしかないわ!
「――ライト・ウォールッ!!」
私は咄嗟に光属性の対魔結界を張った。
半瞬後、闇色の炎が光の壁に命中した。
爆音と共に光の壁が激しく揺れた。
防げたか……。
いやよく見ると放射状の罅が入ってるわ。
これは耐えきれないわ。
「――フライッ!!」
そこで私は飛行魔法「フライ」を発動。
闇色の炎が光の壁を破壊する中、
空中に浮遊して、完全に回避した。
次の瞬間、後方から爆音が鳴り響く。
それと同時に私は地面に着地する。
マリーダ、貴方は本当に強くなったわ。
漆黒の意思で私を全力で狩りに来ている。
最早、貴方は性悪な貴族令嬢じゃない。
私を……戦乙女を倒し得る存在よ。
ならば私も全力でそれを阻止するわ。
「――神の肉体っ!!」
私は先日、習得した職業能力を発動させた。
その瞬間、私の全身が燃えるよな熱さに包まれた。
「ぐ、ぐ、ぐっ……」
も、物凄い力と魔力が溢れてくるわ。
それと同時に酷い頭痛が起こり、
身体中が火照るような熱に包まれる。
成る程、確かに体温と血圧が上昇したようね。
この状態は長く持って五分が限界でしょうね。
でも身体中から力と魔力が漲る。
まさに諸刃の剣ね。
だけどこの状態ならば、きっとマリーダにも勝てる。
だけどやるからには確実に止めを刺す。
「アァァァ………アァァァッ!!」
私は猛獣のような雄叫びを上げて、
右手に聖剣を持った状態で、
全力で地面を蹴った。
……持って頂戴、私の肉体。
少なくとも眼前の女に勝つまでは……。
兎に角、全身全霊でマリーダを叩き潰す。
私はそう試みに刻み、全力でマリーダに迫った。
次回の更新は2024年9月28日(土)の予定です。
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