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第二百六十一話 伝家の宝刀(後編)



-----三人称視点---



 開戦から数時間。

 猫族ニャーマン軍の予想外の活躍で、

 連合軍が有利に戦いを進めていたが、

 連合軍の右翼部隊。


 騎士団長代理レバン率いる連合軍の第四軍。

 サーラ教会騎士団は、

 猫族ニャーマン軍との共闘を拒み、

 敵の左翼部隊の攻撃で陣形を崩しつつあった。

 本陣でその事実を聞いた若き総司令官は激高した。


「サーラ教会騎士団の堅物どもめ!

 ここに来て要らぬ選民意識を出すとはっ!!」


「……彼等は良くも悪くも敬虔なサーラ教徒。

 獣人との共闘を拒むのも無理のない話です」


 軽くフォローを入れる副官レオ・ブラッカー。

 だがラミネス王太子の怒りは収まらなかった。


「それは時と場合によるであろう!

 このような状況で、あくまでエゴを貫くか!」


「閣下、お怒りは分かりますが、

 恐らく閣下が共闘するように命じても、

 彼等は命令に従わないでしょう」


「……嗚呼、この際、第四軍は好きに戦わせよう。

 但しニャールマン司令官には、

 右翼部隊からは手を引き、

 左翼、中央の部隊に合流するように伝えよ!」


「……御意っ!」


 そしてラミネス王太子の指示が伝わり、

 連合軍の陣形に変化が生じた。

 これによって連合軍の右翼部隊が崩れ始めた。


 だが猫族ニャーマン軍は、

 ラミネス王太子の指示に従い、

 左翼、中央部隊に合流して、

 その後も執拗に魔法攻撃を仕掛けた。


 それによって連合軍はまた優勢に戦いを進めたが、

 皇帝ナバールは、連合軍の右翼部隊の異変に気付いた。


「……敵の左翼、中央に比べて、

 右翼部隊が手薄いな」


「……ええ、伝令兵の話によると、

 敵の右翼部隊と猫族ニャーマン軍と上手く連携出来ておらず、

 その後、猫族ニャーマン軍が右翼から引き上げたようです」


 と、総参謀長ザイド。


「成る程、その理由は分かるか?」


「明確な原因は分かりませんが、

 敵の右翼部隊の主力はサーラ教会騎士団のようです。

 そして昨日、マリーダ嬢が騎士団長を一騎打ちで倒しました。

 なので今の教会騎士団は、代理の者が率いてるでしょう」


「そうか、どうりで動きが鈍い訳だ。

 ならばこの場は流れに乗って、

 敵の右翼部隊を攻めたてよ!

 タファレル元帥にそう伝えよ!」


「御意!」


 その後、タファレル元帥率いる帝国軍の第六軍は、

 手薄になった連合軍の右翼部隊へ大攻勢を掛けた。


 特に旧バズレール元帥の残存部隊は、

 亡き元帥の弔い合戦と言わんばかりに、

 溜まり溜まった鬱憤を晴らすべく、

 闘志をむき出しにして、戦い続けた。


「糞っ……退くな、退くな!

 我等は誇り高きサーラ教会騎士団だ!

 亡きラインベルグ団長の為にも、

 我等がここで踏ん張るのだっ!!」


 騎士団長代理レバンが激しく吠えた。

 それによって、

 サーラ教会騎士団の騎士達も賢明に戦うが、

 いかんせん戦力差がありすぎた。


 いくら士気が高かろうが、

 闘志が漲っていても、

 単純な戦力差で押されに押された。

 

 一時間に及ぶ接近戦クロス・ファイトの結果、

 サーラ教会騎士団の戦力は、

 二万から一万五千まで減っていた。


「ふん、サーラ教会騎士団の連中もこれで少し懲りたろう。

 我が本隊から一万人の増援部隊を右翼に送れ。

 そして全体的に陣形を押し上げて、

 敵と真っ正面から戦うように全軍に通達せよっ!」


「はっ」


 若き指揮官の指示に副官は小さく頷く。

 その後、ラミネス王太子の本隊から、

 一万の増援部隊が右翼部隊に派遣された。


 それを確認するなり、

 タファレル元帥は、第六軍を少し後退させた。

 こうして両軍共に陣形が再び整った。

 

「よし、こうなれば気力の勝負だ。

 左翼、中央、右翼の部隊を前進させよ。

 そして頃合いを見て、

 我が本隊、そして魔女帝の部隊から、

 増援を送り、力で連合軍をねじ伏せよっ!」


 皇帝ナバールもここが勝負所とみて、

 背水の陣の覚悟で大攻勢に転じた。


「こちらも負けるな!

 敵軍、同様に全部隊を前進させよっ!」


 同様にラミネス王太子も覚悟を決めた。

 そしてこのワールスリー地方で、

 帝国軍と連合軍による血生臭い戦闘が繰り広げられた。


 だがこの時も連合軍の猫族ニャーマン軍が活躍した。

 猫族ニャーマン軍は、

 二万五千近くの戦力を左翼、中央、右翼に

 それぞれ八千匹以上の猫族ニャーマンを配置して、

 猫魔導師ねこまどうし部隊が中心となり、

 敵部隊に目掛けて、全力で魔法攻撃を放つ。


 その勢いは凄まじかった。

 四大属性の魔法攻撃を連発。

 更にはゴーレムを生成して突撃。


 また敵の騎兵隊に対しては、

 地面を氷結化、泥沼化させて、

 足場を奪い、相手が身動き出来ない状態で、

 躊躇する事なく、魔法攻撃を放ち続けた。


「ニャハッハ、圧倒的ではないか、我が軍は……」


「ニャールマン司令官閣下。

 今の所は順調ですが、

 長期戦になれば味方が魔力切れになるでしょう」


 と、副官ニャーモンが進言する。

 だがニャールマン司令官は、強気の姿勢を貫く。


「そのような事態に備えて、

 各部隊の魔法剣士に「魔力マナパサー」させよ。

 また一部の兵士や魔導師に魔タタビを与えよ。

 そうすれば、戦場における恐怖を消えるニャン」


「司令官閣下、戦場における魔タタビ投与は、

 リスクが大きいです……」


「そんな事は私も百も承知だ。

 だがこの戦いに勝てば、

 我が猫族ニャーマン軍の名声は上がり、

 連合軍における立場も強化されるでニャろう。

 副官、ここが勝負時しょうぶどきニャのよ」


「……分かりました」


 その後、猫族ニャーマン軍は、

 「魔力マナパサー」や魔力回復薬マジック・ポーションで魔力を補充。

 更には魔タタビを使用して、凶暴化した状態で、

 接近戦や魔法攻撃を次々と仕掛ける。


「ニャ、ニャ、ニャァッ!」


「撃つニャ、撃つニャ、ドンドン撃つニャ!」


 暴れ回る猫族ニャーマン軍。

 だが帝国軍も前線に防御役タンクを配置。

 そして中衛に回復役ヒーラーや魔導師を置いて、

 回復ヒール、また対魔結界やレジストで、

 暴れ狂う猫族ニャーマン軍の猛攻に耐えた。


 そして一進一退の攻防が続いて、

 両軍、決定打を欠いた状態となり、

 気がつけば夕方の十六時が過ぎていた。


「……膠着状態に入ったな。

 良し、ならばいよいよ伝家の宝刀の出番だ。

 漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)を前縁に投入せよ!」


「御意」


 こうして皇帝ナバールは、

 伝家の宝刀――マリーダを最前線に投入した。


 それに呼応するように、

 ラミネス王太子もリーファとその盟友。

 護衛部隊を中央部隊に配置した。


 果たしてどちらの伝家の宝刀が勝つか。

 皇帝や王太子だけでなく、

 他の将軍や司令官が見守る中、

 リーファ達、そしてマリーダも馬に乗りながら、

 ゆっくりと最前線の戦場を駆けた。


次回の更新は2024年9月18日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 サーラ教会、結構面倒ですね。 だけど、そこが突破口にはならずならよかったです。 そして、伝家の宝刀が投入。入刀。 これにて3度目(?)の姉妹対決が始まりそうですね 三…
[良い点] いよいよリベンジ戦!果たしてどうなるのか楽しみにしています!
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