第二百五十六話 マリーダ対レイラ(後編)
-----三人称視点---
「――せいっ!!」
「はああぁぁぁっ!!」
何度も何度も二人は剣を振るい切り結んだ。
激しい斬撃の応酬を繰り広げる二人。
一見すれば、両者の力は拮抗しているように見えた。
だが実際は違った。
何度も切り結んだ結果、
レイラはマリーダの剣筋に慣れ始めた。
剣の威力自体は強い、剣速もある。
だが一つ一つの動作を見れば、
無駄な動きも多くて、隙も時々見せていた。
――どうやら私の読みは正しいようね。
――ならばこれ以上、斬撃を繰り返しても
――体力の無駄でしかないわ。
――ならばこちらから仕掛けるまでよ!
「――ヴォーパル・ドライバーッ!!」
マリーダが僅かに隙を見せた瞬間に、
レイラは渾身の突きを……放つように見せた。
条件反射的に薙ぎ払いを放つマリーダ。
だがレイラは突きを放つ前に、
右腕を手元に戻して、
マリーダに対してフェイントをかけた。
「なっ!?」
思わず体勢を崩すマリーダ。
その隙をレイラは見逃さなかった。
「――イーグル・ストライクッ!」
「き、きゃあああっ!?」
レイラの袈裟斬りがマリーダの左肩から、
右腰骨に向かって、綺麗に決まった。
致命傷ではないが、確実にダメージは与えた。
「くっ……負けないわっ!!
――ダブル・ストライクッ!!」
「――甘いわっ!!」
レイラはマリーダが反撃する前に、
後ろに数歩下がって、間合いを取った。
そして左手を前に突き出して、
短縮詠唱で氷結攻撃魔法を唱えた。
「――シューティング・ブリザードッ!!」
短縮詠唱、そして速度は最速。
攻撃範囲は中規模。
その条件で放たれた凍てつく大冷気が
マリーダが立つ周囲の地面に命中した。
瞬く間に地面が氷結して、
その上に立っていたマリーダも思わずその場で転んだ。
「くっ……小癪な真似を!」
「何とでも言いなさい、勝てば良いのよ!
ハアァアァァァ、ダブル・ドライバーッ!!」
レイラは躊躇する事なく、
間隙を突いて、突きの連打を繰り出す。
最初の一撃はマリーダの腹部に命中。
「がはあァァァッ!!」
それと同時にマリーダの腹部から血が流れる。
そして次の二発目でマリーダの喉元を狙った。
「くっ……負けない、絶対に負けないわ」
マリーダはそう同じ台詞を吐いて、
凍った地面で右側に寝返りを打った。
そのおかげでレイラの突きをギリギリで回避した。
だが完全には回避できず、
レイラの白銀の長剣の切っ先で、
マリーダの左肩が鋭く突かれた。
「ぐっ……フライッ!!」
激痛に耐えながら、
マリーダは咄嗟に飛行魔法を唱えて、
真上に上昇して、窮地から逃れた。
「……アーク・ヒール」
マリーダは痛む左肩と腹部に左手を当てて、
傷口を回復魔法で綺麗に治癒した。
「どうやら私の動きの癖が読まれてるようね」
「ウン、そんな感じだね」
マリーダの左肩付近で浮遊するガーラがそう言った。
「ガーラ、貴方は気付いていたの?」
「ウン、まあね。 マリーダちゃんは強いけど、
まだ戦い慣れしてない。
というか剣術とかでも我流の動きが多くて、
所々で隙を見せているんだよね。
それを相手に上手く突かれた感じだね」
「……そういう事は早く言って頂戴」
「ゴメン、ゴメン。 でも今まではそれで上手く行ってたし、
わざわざ言う必要もない。
と思ってたけど、そんな場合じゃないようね」
「ええ、ガーラ。 端的に聞くわ。
どうすればあの女騎士に勝てるかしら?」
「嗚呼、それなら「能力覚醒」と「魔力覚醒」を重ね掛けして、
魔法攻撃でごり押しして、
得意の剣技を使えばいいよ
「……」
本当に只のごり押しね。
と思いつつも良い代案がなかったので、
マリーダはガーラの提案に従う事にした。
「魔力覚醒っ!!」
まずは「魔力覚醒」を使う。
これでマリーダの魔法能力が倍加される。
「――能力覚醒っ!!」
続いて「能力覚醒」を発動。
これでマリーダの能力値は一気に跳ね上がった。
「――どうせならここで新技を試してみたいわ」
「そうだね、戦乙女戦を想定して、
それを試すのも有りと思うよ」
と、ガーラ。
「その忠告に従うわ。
ハアァア……アァァァッ!!」
マリーダは眉間に皺を寄せて、
全身から魔力を解放する。
そしてその魔力を闇の闘気に返還して、
右手に握る漆黒の魔剣の剣身を覆わせた。
「――ダークネス・ブレイクッ!!」
マリーダは右手に持った魔剣を地面に向かって振る。
剣が振り下ろされると同時に、
闇を伴った真空波が発生して、
大音声と共に地面を綺麗に両断した。
「こ、これはヤバいスローン。
レイラさん、逃げるべし、逃げるべし。
ここは上空に逃げよう!」
「……そうね、これはヤバいわね。
でも上空なら安全ね。 ――フライッ!!」
レイラは咄嗟に飛行魔法を唱えて、上空に避難した。
闇を伴った真空波からは間一髪で逃げれたが、
それを待ち受けていたマリーダは――
「――シャドウ・フレアァッ!!」
左手を前に出して、闇色の炎を高速で放射した。
「魔力覚醒」に加えて「能力覚醒」を併用した魔法攻撃。
レイラはその一撃のヤバさを瞬時で見極めた。
「くっ、ライト・ウォールッ!!」
咄嗟に光属性の耐魔結界を張るレイラ。
次の瞬間、闇色の炎が光の壁に着弾する。
すると凄い爆音と共に光の壁に放射状の罅が入った。
「レイラさん、これじゃ防ぎきれない。
ここは騎士の職業能力を使うスローンッ!」
「わ、分かったわ! ディバイン・シールドッ!」
レイラがそう叫ぶと、
彼女の周囲に光り輝く障壁が張り巡らせられた。
そして光の壁を打ち破った闇色の炎がその障壁に命中。
するとその障壁も闇色の炎も綺麗に消え失せた。
騎士の職業能力『ディバイン・シールド』。
この能力によって生み出された障壁は、
一度だけだがどんな物理攻撃も魔法攻撃も無効にする。
効果としては戦士の職業能力「パーフェクト・ガード」と似ていた。
しかし蓄積時間は四十五分もあるので、
この戦いでもう一度使う機会は訪れないだろう。
「……ギリギリ耐えたわね」
「でも敵はまだ体力も魔力もたっぷり残っているよ。
これは色んな意味で厳しいスローン」
「そうね、大人しく白旗を上げた方が身の為ね。
でも私はそんな選択肢は選ばない。
あの女に、帝国に屈するぐらいなら名誉ある戦死を選ぶわ」
そう言ってレイラは上空に浮遊したまま、
白銀の長剣の柄を右手で強く握りしめた。
いや死んだら全て終わりでしょ?
スワローンはそう思ったが、
この場では彼女の言葉に合せる事にした。
「そうだね、レイラさんならきっと出来るよ」
「ええ、勝てなくてもいい。
でも惨めな投降や命乞いは御免よ。
だから私はサーラ教の信徒として、
恥のない最後を迎えてみせるわ」
レイラのこの一言は、
ある意味何処か辞世の句のようであった。
だが当人は何処か満足げな微笑を浮かべていた。
次回の更新は2024年8月31日(土)の予定です。
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