第二百五十三話 リーファ対バズレール(後編)
---主人公視点---
さて、お互いに地上に降りての戦いになりそうだけど、
どうやら相手は氷結魔法が得意のようね。
ならばこの足場の悪い状態で、
正面から戦いを挑むのは愚策よね。
でもそれならそれで手はあるわ。
『――『零の鼓動』」
私は職業能力・『零の鼓動』を使用した。
これで一定時間、無詠唱で魔法を使えるわようになったわ。
でも強化魔法や能力の有効時間は残り三分未満。
だったらこの三分間で勝負を決める。
私は左手で印を結んだ。
無詠唱で発動させたのは、飛行魔法「フライ」。
だが跳躍するというよりかは、
地面スレスレを浮遊する感じで前へ進んだ。
「……無詠唱で魔法を使っているのか!
しゃらくさいっ! ――アイス・バルカンッ!」
バズレール元帥も氷結魔法で反撃してきた。
そこで私は一旦、地面に着地して、
右側にサイドステップして、氷弾を回避。
その状態で再び無詠唱で飛行魔法「フライ」を発動。
私は地面スレスレを飛行というよりかは、
浮遊する感じで間合いを一気に詰めた。
お互いの距離が縮まり、有効射程圏内に入る。
ここが勝負所よ!
「――戦乙女の波動」
私は左手を前にかざして、
技・『戦乙女の波動』を発動させた。
『戦乙女の波動』は対象者の強化技、
強化魔法を強制的に解除させる技。
私の左手から白い波動が迸り、前方のバズレール元帥に命中。
「くっ……魔力が……闘気が消え失せた!!」
バズレール元帥の支援効果と「ソウル・リンク」が強制解除される。
これで能力的には、こっちが圧倒的に勝っている状態よ。
そこで私は地面に着地して、
ぬかるんだ地面を両足で蹴って、間合いを詰めた。
だがその前にバズレール元帥が左腕を前に突き出して、
ぬかるんだ地面を両足で踏ん張りながら――
「――大氷結っ!!」
短縮詠唱。
だが速度は速い、そして攻撃範囲は狭い。
その条件で放たれた凍てつく大冷気の波動がこちらに向かって来た。
この状況で咄嗟に上級以上の魔法を唱えるとは……。
でも焦る必要はないわ。
ならばこちらは火炎属性魔法で迎え撃つわ。
「――フレアバスターッ!!」
私も左手を前に突き出して短縮詠唱を唱える。。
次の瞬間、私の左掌から眩く輝いた光炎が放出された。
聖王級の火炎攻撃魔法。
そして大冷気と光炎が真正面からして、激しくせめぎ合う。
魔力と魔力によるせめぎ合いが起こる。
だが私は「ソウル・リンク」に加えて「能力覚醒」を発動した状態。
対するバズレール元帥は、
ついさっき「ソウル・リンク」と強化能力を解除された状態。
故に地力の魔力では私が勝っていた。
だがこちらも短縮詠唱。
しかも魔力の練り上げが弱かった為か。
完全には打ち破る事は出来ず、
結局は放射された大冷気を打ち消す事が精一杯だった。
でもなんだかんだでレジストに成功。
周囲の地面は、光炎の影響で蒸気を発していた。
急に場の空気が上昇した為、
ぬかるんだ地面も軽い熱を帯びていた。
「くっ……ならばこれならどうだっ!!」
バズレール元帥が咄嗟に翠玉色の戦斧を持った右腕を上げた。
技を使う。
あるいは斧を投擲するつもりね。
だがそうはさせないわ。
その前にその動きを封じる。
「―――秘剣・『神速殺』っ!!」
私は腰を落とした状態で、
一度聖剣を剣帯の鞘に収めてから、
気勢と共に聖剣を素早く抜剣した。
そして全力の速度を持って、
渾身の居合い斬りを切り出した。
「ぐ、ぐ、ぐあああぁぁぁっ!」
腕を切断するには至らなかったが、
腕の神経を切断するには充分な一撃だった模様。
バズレール元帥は悲鳴を上げて、
右手に持った翠玉色の戦斧を地面に落とした。
良し、これで勝機が見えたわ。
ならば一気に勝負を決める!
私は左足で強く地を蹴って、前へ素早く飛び込んだ。
『戦乙女の舞』ッ!!」
私はそう叫びながら、
左構え型から綺麗な左ストレートを放つ。
半瞬後、私の左手に確かな感触が伝わり、
バズレール元帥の鼻が折れ曲がり、鼻血が飛び散った。
でもこれで終わりじゃないわ。
私はすかさず左ボディフックで、
バズレール元帥の右脇腹を強打。
「が、がふっ……」
見事な肝臓打ちが決まり、
バズレール元帥が身体を九の字に曲げた。
そこから私は身体を捻って、
渾身のローリング・ソバットを繰り出した。
次の瞬間、私の左足が眼前の元帥の顎の先端を捉えた。
確かな感触が左足にも伝わり、
それと同時にバズレール元帥が口から吐血した。
左ストレートで鼻を。
左ボディフックで肋骨を。
そしてローリング・ソバットで顎の骨を砕いた。
この時点で勝敗はほぼ決まった。
だが私は油断せず、止めを刺しにかかった。
「ハアァア……アァァァッ!! 『ゾディアック・フォース』!!」
私は魔力を解放して、職業能力『ゾディアック・フォース』を発動させた。
そして左腕に全魔力の半分ほどの魔力を注いだ光の闘気を宿らせる。
それから前へダッシュして一気に間合いを詰める。
「――グランド・クロスッ!!」
私は止めを刺すべき、聖王級の剣技を放った。
十の字を描くように、
まずは薙ぎ払いを放ち、眼前の元帥の腹部を横に切り裂いた。
そこから聖剣を振り上げて、
バズレール元帥の頭部に縦斬りを放った。
だがバズレール元帥が僅かに身体をすらした為、
縦斬りで頭部を切り裂く事は出来なかったが、
代わりにバズレール元帥の頸動脈を見事に切り裂いた
「が、がはぁぁぁっ……ああぁぁぁっ!?」
悲鳴と共にバズレール元帥の首筋から鮮血が迸り、
周囲の地面にその血飛沫が飛び交う。
それと同時にバズレール元帥がもんどり打って、
地面に背中から倒れ込んだ。
この時点で私の勝利が確定した
そして私はゆっくりと歩み寄り、
見下ろす形でバズレール元帥を見据えた。
「こ、……こ、殺せっ……」
最後の気力を振り絞り、
バズレール元帥はそう一言だけ告げた。
この時点で彼は虫の息。
だけど止めを刺さなければ、
誰かが彼に回復魔法をかけるかもしれない。
今回は封印結界を張ってない状態。
だがこの状態で止めを刺すのは、少し気が引けるわ。
しかし幸いな事にその機会は失われた。
渾身の一撃で首筋を切りつけられたバズレール元帥は、
血の泡を何度か吐いてから、
声にならない声を上げて、両眼を閉じた。
そして顔から生気が抜けて、そのまま息絶えた。
「リーファ殿、貴殿の勝利だ」
「ポン」と音を立てて、
守護聖獣ランディが実体化して、
私の左肩に乗って、そう告げた。
だが私には勝利による喜びはなく、
何処か虚しい気分が胸に広がり始めた。
「……これじゃ戦闘無間地獄ね」
「リーファ殿、何か言ったか?」
「ううん、ランディ。 何でもないわ。
それじゃ後は残敵掃討に移りましょう」
私はそう言って、周囲の味方に目配せした。
それと同時に味方による残敵掃討が始まったが、
私は晴れない気分のまま、
無感情で逃げ回る敵兵を斬り捨てていった。
だが戦いはまだ終わりじゃない。
正直、今は虚しい気分で一杯だが、
私もこんなところでは死にたくない。
そして私は必ずあのマリーダに勝ってみせるわ。
次回の更新は2024年8月21日(水)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。