第二百五十話 堅忍果決(後編)
---三人称視点---
「ダブル・ストライクッ!」
「ヴォーパル・ドライバーッ1」
「――ハイパートマホークだワン!」
「パワフル・カッターだわさ!」
リーファ達は馬に乗った状態で、
剣技や武器スキルを放って、
前方のバズレール元帥の部隊を次々と撃破して行く。
リーファ達は、ぬかるんだ道で、
馬を走らて、周囲に泥をはじき、ひたすら前へ進む。
そして戦乙女の護衛部隊の騎兵が後に続く。
その中には騎士フローラと騎士バジーリオの姿もあった。
二人は自らの意思で、
戦乙女の護衛部隊に志願していた。
だが二人が想像していた以上に、
戦乙女とその盟友の戦いっぷりは凄まじかった。
手にした武器を縦横に振るい、
ロミーナに至っては、馬を走らせたまま、弓をつがえて、
馬上から弓矢を放ち、眼前の敵兵を射殺し続けた。
「これが戦乙女とその盟友の力なのか!」
「バジーリオ、本当に凄いわね。
だから私達は、くれぐれも足を引っ張らないようにしましょう」
「フローラ、了解した」
更に猛攻は続き、
戦乙女とその護衛部隊。
そしてバイン、バウアー両将軍が率いた三万五千の部隊も
リーファ達が撃ち漏らした敵に確実に止めを刺す。
「流石は噂に名高い戦乙女だ。
どうやらその実力は本物のようですな」
「嗚呼、バイン将軍。
だが油断は大敵、とりあえず最前線は、
リーファ殿に任せて、
我々は中衛で様子を見ましょう」
「バウアー将軍、その方針で行きましょう!」
両将軍はそう言葉を交わして、
自分達は中衛に陣取りながら、
周囲の部下達を前進させる。
また自分達の周囲の護りを固めさせた。
そのような一進一退の攻防が約一時間続いた。
そして気がつけば、
バズレール元帥率いる帝国軍の第六軍は、
窮地に追い込まれていた。
「糞っ! 数の上だけでなく、
完全に向こうの勢いに呑まれているっ!」
バズレール元帥は、
鹿毛の軍馬の馬上で、忌々しげに顔を歪めた。
「元帥閣下、このままでは我が本隊も危険です。
ここは一度後退しませんか?」
そう告げたのは、
バズレール元帥の副官ビュイソンであった。
中肉中背の三十五を過ぎた中年男。
黒髪に黒い軍服姿で、
彼も同様に鹿毛の軍馬に跨がっていた。
「ビュイソン! それが出来たら苦労はしない。
私は皇帝陛下から、
三万以上の兵を任されたのだ。
それをおめおめと自分だけ逃げれるものかっ!?」
「しかしこのままでは、
本隊が攻められるのも時間の問題です」
副官ビュイソンは、あくまで冷静であった。
「その時は仕方あるまい。
私も武人だ、玉砕覚悟で戦乙女と戦うさ」
バズレール元帥は、
そう言って、背中に背負った翠玉色の戦斧。
ミスリル・アックスの柄を左手で触った。
「成る程、閣下がそこまで覚悟をしているのなら、
私も腹を括りましょう。
バズレール元帥閣下、私は最後まで御供します」
「嗚呼、だがまだ負けた訳ではない。
兎に角、少しでも敵の戦力を削るぞ!」
「御意っ!」
こうしてバズレール元帥と副官ビュイソンは覚悟を決めた。
その熱意と決意が周囲の兵士達にも伝染する。
だがリーファ達は、
そんな彼等の決意を打ち砕くべく、大攻勢に出た。
「ランディ、『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だ、リンク・スタートォッ!!」
「フェーレ、ボク達もソウル・リンクするわよ!
行くわよぉぉぉっ!! 『ソウル・リンク』ッ!」
「了解だよん、リンク・スタートォッ!!」
『ソウル・リンク』発動させて、
リーファとエイシルは身構えた。。
そして馬上から渾身の一撃を繰り出した。
「行くわよ! ――ライトニング・スティンガー!!」
リーファは、馬上から神帝級の剣技を放った。
リーファの聖剣の切っ先から、
目映いビーム状の光線を放たれた。
ビーム状の光線は、
ぬかるんだ地面を抉りながら、
神速の速さで大気を裂く。
そしてビーム状の光線は、
竜巻のように渦巻きながら、敵の前衛部隊に命中。
一瞬遅れて、周囲に耳朶に響く凄まじい轟音が響き渡る。
「ギ、ギャァアァァ……アァァァッ!!!」
「な、なんだぁ! コレは……ウギャアアアァァァッ!!」
リーファの放った一撃は、
時間にして僅か一分足らずで、
敵集団に大打撃を与えた。
この一撃だけで、
バズレール元帥の部隊の二百名以上が一瞬にして、
その命を絶やし、彼等を死体へと変貌させた。
だがこれで終わりではなかった。
追い打ちをかけるべく、
エイシルも同様に馬上から、
両手に持った両手杖を構えて、呪文を唱え始める。
「我は汝、汝は我。 母なる大地ハイルローガンよ!
我は大地に祈りを捧げる。 母なる大地よ、我が願いを叶えたまえ!」
呪文が紡がれ、エイシルの周囲に強力な魔力が渦巻く。
するとエイシルの周囲の大気が激しく震えた。
だがエイシルは無表情で、呪文を更に唱えた。
「天と大地に我が身を捧ぐ!
天よ、大地よ、我に力を与えたまえっ!!」
そしてエイシルは、
両手杖を力強く握り、頭上に掲げた。
攻撃する座標地点は、
リーファが攻撃した敵の周辺。
それから両手杖を頭上に掲げながら、
エイシルは大声で叫んだ。
「――サイコ・ブラスターッッ!!」
次の瞬間、エイシルの両手杖の先端から、
大気を震わせるほどの強力な念動波が迸った。
聖王級の念動属性の攻撃魔法。
その念動波が予定通りの地点に着弾する。
それと同時に帝国兵の断末魔のような悲鳴が周囲に響き渡った。
この念動波によって、
帝国兵の大半は、一瞬にして脳を血管を切られて即死。
だがある意味その方がまだ良かったかもしれない。
こういう時は死にぞこなった方が更に悲惨である。
念動波の衝撃で、両眼が潰れた者。
その状態で更に両耳の鼓膜を破られた者。
彼等は声にならない声を上げて、
ぬかるんだ地面で、
陸から上がった魚のように、のたうちまわった。
このリーファとエイシルの連続攻撃だけで、
僅かの間に、五百名近い帝国兵が死亡及び戦闘不能となった。
これを後方で観ていたバズレール元帥は、
ごくりと喉を鳴らせて、一言漏らした。
「これは悪夢……か。
これが戦乙女とその盟友の力なのか!」
そしてバズレール元帥は、
副官のビュイソンと共に馬上から、
前方でのたうち回る帝国兵の姿をただ呆然と見ていた。
次回の更新は2024年8月10日(土)の予定です。
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