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第二百四十九話 堅忍果決(前編)


---三人称視点---



 ワールスリーの戦いが続く中、

 他のエリアでも連合軍の帝国軍は戦い続けた。


 帝国の北部エリアに、

 上陸したヴァリントン将軍率いる五万の部隊は、

 敵将エマーンが率いた竜騎士ドラグーン部隊。

 また各種のドラゴン部隊とは、

 無理に交戦せず、防衛ラインを上げ下げしながら、

 近隣の村や町を平定して、地盤を固める。


「兵士諸君、現時点では敵と無理に交戦する必要はない。

 我々の目的は、あくまで陽動及び攪乱だ。

 だが時期が来れば、我等も南下するぞ。

 それまで兵力と体力を温存して、戦況を見据える」


 このようにヴァリントン将軍は、

 決して無理はせず、戦況を見守った。

 対する帝国軍のエマーン将軍も無理に、

 連合軍と戦う事はなく、

 自軍の防衛エリアを護る事に専念した。


 一方、グレイス王女と騎士団長エルネス率いる連合軍の第二軍は、

 帝国の西部エリアへ攻め込んでいたが、

 苦戦を強いられていた。


 厳密に言えば、最初の頃は優勢であった。

 何せ数の上では連合軍の第二軍は、

 帝国軍の第三軍を大きく上回っていた。


 だが帝国軍の第三軍の指揮官ハーン元帥。

 そしてレジス将軍は、焦る事なく、

 ラッカライム砦を拠点にして、防戦に徹した。


 そのような攻防戦が続き、

 帝国軍の第三軍の戦力が約三割減少したところで、

 ハーン元帥は、「風の聖龍オルパニーア」を前線に押し出して、

 連合軍の第二軍に対して、猛反撃に出た。


 かつてグレイス王女は、

 リーファと共闘して「炎の聖龍ラグナール」を撃破したが、

 あれはあくまでリーファの協力があってこその勝利。


 グレイス王女は、優れた女性勇者じょせいゆうしゃだが、

 彼女も全知全能という訳ではない。

 勿論、この状況下でも彼女と騎士団長エルネスは、

 兵士達を叱咤激励して、勇敢に戦った。


 だがいくら戦力があっても、

 相手が聖龍では、彼女等としても打つ手がなかった。

 少なくともグレイス王女一人では、聖龍に勝てない。


 せめてリーファさんが居れば……。

 グレイスは胸の中でそう呟きながら、

 得意の電撃魔法を駆使して、

 聖龍の護衛を務める敵兵を各個撃破していく。


「グレイス王女殿下。

 ここはご無理をなさらずに!」


「エルネス団長、ですがあの聖龍を倒せたら、

 この帝国の西部エリアも制圧出来るでしょう」


「王女殿下、貴方はまごう事なき勇者ゆうしゃだが、

 貴方一人では、あの聖龍に勝てないでしょう。

 それにワールスリー地方での戦いの流れを

 見極める必要があります。

 ワールスリーの戦いで、

 ラミネス王太子が勝てば、

 連合軍の勝機もでてくる筈です。

 逆にラミネス王太子が敗れたら、

 我々、連合軍は帝国に負ける可能性が高まります」


「……それはそうでしょうけど、

 エルネス団長、貴方は一体何が云いたいのかしら?」


 グレイス王女は、双眸を細めてエルネス団長を見つめた。


「我々は連合軍の加盟国であると同時に、

 エストラーダ王国の王族、側近であります。

 あえて申しましょう。

 我々、エルフ族にとって益のある戦いにすべきです」


「つまりしばらく様子を見て、

 ワールスリーの戦いの結果如何けっかいかんで、

 私達も今後の身の振り方を決める、という事ね」


「ええ。 無論、やれる範囲の事はやりましょう。

 ですが我等ばかりが損な役割を押しつけられる。

 なんて事態は回避すべきです」


「……分かったわ。

 確かに私は勇者ブレイバーである前に、

 エストラーダ王国の王族でもある。

 ここは無為せず、程々に敵を攻めつつ、

 様子を見ましょう。 団長、それでいいわね?」


「……はい」


 グレイス王女の言葉に、

 エルネス団長が控えめに頷いた。

 こうしてエレムダール大陸の命運をかける戦いの行方は、

 ワールスリー地方で戦う連合軍。

 帝国軍の将帥の手に委ねられる事となった。



---------


 ワールスリー地方で戦いが始まって、

 数時間が経過した聖歴せいれき1757年10月18日の十六時過ぎ。

 朝から降っていた雨は、少し小降りになっていたが、

 戦場となる平原地帯の地面の状態は、

 雨でぬかるんだままであった。


 この泥だらけの悪路では、

 騎兵部隊による白兵戦もままならなかった。


 なので連合軍、帝国軍共に、

 中距離及び長距離による魔法合戦を展開した。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シューティング・ブリザード』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『アークテンペスト』!!」


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 行くだワンッ!! 『サイキック・ウェーブ』」


 リーファの盟友達が馬上から、

 この天候に向いた氷属性、風属性魔法。

 また天候に左右されない念動魔法で敵を攻め立てた。


 お互い魔法攻撃。

 そして時々対魔結界や障壁バリアを駆使して、

 相手を攻めつつ、護りに入るが、

 数で上回るバイン、バウアー両将軍の部隊が、

 徐々にだが、バズレール元帥の部隊を押し始めた。


 そこでリーファも魔法攻撃に加勢する事にした。

 とはいえこの雨空あまぞら

 火炎属性魔法を使う事は避けたい。

 だが光属性魔法なら使う事も可能だ。

 そして光と炎の合成魔法ならば、

 相手に一時的とはいえ、大打撃を与えられる。


「――魔力覚醒っ!!」


 リーファはまずは職業能力ジョブ・アビリティ『魔力覚醒』を発動させた。

 これによってリーファの魔力と攻撃魔力。

 回復魔力が倍加された。


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『シャイニング・ティアラ』ッ!!」


 リーファは両手に魔力を集中させて、大声で叫んだ。

 次の瞬間、リーファの両手から、

 眩く輝いた光炎フレアが生まれて。

 前方の敵部隊目掛けて迸った。


 聖人級せいじんきゅうの光と炎の合成魔法。 

 更に「魔力覚醒」で威力が強化された渾身の一撃。


 燃え盛る光炎フレアが激しく渦巻いて、

 500メーレル(約500メートル)先の地面に着弾した。

 そして光と炎が交わり、魔力反応「核熱」が発生。


「あああっ……あああぁぁぁっ!

 熱い、熱い、熱いっ! 誰か消火してくれ!」


「そ、そんな余裕などない!

 見ろ! 今の一撃で味方が一気にやられた!」

 

 辛うじて射程圏外であった帝国の兵士が

 目の前に広がる死屍累々の光景を見ておののいた。

 たった一撃の魔法攻撃で、

 数百人に及ぶ味方が一瞬にして絶命した。

 これで動揺しない方がおかしい。


 だが当の加害者であるリーファは、

 動じるどころか、更に第二波を放とうとしていた。


「まだよ! まだこれで終わりじゃないわ!」

 我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! せいやぁっ!! 『スターライト』」


 リーファが次に唱えたのは、

 英雄級えいゆうきゅうの光属性の攻撃魔法。


 呪文を紡ぎながら、

 リーファは左腕を大きく引き絞った。

 それから眉間に力を篭めて、左腕を前方に突き出した。

 次の瞬間、リーファの左手から、

 迸った光の波動が超高速で前方の敵に追い打ちをかけた。


 その光の波動が次々と前方の敵集団に命中。

 辺りに凄まじい衝撃波が伝わり、大気が激しく揺れた。


 前方の帝国兵達が光の渦に呑まれて、

 身を引き裂くような断末魔の悲鳴が周囲に響き渡る。

 だが光の波動は、無慈悲に暴力的に渦巻き、

 帝国兵の身を焦がし、その生命力を次々と奪い続けた。


 今の連続魔法攻撃で、

 八百人に及ぶ帝国兵が死に追いやられた。

 これによって帝国軍は激しく狼狽した。

 だが流石のリーファも短期間で魔力を浪費し過ぎた。


「うっ……少し頭が痛いわ。

 流石に短期間での魔力の大量消費は危険ね」


 大量の魔力を消費して、身体を揺らすリーファ。 

 だがそれと同時にアストロスが――


「お嬢様、私の魔力を分け与えます!

 どうぞ、お受け取りくださいっ!! 『魔力マナパサー』ッ!!」


 絶妙のタイミングで、

 アストロスが魔力マナパサーを発動。

 彼は自分の三分の一の魔力をリーファに分け与えた。

 これでリーファの消費した魔力も無事に補充された。


「アストロス、いつもありがとう!」


「いえ、これも私の仕事の一環ですので!」


「リーファさん、今の攻撃で敵が動揺してます。

 今のうちにたたみ込みましょう」


 と、エイシル。


「ウン、これはチャンスだワン」


 ジェインも興奮気味にそう言う。

 だがいくらリーファ達とはいえ、

 この五人、それに数百名の護衛部隊だけで、

 敵に突っ込んで行くのは危険過ぎた。

 そうリーファが思っていると――


戦乙女ヴァルキュリア殿、私の声が聞こえますか?

 私です、バイン将軍であります』


 リーファの「耳錠の魔道具(イヤリング・デバイス)」に、

 バイン将軍の声が伝わってきた。


『バイン将軍、リーファです。

 ちゃんとお声は伝わってます』


『そうか、なら手短に用件を伝える。

 我が軍はこの好機を生かすべく、

 三万五千の部隊を前進させて、

 敵に総攻撃をかける事にした。

 だから君達も共に敵兵と戦ってくれ!』


 ……。

 どうやらバイン将軍は覚悟を決めたようだ。

 となればリーファとしても、

 彼の提案を断る理由がなかった。


『了解致しました』


『……では君達の武運を祈ってるよ!』


「皆、聞こえたかしら?

 ならばあえて命令するわよ!

 戦乙女ヴァルキュリアとして告ぐ。

 誇り高き我が盟友よ、我と共に戦え!」


 リーファは凜とした声でそう叫ぶ。

 すると盟友である四人は無言で頷いた。

 そしてリーファとその盟友。

 更に彼女等の護衛部隊は、手綱を取って、

 再び馬を走らせて、敵部隊へ向かって行った。



次回の更新は2024年8月7日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 さぁ、さてバズレール元帥戦が始まりそうですね。 元帥が倒されれば、マリーダは撤退を余儀なくされそうですしワールスリー地方での戦いは盤石なものになりそうですね。 逆に、こ…
[良い点] 戦いは白熱の展開に。どうなるのか楽しみにしています!
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