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第二百四十八話 竜虎相搏(後編)


---三人称視点---



 ザアザアと大雨が降りしきる中、

 騎士団長レイラ率いる教会騎士団の騎兵隊は、

 泥を跳ねながら、悪路を突き進んだ。


 馬の蹄がえぐった場所に、

 小さな水たまりが次々と出来上がって行く。


「敵は白兵戦を仕掛ける気だ。

 風属性、あるいは水及び氷結魔法で応戦せよ!」


 後方に陣取るメルクマイヤーがそう指示を飛ばす。

 その指示に従いデーモン族の魔導師部隊は、

 風属性、あるいは水及び氷結魔法を放った。


 だがそれは想定内の出来事。

 サーラ教会騎士団の騎兵隊は、

 相乗りさせた魔法騎士に対魔結界を張らせて、

 デーモン族の魔導師部隊の魔法攻撃を凌いだ。


 また危険な場合は、

 「吸魔きゅうま腕輪うでわ」の吸収能力を発動させて、

 相手の魔法攻撃を防ぎつつ、魔力を補充して、

 任意の相手に魔力を受け渡した。


 そのように順調に敵の魔法攻撃を防ぎ、

 魔法騎士も天候を生かした風属性魔法で

 前方のデーモン族部隊を攻め立てた。


 そのような攻防戦が二十分程、

 続くと戦いの流れ教会騎士団に傾く。

 その戦況を後方から騎士団長レイラは、

 見据えつつ、一つの疑問が脳裏に浮かんだ。


「想像していたより、敵部隊の攻撃が大した事ないわね。

 というか敵部隊の大半がゴブリンやコボルト。

 そしてリザードマンやオーガのような魔物、魔獣が多いわね」


「騎士団長殿もその辺が気になりましたか」


 副官を務めるヒューマンの中年男性レバンも相槌を打つ。


「レバン副官、そう言えばデーモン族って、

 一個体が強いために繁殖力が低い。

 という噂を聞いた事があるわね」


「そう言えば、私も似たような話を聞いた事があります」


「どうやらデーモン族部隊といっても、

 純粋なデーモン族の数は少ないようね」


 レイラのこの推理は当たっていた。

 デーモン族は、一個体としてはかなり強靱な肉体と生命力を持つ。


 それ故に繁殖力が弱い。

 だから今回、戦いに加わった生粋のデーモン族は、

 数にすれば、それ程多くはない。


 その代わりに彼等は魔物や魔獣を使役して、

 デーモン族の数の少なさを埋め合わせていた。

 このメルクマイヤーの約二万の部隊の内の三千人。

 その三千人のデーモン族が魔物や魔獣を操り、

 そして攻撃魔法や対魔結界を駆使して、

 教会騎士団の猛攻を防いでいた。


「ならば私達は魔物や魔獣を魔法攻撃で蹴散らして、

 デーモン族の戦士せんしや魔導師に集中攻撃をかけるわよ!

 そうすれば、自ずと勝利は見えてくるでしょう!」


 騎士団長レイラの言葉に、

 周囲の騎士や魔法騎士も「おお」と呼応する。


 そこから教会騎士団の騎兵隊。

 その騎兵隊に相乗りした魔法騎士。

 更に前衛役の騎士、中衛、後衛に魔法騎士を配置して、

 騎士団長レイラも最前線に立って、戦い続けた。


「退くな、退くな、我等は栄誉あるサーラ教会騎士団。

 悪しきデーモン族には、絶対に屈するな。

 我が裁きの剣を受けるが良い! ――ダブル・ストライクッ!」


 騎士団長レイラは白馬に跨がりながら、

 白銀の長剣を縦横に振って、

 デーモン族部隊の魔物や魔獣を蹴散らす。


「予想以上に敵の猛攻が激しいな。

 奴等、我等の主力の大半が魔物か、魔獣。

 という事実に気付いたのかもしれぬ」


「メルクマイヤー魔将ましょう

 このままでは、我が軍が危険です。

 何か策を打ちましょう」


 と、褐色肌の男性デーモン族がそう言う。


「ヒルデム副官、それもそうだな。

 しかし精霊エレメンタルやゴーレムを召喚しても、

 その場凌ぎにしかならない。

 ならば各魔導師が使役する魔物、魔獣に、

 強制洗脳きょうせいせんのう状態にして、

 敵に突貫させよ、その間に私は魔女帝陛下に援軍を要請する」


強制洗脳きょうせいせんのう状態ですか?

 一度、強制洗脳きょうせいせんのう状態にすれば、

 魔物や魔獣達は、死ぬまで戦い続けますよ?

 魔女帝陛下がどれ程の援軍を送って下さるか、

 分からない状態で、この戦術は危険と思います」


 副官ヒルデムが控えめにそう進言する。

 だがメルクマイヤーとしても、そんな事は百も承知。

 しかし今はこの策を強硬するしかない。

 メルクマイヤーは、その決意を露わにした。


「私もそんな事は百も承知だ。

 だがこの状況で退く事は出来ぬ。

 ならば我等も覚悟を決めて、戦いに挑むべきだ!」


「……分かりました」


 こうして風のメルクマイヤーの部隊は、

 魔物や魔獣を強制洗脳きょうせいせんのう状態にして、

 正面から向かって来る教会騎士団と戦わせた。


「ちっ、次から次へとキリがない。

 それになんだ、この魔物や魔獣は……。

 まるで死ぬ事を恐れてない」


「どうやら敵は、使役する魔物や魔獣に、

 強い暗示、あるいは強制洗脳きょうせいせんのう状態にしたのでしょう。

 だがそれは敵が苦しいという証拠でもあります。

 レイラ騎士団長、ここはこのまま突撃しましょう!」


「レバン副官、そうね。

 ここは貴方の言うとおりにするわ!

 騎士諸君、敵は怯んでいる。

 この機に乗じて、敵部隊に猛攻撃をかけよっ!」


 それから約三十分。

 血と血が飛び交う激闘が繰り広げられた。


 勢いに乗る教会騎士団に対して、

 バーサク状態の魔物や魔獣。

 またデーモン族の戦士や魔導師も果敢に戦った。


 そして両軍がやや膠着状態になった時、

 魔女帝ドミニクが五千の援軍部隊が駆けつけた。

 これによって、教会騎士団の進軍は食い止められた。


 それを後方の本陣から、

 見据える皇帝ナバールが新たな策を打った。


「風のメルクマイヤーの部隊が苦戦しているな。

 一方のバズレール元帥の部隊は、

 敵がマリーダと遭遇するなり、

 撤退を繰り返している。

 恐らく敵はマリーダを足止めにするつもりだ」


「バズレール元帥の部隊は、

 完全に膠着状態に入ってますね。

 皇帝陛下、ここからどう兵を動かしますか?」


 総参謀長ザイドの言葉に「ううむ」と唸るナバール。

 ここが勝負の分かれ目だ。

 それを悟ったナバールは、一つの決断を下した。」


「我が本隊から、約一万の兵をバズレール元帥の部隊に、

 援軍として派遣する。

 それと同時に「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」マリーダ。

 そしてその護衛部隊を、

 風のメルクマイヤーの部隊に援軍として送るのだ!」


「陛下、宜しいのですか?」


 と、総参謀長ザイド。

 それに対して、ナバールは毅然とした口調で答えた。


「嗚呼、こうなった以上は。

 そう簡単にこのワールスリーから撤退する訳にいかぬ。

 兎に角、今は耐え凌ぐんだ。

 そしてそれと同時に各地の味方部隊の状況を把握せよ!」


「……分かりました」


 そしてナバールの命令通りに、

 マリーダとその護衛部隊は、

 風のメルクマイヤーの部隊に加勢するべく、馬を走らせた。


 その情報を前線の偵察兵、斥候から、

 伝えられたラミネス王太子は、

 床几しょうぎから立ち上がって、大声で叫んだ。


「良し、機は熟した。

 今度はこちらが戦乙女ヴァルキュリアとその盟友を派遣する番だ。

 リーファ殿、盟友と護衛部隊を連れて北上せよ。

 そしてバイン将軍とバウアー将軍の部隊に合流して、

 敵兵、そして敵将を討ち取るんだ!」


「はい、分かりました。

 アストロス、エイシル、ジェイン、ロミーナ。

 皆で行くわよ!」


「「はい」」「ウン」「はいだわさ!」


 こうしてリーファとその盟友は、

 ようやくこの戦いに参戦する事となった。


 任務の失敗も負けも許されない。

 だから私は誰が相手でも勝つ!

 リーファはそう胸に刻み込んで、

 仲間と共に軍馬に乗って、

 周囲を警戒しつつ、北上を開始した。


次回の更新は2024年8月3日(土)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
 デーモン族は魔物や魔獣たちを使役しているのですね。  個々の力は強くても、無双できるわけではないから当然と言えます。  しかも洗脳状態にしているから質が悪い。でも敵も楽勝というわけではない証拠ですね…
[一言] 更新お疲れ様です。 象徴がついに動き始めましたね。 レイラとメルクマイヤー(とそこに加勢するマリーダ)がぶつかっているなら、残っているバズレール元帥とリーファがぶつかる感じですかね。 もし…
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