第二百四十七話 竜虎相搏(中編)
---三人称視点---
ワールスリーは、アスカンテレス王国の北部にあるリーレンス平原から、
北へ約20キール(約20キロ)程、
進んだワルラーニュの森はずれの位置にある。
広大な平原が広がり、
この地で過去にも他国との戦争が繰り広げられていた。
そして聖歴1757年10月18日の早朝九時過ぎ。
そのワールスリーに、ラミネス王太子率いる連合軍の第一軍。
ナバールとドミニク率いる帝国軍の第一軍が集結していた。
ナバールとドミニクは、ワールスリーの北部エリアに陣取り、
ナバール本隊を六万人の部隊。
ドミニク本隊を三万五千の部隊。
そしてバズレール元帥率いる三万の第六軍。
風のメルクマイヤーの約二万の部隊。
以上のように部隊を各四部隊に分けた。
また漆黒の戦女マリーダには、
彼女を支援する兵士や魔導師部隊を五百人与えて、
状況に応じて彼女等を前線に投入する事にした。
対するラミネス王太子率いる連合軍の第一軍は、
十万を超えるアスカンテレス王国軍を
ラミネス王太子の本隊に五万の部隊。
バイン将軍率いる部隊を二万五千人。
バウアー将軍率いる部隊にも、
同数の二万五千人を与えて、
部隊を三つに分けて南部エリアに陣取った。
その三部隊に騎士団長レイラ率いるサーラ教会騎士団の一万五千人の第四軍。
帝国軍の総数約十三万五千人。
連合軍の総数約十一万五千人。
両軍合せて二十五万もの大軍が
このワールスリー地方に集結して、
両軍の命運を掛けた一大決戦に臨もうとしていた。
そんな中、戦乙女リーファとその盟友は、
ラミネス王太子が陣取る本陣の近くで待機を命じられた。
だがリーファとしても帝国軍。
そして元義妹マリーダを前にして、
大人しく戦況を見守る気にはなれず、
本陣に陣取るラミネス王太子に、
自分達も戦線に加えるように直訴した。
「ラミネス王太子殿下。
私とその盟友も前線部隊に加えてください」
だがラミネス王太子は、
リーファの申し出をきっぱりと断った。
「いや今はまだ駄目だ。
君達を前線に投入するには、まだ時間を要する」
「何故ですか? その理由を教えてください」
「それはリーファ嬢、君がアスカンテレス王国軍の象徴だからだ」
「……私が象徴?」
「嗚呼、君は今までの戦いで、
我が軍に多大な貢献をしてくれた。
だが君は前の戦いで、あのマリーダに敗れた。
そして今回また君があの女に敗れたら、
我が軍の士気は大きく下がるであろう」
「……そうですか」
「いや私は何も君を縛り付けるつもりはない。
だがあのマリーダと戦わせるのは、
時期尚早と言っているのだ。
今後の戦況次第でマリーダ以外の帝国の将帥と
戦う機会が訪れるであろう。
君には将帥達を各個撃破してもらいたい。
そうすればレベルも上がり、君自身も強化される。
そして状況が整えば、
またマリーダと戦ってもらうつもりだ」
「……分かりました」
王太子の言葉にリーファも納得した。
確かに現時点でマリーダに確実に勝てる自信はない。
だが他の帝国の将帥ならば、
リーファが勝てる可能性が高い。
そして勝利を重ねて、レベルアップ。
更にスキルを適正に割り振り、
更に強化すれば、マリーダにもきっと勝てるであろう。
リーファはそう自分に言い聞かせて、
この場はラミネス王太子の決定に従う事を決意した。
そしてリーファ達は、ラミネス王太子と共に、
後方から戦況を見据える事にした。
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聖歴1757年10月18日正午過ぎ。
この日の朝九時過ぎから、
ワールスリー地方には大雨が降り始めた。
この悪天候の為に、
帝国軍は平原をどろ道として、
砲車の運動をさまたげられる事となった。
大砲による砲撃や銃撃は帝国軍が尤も得意とする戦術。
それが使えないと分かるなり、
ラミネス王太子は、
バイン将軍とバウアー将軍率いる部隊を北上させて、
バズレール元帥率いる約三万の帝国軍の第六軍に、
騎兵による白兵戦。
また魔導師部隊による水及び風属性魔法で攻め立てた。
その一方で騎士団長レイラ率いるサーラ教会騎士団の一万五千人の第四軍にも、
北上させて、風のメルクマイヤーの約二万の部隊に攻勢をかけた。
バズレール元帥率いる約三万の帝国軍の第六軍。
バイン将軍とバウアー将軍率いる部隊は、
合せて約五万人に及ぶ大軍。
戦力差に加えて、
得意の砲撃及び銃撃が出来ない帝国軍の第六軍は、
思うどおりに動けず、苦戦を強いられた。
「まさかこのような大雨が降るとはな。
だがここで退く訳にはいかぬ!
よし、「漆黒の戦女」とその護衛部隊を
第六軍を救う為に急遽派遣せよ!」
「御意」
皇帝の言葉に大声で応じる総参謀長ザイド。
それに対して、ラミネス王太子は、
戦況を見据えつつ、新たな指示を下した。
「どうやら敵は、「漆黒の戦女」とその護衛部隊を
バズレール元帥の部隊に援軍として送ったようだな。
ならばバイン将軍とバウアー将軍に即刻伝えよ。
「漆黒の戦女」と無理に戦闘する必要はない。
頃合いを見計らって、南下せよ、指示を出せ!」
「はっ!」
と、副官レオ・ブラッカー。
「そして今のうちに、レイラ団長のサーラ教会騎士団を北上させて、
敵の左翼部隊に攻撃するように伝えるんだ。
但し実際における戦いの戦術は、
レイラ団長の判断に任せる事にしよう」
「了解致しました」
そして早馬に乗った伝令兵がその事を若き女性騎士団長に伝えた。
すると騎士団長レイラは、
その伝令を聞くなり、僅かに口の端を持ち上げた。
「王太子殿下にお伝えください。
我々の意思を尊重してくれた事に感謝します、と」
「はっ!」と、伝令兵。
すると騎士団長レイラは、
芦毛の馬に跨がりながら、
自分の鞘から白銀の長剣を抜剣して頭上に掲げた。
「誇り高きサーラ教会騎士団の騎士諸君!
これより我々は北上して、
敵の左翼部隊に攻勢をかける。
事前の情報を聞く限り、
我々が交戦する相手は、デーモン族の部隊のようだ。
ガースノイド帝国も忌まわしいが、
デーモン族はその比ではない。
だがこの戦いに勝てば、
連合軍の中で我等の力を誇示する事が出来るであろう。
だから諸君、私と共に戦ってくれ!」
やや大仰な台詞であったが、
結果的にサーラ教会騎士団の戦意と士気は高まった。
だが騎士団長レイラは
只の理想主義者ではなかった。
前衛部隊に騎兵隊を配置して、
騎兵隊の一部に魔法騎士を相乗りさせて、
状況に応じて、魔法攻撃や耐魔結界を張るつもりであった。
そして騎士団長レイラ率いる主力部隊には、
「吸魔の腕輪」を与えて、
敵が魔法攻撃をしてきたら、
腕輪の吸魔能力を発動させるように命じた。
「では騎士諸君!
我がサーラ教会、そして連合軍の為に。
力を合わせて、帝国軍、そしてデーモン族軍を倒そう!」
騎士団長レイラがそう言うなり、
先陣の騎兵隊が北上して、
「風のメルクマイヤー」率いるデーモン族部隊目掛けて、
突撃を開始。
こうしてワールスリーの各地で、
激しい戦いが繰り広げられようとしていた。
次回の更新は2024年7月31日(水)の予定です。
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