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第二百四十五話 局地戦(後編)


---三人称視点---



 ヴィオラール王国のヴァリントン将軍は、

 当初の狙いどおりに、

 帝国の北部エリアに約五万の兵を上陸させた。


 だが無理に帝国の北部エリアに、

 攻めるような真似はせず、

 帝国軍の北部エリアを指揮するエマーン将軍の出方をうかがった。


「またしても我が海軍は敗れたか。

 まあ海戦では相手の方が一枚上手のようだ。

 だが陸戦では、我等も負けてない。

 まずは最初の構想通りに、

 「土の聖龍ベルグレス」や各種のドラゴン。

 そして竜騎士ドラグーン部隊を持ってして、

 北部エリアの敵を食い止めるぞっ!」


 エマーン将軍は高らかにそう宣言して、

 部隊を北上させて、

 ヴァリントン将軍率いる五万の部隊に攻勢をかけた。


 だがヴァリントン将軍は、

 無理に戦うような真似はせず、

 重厚な防御陣を敷いて、

 全軍に前進、そして後退を繰り返した。


「敵は予想通り聖龍を北上させてきたな。

 だが我々がそれに無理に付き合う必要もない。

 適当に遠距離攻撃、または魔法攻撃を繰り返して、

 頃合いを見てギルティスの港へ下がるぞ」


 こうして北部エリアにおける戦いは、

 攻めては退く、退いては攻める。

 といった行動が繰り返させて、

 互いに譲らない展開が続いた。


 そして開戦から、

 八日が過ぎた10月8日。

 

 ナバール率いる帝国軍の主力部隊は、

 パルナ公国のパルナス平原で、

 パルナ公国軍と交戦した。

 

 しかし圧倒的な戦力差を前にして、

 パルナ公国軍は、瞬く間に兵を蹴散らされた。

 業を煮やしたシャーバット公子は、

 ニャルザ王国とアスカンテレス王国に援軍を求めた。


 お猫良ねこよしのニャルザ王国の国王ニャーザレ一世は――


「このままじゃ明日は我が身だニャン。

 とりあえず一万五千の兵を援軍として出すニャン」


 と、すんなりと増援部隊を送った。

 だがアスカンテレス軍のラミネス王太子は、

 戦況を見据えながら、

 副官レオ・ブラッカーの意見を聞いた。


「常識的に考えれば、

 ここはパルナ公国軍に増援すべきだ。

 だが敵はジェルミナ共和国には、

 手を出してないようだ。

 となると皇帝ナバールの真の狙いは何処と思う?」


 指揮官の問いに副官が暫し沈思黙考する。

 これまでの戦局を見た限り、

 帝国軍は基本的に防戦態勢だが、

 皇帝ナバール率いる本隊は、 

 他の部隊の支援もあり、

 開戦当初から破竹の勢いで勝ち続けている。


「仮定の話になりますが、

 敵の立場になれば、

 ジェルミナ共和国やニャルザ王国は小国。

 その上でパルナ公国に攻め込む理由として、

 その先にある我等、アスカンテレス王国が真の目的。

 ……と考えたら、敵の動きもよく分かります」


「成る程、副官。 私も君と同じ意見だ。

 どうやら敵の狙いは、このアスカンテレス王国のようだ。

 となればここはパルナ公国に少しでも奮戦してもらいたいところ。

 よって私は一万五千の部隊を援軍として、

 パラナ公国軍に派遣しようと思う」


「私も閣下の意見に賛成です」


 と、副官レオ・ブラッカー。


「うむ、その上で我がアスカンテレス王国軍も

 もう少し兵を増強する必要があるな。

 副官、エストラーダ王国に救援要請したまえっ!」


「ははっ!」


「しかしそうなると敵がパルナ公国を占領したとして、

 次なる進軍ルートは、

 我が国の北部エリアのワールスリー周辺となるであろう。 

 我が軍は、ここで帝国軍とデーモン族部隊を迎え撃つ!

 厳しい戦いになるであろうが、

 私も……我が軍も負ける訳にはいかない!」


「ええ、今のうちに戦いの準備。

 それと戦術と戦略を練りましょう」


「嗚呼、ナバールよ!

 ワールスリーを貴様の墓場にしてくれよう!」



---------


 結果的に援軍は派遣されたが、

 それでパルナ公国軍の劣勢が変わる事はなかった。

 何せ帝国軍の本隊は、約二十万の大軍。


 パルナ公国軍の兵士達も命懸けで戦ったが、

 兵士の大半が犬族ワンマン

 帝国軍本隊の疾風怒濤の進撃を前にして、

 次々と兵士が戦死して、

 三日後の10月11日にとうとう退却を決意した。


 退却先は古都パールハイム。

 かつて戦乙女ヴァルキュリアリーファとその盟友によって、

 帝国軍の手から取り戻した古都であるが、

 再び帝国軍の占領下になろうとしていた。


 それでもパルナ公国軍は、最後まで懸命に戦った。

 だが結局は二日後の10月13日に、

 シャーバット公子は、この古都パールハイムを放棄して、

 公都サルファイムの公王と公族が逃亡した

 南部エリアまで全軍を撤退させた。


「ここまでが限界だワン。

 このまま南部エリアを拠点にして、

 公国内の部隊を集結させて、

 敵が南下して来たら抗戦しよう。

 ただ敵が無理に攻めてこない場合は、

 我々は自分の身と街は護るが、

 それ以上の事はしないでおこう」


「そうですね、それが賢明と思います。

 ところでシャーバット公子殿下」


「エーデルバイン、何だ?」


「降伏のタイミングはどうしますか?」


「……」


 副官の言葉にシャーバット公子は、

 しばらくの間、無言になった。

 まさか自分が降伏する日が来るとはな。


 だが無駄な抵抗をして、

 自国民をこれ以上傷つけさせるのは愚策でしかない。


「極力、降伏はしたくないが、

 帝国軍がパールハイムを占拠した際に、

 周辺を平定する際には、

 その近隣の都市、村は無条件で降伏しても良い。

 と、各地の当主及び統治者に伝えよ!」


「了解致しました。

 ところで我が軍、というか公子殿下。

 また公王陛下ご自身は、

 降伏宣言をなさらないのですか?」


「……そこは駆け引きが重要となる。

 帝国軍がパルナ公国全土を平定すれば、

 その可能性は出て来るが、

 平定しない可能性もまだある。

 その時は南部エリアに陣取って、

 今後の戦局を見据えるべきだワン」


「分かりました。

 私は公子殿下の方針に従います」


「うむ、まだ焦る時期じゃない。

 一度降伏すれば、

 連合軍の序列も最下層になる。

 だから今はゆっくりと様子を見よう」


「はい……」


 そして10月14日。

 帝国の皇帝ナバールがパールハイム城に入城。

 だがナバールは、

 パールハイムの民に乱暴を働かないように、

 部下や兵士達に強く指示を出した。


 それによって、

 この古都の平定は思いのほか順調に進んだ。

 こうしてナバール率いる帝国軍の主力部隊は、

 アスカンテレス王国を攻める橋頭堡を築く事に成功した。


次回の更新は2024年7月24日(水)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[良い点] 帝国軍の勢いは止まらず……果たしてどうなるのか不安になりました……
[一言] 更新お疲れ様です。 パルナ公国が退場ですか。 でもまぁ、まだ些事で関わってきそうなので全面的な退場ではないから安心。 一進一退で一喜一憂する戦場、次はどこが描かれるでしょうか。 まだ禿頭…
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