第二百四十三話 先制攻撃(後編)
---三人称視点---
ナバールとその直属部隊。
更にはタファレル元帥とバズレール元帥。
そして魔女帝ドミニクとその部隊を交えて、
レオフォーテの森で激闘が繰り広げられた。
サキュバス部隊による魅了攻撃で、
シャーバット公子率いるパルナ公国軍は、
同士討ちの状態に陥ったが、
彼等も一方的にやられていた訳ではない。
「弓兵、銃士はひたすサキュバスを狙い撃て!
それと魅了された者に治療魔法をかけろ!
それからドーベルマン及びシェパード部隊は、
前進して敵兵を蹴散らすのだぁっ!!」
シャーバット公子は、大声でそう叫んだ。
すると周囲の犬族の兵士達の士気も自然と上がった。
弓兵、銃士はサキュバス部隊を攻撃。
回復役は、魅了された者を治療。
そしてドーベルマン及びシェパード部隊は、
四足歩行で地を駆けて、敵兵に襲いかかった。
「ガルラアアアァァッ!!」
「ぐ、ぐ、ぐああああァァァッ!!」
「攻めろ! 攻めろ! 攻めまくれ!
兎に角、ここが正念場だ。
何としてもこのレオフォーテの森で、
帝国軍とデーモン族軍を食い止めよっ!」
叱咤激励するシャーバット公子。
それに負けじと皇帝ナバールも叫んだ。
「どうやら敵も馬鹿ではないようだ。
良し、デーモン族部隊に更なる援軍を要請せよ。
それと前列には、重装兵や騎士を配置せよ。
所詮、相手は犬畜生。
護りを固めた人間様の相手ではないわ!」
「御意、ちなみにどのような援軍をお求めですか?」
と、総参謀長ザイド。
「そうだな、サキュバス部隊を護る空戦部隊が良いな。
ガーゴイルや半人半鳥などが良い。
それとゴブリンやコボルド、オーガなどの
陸戦部隊の応援も要請せよっ!」
「ははっ!」
そして帝国軍の伝令兵が十分後に、
魔女帝ドミニクの許に到着した。
「皇帝陛下からの新たな伝令です。
魔女帝陛下にガーゴイルや半人半鳥などの空戦部隊を派遣して、
サキュバス部隊を護りつつ、援護攻撃をして頂きたい。
またゴブリンやコボルド、オーガなどの
地上部隊の援軍も要請する!
以上が皇帝陛下のお言葉です」
すると魔女帝ドミニクは、
黒のボンテージ姿で、
双眸を細めて、前方の伝令兵を見据えた。
「皇帝ナバールは、随分人使いが荒いな。
だがまあそれくらいでなければ、
皇帝にはなれぬか。 良かろう。
ナバールの言葉通りに我等も援軍を派遣しよう!」
「ありがとうございます!」
そして魔女帝ドミニクは、
皇帝ナバールの援軍要請に応じる形で、
ガーゴイルや半人半鳥などの空戦部隊。
ゴブリンやコボルド、オーガなどの地上部隊を援軍として派遣した。
これによって、
パルナ公国軍と帝国軍及びデーモン族軍の戦力差が
大きくなったが、パルナ公国軍も命がけで戦った。
「グルガァァァッ!!」
「う、うわあァァァッ!」
「怯むな! 武装は固めている!
確実に標的の頭部を破壊。
あるいは喉笛を切り裂くんだァッ!」
「で、でも相手の動きが早くて……。
アァァァ……アァァァァァッ!!」
「腰抜けが見本を見せてやる!
死にさらせっ! 犬畜生っ!」
「ギャ、ギャァァァインッ!」
前線の重装兵が手にしたメイスやフレイルで、
ドーベルマン及びシェパード部隊の頭部や喉笛を狙う。
それによって多数の犬族兵が戦死するが、
残された者達は、決死の覚悟で帝国兵に襲いかかる。
犬と人間。
体格差や知能で人間に分があったが、
相手は只の犬ではない、犬族だ。
防具の隙間の部分に噛みついたり、
手にした手斧や棍棒で、
眼前の敵の強襲を強打する。
そこからサキュバス部隊が再び魅了攻撃。
魅了を逃れた犬族兵が反撃を試みるが、
サキュバス部隊は素早く撤退。
代わりにガーゴイル兵や半人半鳥兵が
前に出て来て、魔法攻撃や咆哮攻撃を放つ。
このような戦いがレオフォーテの森の各地で
繰り広げられて、三日三晩戦いが続いた。
その結果、両軍にそれ相応の犠牲者が出たが、
数の上ではパルナ公国軍の方が被害が大きかった。
「これ以上、この森で戦うのは得策ではないな。
全軍をパルナス平原まで後退させよ。
それとパールハイム。
そして公都サルファイムに伝令兵を出して、
パールハイムとサルファイムの住人は、
南部エリアへ逃げるように指示せよ。
尚、父上――公王陛下や公族も同様に、
南部エリアへ逃げるように伝えよ!」
「部隊と住民の撤退には賛成ですが、
公王や公族の方々が公都を離れるのには、
賛成できません」
副官エーデルバインがそう反論する。
だがシャーバット公子は、逆に問い返す。
「貴公の云うことは分からなくもない。
確かに公王や公族が公都から離れたら、
ある意味、我がパルナ公国軍の敗北を意味するであろう。
だが残念ながらそれは現実のものになるであろう。
しかし他国へ亡命なども出来まい。
ならば南進して、そこに公族を逃がして、
南部エリアを拠点にして応戦する。
それが今の我々に残された手段ではないか?」
「そ、それは……」
「無論、私とて逃げるのは嫌だ。
だがデーモン族軍と共闘した帝国軍は、
我々が想像していた以上に強い。
でも私はこの命がある限り戦う。
パルナス平原、古都パールハイム。
そして公都サルファイム。
このように戦場を幾つもかえて、
限界まで帝国軍とデーモン族軍と戦うワンッ!」
「了解致しました」
「うむ、では一旦パルナス平原まで兵を退くぞ。
撤退の際には、罠など仕掛けておけ。
敵に簡単に追撃させるのは癪だワン」
開戦から六日が過ぎた10月6日。
パルナ公国軍は、
工作兵に仕掛けさせながら、
パルナス平原まで全軍を撤退させた。
だが皇帝ナバール率いる帝国軍の第一軍は、
無理に追撃はせず、
工作兵に罠を解除させながら、
ゆっくりと兵をパルナス平原へ進軍させた。
帝国軍の先制攻撃は見事に成功。
だが連合軍も一転して、反撃の構えを見せた。
こうして各地で局地戦が始まり、
戦火はたちまちエレムダール大陸各地に拡がった。
次回の更新は2024年7月17日(水)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。