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第二百四十話 相互扶助(中編)


---三人称視点---


 正午十四時過ぎ。

 会議の参加者は、

 初老の男性ヒューマン執事に案内されて、

 王宮の一階の会議室に着いた。


 部屋の中央に配置された白大理石の長テーブルに、

 黒革張りの樫木の椅子があり、

 壁を背にしてラミネス王太子が上座に座り、

 その右隣にリーファ、左隣にシャーバット公子が座る。 


 長テーブルの右側に、

 グレアム三世とグレイス王女が座っていた。

 ジェルミア共和国のジュリアス将軍と第一統領レーガー。

 そしてニャルザ王国の大臣ニャーフル。

 軍司令官ニャールマンも右側の席に陣取る。


 左側の席にはアルピエール枢機卿、騎士団長レイラ

 ヴィオラール王国の若き宰相シーク。

 そして王国軍の司令官ヴァリントン将軍が左側の椅子に座る。

 この総勢十三名で会議が行われようとしていた。


 場の空気はピンと張り詰めていた。

 それも無理のない出来事だ。

 何せ帝国軍が再び宣戦布告してきたのだ。


 それに加えてデーモン族が本格的に

 帝国側についたとあっては、

 緊張するな、という方が無理であろう。

 

 だがホスト国であるアスカンテレス王国軍の総司令官。

 ラミネス王太子は、非常に落ち着いていた。

 そして場の空をほぐすように、彼が語り出した。


「では、早速だが会議を始めたいと思います。

 会議の議題は、ガースノイド帝国の宣戦布告に関しての事です。

 既に皆様もご存じでしょうが、

 帝国軍がデーモン族と同盟関係を結んだ。

 恐らく次の戦いでは、

 帝国軍だけでなく、

 デーモン族とも戦う事になるでしょう」


 そしてラミネス王太子は、一度、言葉を区切って、

 周囲の会議の参加者達に視線を向けた。

 誰も彼もが重い表情で、口を閉ざしていた。


 恐らく自分の出方を伺っているのであろう。

 いつものラミネス王太子ならば、

 この場の発言権を増す為に、

 美辞麗句を並び立てるところだが、

 流石の彼もこの状況下では、

 迂闊な事は言わず、注意深く言葉を選んだ。


「ガースノイド帝国は、

 既に旧神聖サーラ帝国、旧ファーランド王国。

 そして旧ペリゾンテ王国を支配下に置いているが、

 各国の統治には、人も物も必要とするでしょう。

 この三国は、今でこそ帝国の占領政策に従っているが、

 帝国本土が揺らげば、

 必ず反旗を翻すでしょう」


「まあその可能性は高いですな」


 と、国王グレアム三世。


「とはいえ帝国もそんな事は百も承知でしょう。

 少なくともそれなりの防衛部隊は配置すると思うわ」


「グレイス王女殿下、私もそう思います」


「それで王太子殿下は、

 それらに対してどのような策を講じるおつもりですか?」


 グレイス王女の言葉に、

 周囲の会議の参加者の視線がラミネス王太子に向く。

 だが王太子は、堂々とした態度と口調で質問に答えた。


「極端な話を云えば、

 帝国東部の占領地域は、無視して良いでしょう。

 我々が叩くのは、あくまで帝国と帝国軍。

 そして皇帝ナバールをもう一度失脚させて、

 海外に亡命中のレイル十六世陛下を

 再び王位に就ける。 これが叶えば、

 必然的にエレムダール大陸は、平和になるでしょう」


「まあ理想論を言えば、そうなるであろう。

 しかし今度の戦いでは、

 帝国軍だけでなく、

 デーモン族とも戦う事になるであろう。

 果たして王太子殿下の思惑どおりに事が運ぶでしょうか?」


 アルピエール枢機卿がそう一石を投じてきた。

 相変わらず正論を主張して、

 相手の揚げ足を取ろうとする言葉に、

 ラミネス王太子は、内心で失笑していたが

 態度には見せず、淡々とした口調で言葉を紡いだ。


「アルピエール枢機卿猊下すうききょうげいかの仰る事も分かりますが、

 今度の戦いは選択肢を間違えたら、

 エレムダール大陸全土を火の海にするでしょう。

 それだけは避けねばなりません。

 なので我等の敵は、あくまで皇帝ナバール。

 そしてガースノイド帝国であります」


「うむ、私もそうすべきと思います」


「私もニャーフル大臣と同じ意見です」


「自分も大臣殿や統領閣下と同じ意見です」


 王太子の言葉に、

 ニャーフル大臣、レーガー統領、ジュリアス将軍が同調する。


「私も基本的には、

 ラミネス王太子のお考えに賛成です。

 怪物ナバールは、我々の予想に反して、

 再び帝位に就きましたが、

 彼がもう無敵の皇帝ではない事は、

 先の戦いで証明されました。

 無論、それでもナバールと帝国軍の事を

 侮ってはいけませんが、

 必要以上に怯える。

 また彼奴きゃつを過大評価する必要もないでしょう」


 宰相シークが凜とした口調でそう言う。

 すると周囲の者達も少し落ち着きを取り戻した。


「となると連合軍の本隊は、

 帝国本土へ攻め込む形でしょうか?」


 と、騎士団長レイラ。


「基本方針はそれで良いでしょう。

 ですが帝国の周辺国は、

 最大限に防衛部隊を配置すべきでしょう。

 ニャルザ王国とジェルミナ共和国。

 またエストラーダ王国も細心の注意を払うべきです。

 尤も我がアスカンテレス王国も万全の防御網を引きつもりです」


「そうですな」「ええ」


「「はい」」


「うむ」「そうね」


 ニャルザ王国、ジェルミナ共和国。

 そしてエストラーダ王国の統治者達も王太子の言葉に大きく頷く。


「しかし帝国本土には、

 あの「四聖龍」が待ち受けてます。

 四体の聖龍のうち一体は倒しましたが、

 残る三体はまだ無事です。

 この三体を全て倒すのは、容易な事ではないでしょう」


「ヴァリントン将軍、三体全てを倒す必要はありません。

 帝国は恐らく南北東西のうちの三カ所に、

 三体の聖龍を配置するでしょうが、

 一体でも撃破すれば、

 そこを中心に攻めて、帝都を目指す。

 私はそういった戦略、戦術で戦うべきと思います」


「成る程、つまり短期決戦で相手を倒すのですね」


「ええ、後数ヶ月もすれば、冬が到来します。

 そうなれば帝国の東部エリアへ攻め込んだら、

 「冬将軍」に嬲り者にされるのは明白。

 だがそれと同時に帝国の東部エリア。

 そしてデーモン族の動きも鈍るでしょう。

 だから最初から帝都ガルネスに集中攻撃をかけて、

 帝都から皇帝ナバールとその臣下達を追い出すべきです」


 ラミネス王太子の言葉に、

 周囲の者達もとりあえずは納得の姿勢を見せた。


 尤も机上の空論とも言えなくないが、

 代わりに良い代案がある訳ではないし、

 反論して責任を押しつけられるのも困る。


 というのが周囲の会議の参加者達の本音であった。

 

「ではここで小休止しましょう。

 従卒に珈琲コーヒーと紅茶を運ばせよ!」


「ははっ!」


 ラミネス王太子は、

 場の空気を読んで、休憩を取った。

 とりあえず今のところは、

 彼の思惑通りに事が運んでいたが、

 次の問題は具体的な戦力配備である。


 これを間違うか、どうかで連合軍。

 そして連合軍の加盟諸国の運命も大きく変わる。

 ラミネス王太子は、その事を頭の片隅に入れながら、

 従卒の持って来た紅茶に手をつけた。


 珈琲コーヒーと紅茶は丁度良い熱さで、

 会議の参加者達は、

 それぞれリラックスしながらティータイムを楽しんだ。


次回の更新は2024年7月6日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 戦力の配備、今回は難しいですね。 デーモン族に四聖龍。そして元帥とマリーダ。 こちらは今、リーファとグレイス以外に目立った戦力がいないような気がしますし、どう分類する…
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