第二百三十九話 相互扶助(前編)
---三人称視点---
聖歴1757年9月20日。
帝国軍の宣戦布告によって、
エレムダール大陸全土に激震が走った。
ある程度は予測していた事だが、
いざ現実となると、やはり多くの者が動揺した。
尤もラミネス王太子は、
この状況にも関わらず冷静であった。
まずは王都アスカンブルグにあるアスラ宮殿に、
各国の為政者及び代表者を緊急に招集した。
だが彼等がアスラ宮殿に来るまで二、三日はかかる。
その合間を縫って、翌日の9月21日。
ラミネス王太子は、
戦乙女リーファをアスラ宮殿に呼びつけた。
「お嬢様、くれぐれもお気をつけてください。
ラミネス王太子は、聡明な方ですが、
それと同時に冷酷な方でもあります」
「アストロス、分かっているわ。
大丈夫、王太子殿下からすれば、
私はまだまだ利用価値があるわ。
だからいきなり斬り捨てる事はないでしょう」
「お姉ちゃん、頑張ってね」
「決して無理はなさらずに!
「うん、用心するだわさ」
ジェイン、エイシル、ロミーナが労いの言葉をかけた。
だが当のリーファは、至って冷静であった。
リーファはいつものように、
黒いインナースーツの上に白銀の軽鎧。
背中には白い外套という格好だ。
そして馬車に揺れられて、
午後の十四時にアスラ宮殿に到着。
リーファは御者に運賃を渡して、
アスラ宮殿の入り口に向かった。
宮殿の入り口には、
男性ヒューマンの警備兵が二人居たが、
リーファは自分の冒険者の証を警備兵に提示した。
「し、失礼致しました。
王太子殿下からお話は窺ってます。
どうぞ、お通りください」
「ええ、お仕事お疲れ様です」
そしてそこからは、
宮殿内の執事に案内されて、
二階の客間へ通された。
それから十五分後。
客間に警備兵が二人やって来て、
リーファは彼等と共に謁見の間へ向かった。
そう言えば謁見の間に来るのも久しぶりね。
ここでかつてマリーダや義母アクア。
そして実父ハイライドが国王に追放宣言されたのね。
でもそのマリーダが今では、
漆黒の戦女となって、
私や連合軍の前に立ちはだかっている。
人生なんて分からないものね。
と、リーファが物思いにふけていると、
謁見の間に到着した。
そして警備兵が謁見の間の扉を開き、
リーファは威風堂々と赤絨毯の真ん中を歩いた。
その視線の先には、豪奢な黒い礼服を着たラミネス王太子。
そして玉座には、
国王ネビル二世が座っていた。
国王は頭に金の王冠。
装飾の付いた黒のガウン。
白い外套に赤い提灯ズボン、白タイツといった格好であった。
「リーファ殿、よく来たな。
そこで止まりたまえっ!」
「はいっ!」
王太子に言われて、その場で立ち止まるリーファ。
「戦乙女リーファよ。
こうして直に会うのは、久しぶりじゃな」
「はい、国王陛下。
ご無沙汰しております」
「そう、固くなるでない。もっと楽にせよ」
「はっ!」
そう言われて、
リーファは少しだけ楽な姿勢を取った。
だが視線はしっかりと国王と王太子に向けていた。
すると王太子が「コホン」と咳払いしてから、
真面目な調子で話し出した。
「リーファ嬢、貴公も知ってると思うが、
帝国軍が休戦協定を破棄して、
我が国、そして連合軍に対して宣戦布告してきた。
それ故に我等は各国の代表をこのアスラ宮殿に招集した。
恐らく大きな戦争になるであろう。
だからまた君の力を貸して欲しい」
「勿論ですわっ!
国王陛下と王太子殿下。
そして母国の為に全力を尽します」
「うむ、良い返事だ」
リーファの言葉にラミネス王太子が鷹揚に頷く。
「しかしまさかあの放蕩令嬢が復活するとはな。
確か……漆黒の戦女であったか?
貴公も色々と気苦労が絶えないであろう」
「国王陛下、既に気持ちの整理はついております。
必ずこの手であの元義妹を倒してみせます」
「うむ、きっと貴公ならそれも実現可能であろう。
だがまずは目の前の事に集中せよ。
貴公が活躍するか、どうかで戦いの勝敗が決まる」
「はい、誰が敵であろうが、
全力を尽して排除します」
「貴公には今まで色々と助けられた。
まずは次なる戦いに集中してもらいたいが、
我が軍が勝利を収めたあかつきには、
貴公や貴公の盟友にそれ相応の報酬を与えよう」
と、国王ネビル二世。
「それ相応の報酬……ですか」
「うむ、報奨金や地位は当然として、
貴公が統治する領地を与えようと思っている」
領地。
今でも十分過ぎるほど、恵まれているが、
リーファとて一人の人間。
それ故にこの国王の申し出を素直に受け入れた。
「ありがとうございます。
国王陛下と王太子殿下のご期待に沿えるように、
私と私の盟友は、アスカンテレス王国の為に戦います」
「その言や良し。
ではラミネスと力を合わせて、
我が母国、そして連合軍を勝利に導いてくれ」
「ははっ!」
国王の言葉にリーファは綺麗なお辞儀をする。
「とりあえず、まずは目の前の会議に集中せねばならん。
明日、明後日には各国の代表がこのアスラ宮殿に到着する。
リーファ嬢、君にもその会議に参加してもらいたい」
「王太子殿下、謹んでお受け致します。
ところで会議の参加者の面々はどのようになってます」
「嗚呼、基本的には、今まで通りの顔ぶれだな。
ニャルザ王国からは、宰相ニャーフル殿。
軍司令官ニャールマン殿が参加する。
パルナ公国の第一公子シャーバット殿下。
ジェルミア共和国のジュリアス将軍とレーガー第一統領。
ヴィオラール王国からは宰相シーク殿とヴァリントン将軍。
それとアルピエール枢機卿。
サーラ教会騎士団の騎士団長レイラ殿。
そしてエストラーダ王国の国王グレアム三世陛下。
それと君も顔馴染みのグレイス王女殿下。
この総勢十一名が会議の参加者となる」
「……豪華な面子ですね」
「嗚呼、恐らく会議は荒れるだろうが、
君は特に何も云わず、
私に相槌を打ってくれれば良い。
会議の主導権はこの私が必ず握る」
「……分かりました」
「うむ、では三日後の9月24日の正午までに、
このアスラ宮殿に来てくれたまえ!」
「はいっ!」
こうしてリーファも会議に参加する事となった。
そして翌日の9月22日に、
ニャルザ王国の大臣ニャーフル、軍司令官ニャールマン。
パルナ公国の第一公子シャーバット。
ジェルミア共和国のジュリアス将軍と第一統領レーガー。
アルピエール枢機卿。
サーラ教会騎士団の騎士団長レイラがアスラ宮殿に到着した。
更に翌日の9月23日。
一日遅れてヴィオラール王国の宰相シーク。
そして王国軍の司令官ヴァリントン将軍。
エストラーダ王国の国王グレアム三世。
そして第二王女グレイス王女もアスラ宮殿に到着。
この総勢十一名にラミネス王太子とリーファの二人を加えて、
アスラ宮殿の一階の会議室で、
今後の方針について語られる事になるが、
状況が状況なので一筋縄ではいかないだろう。
だがここで団結出来なければ、
ガースノイド帝国。
そしてその同盟関係となったデーモン族相手に、
戦って勝利を収める事は出来ないであろう。
その事を肝に銘じて、
リーファはラミネス王太子と共に会議室へと向かった。
次回の更新は2024年7月3日(水)の予定です。
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