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第二百三十五話 共存共栄(後編)


---三人称視点---



「さて、無事に協力関係を築けたが、

 肝心の進行ルートは、どうするつもりなのだ?」


 魔女帝ドミニクが皇帝にそう尋ねた。

 全員の視線が自然と皇帝に向く中、

 ナバールは凜とした声で応じた。


「嗚呼、それは既に余の頭の中で決まっている。

 とりあえず一から順を追って説明しよう。

 まず先程の話し合いの結果、

 帝国の東部エリアの占領地域は、

 帝国軍は最低限の防衛部隊を置いて、

 デーモン族と傭兵部隊と協力して、護りを固めたいと思う」


 ここまでは既定路線だ。

 問題はこれから先の侵攻ルートだ。

 全員がそう思う中、ナバールが周囲の疑問に答えた。


「とりあえず帝国本土は、

 北部、西部、南部エリアに二万程度の兵を置いて、

 聖龍と共に敵の侵攻部隊を食い止める。

 問題はその先にある侵攻ルートだ。

 余が思い描く戦略構想はこうだ。

 まず余や他の同胞が率いる本隊で、

 犬族ワンマンのパルナ公国を攻める。

 そしてパルナ公国を陥落させたら、

 パルナ公国を足場にして、

 アスカンテレス王国へ大攻勢をかける!」


「成る程、最終目的はアスカンテレス王国ですか」


 と、シュバルツ元帥。


「確かに連合軍の総司令官は、

 あの国の王太子ですからね。

 私は良い判断と思います」


 タファレル元帥がそう告げると、

 周囲の帝国の臣下達も同調する。


「私も皇帝陛下のお考えに賛成です」


「私もです!」


「同じく!」


 総参謀長ザイド、ハーン元帥、バズレール元帥も賛同する。

 だが魔女帝ドミニクは、思ったままの疑問を問うた。


「帝国の近辺にあるジェルミナ共和国や

 猫族ニャーマンのニャルザ王国。

 そしてエルフ族のエストラーダ王国は無視するのか?」


「嗚呼、ジェルミナ共和国を統治する兎人ワーラビットは、

 比較的温厚で戦いを好まない傾向にある。

 無論、国境付近にそれなりの規模の防衛部隊を置くが、

 こちらからは攻撃は仕掛けない。

 同様にエルフ族のエストラーダ王国もだ。

 エルフ族は慎重深い連中だ。

 こちらがアクションを起こさなければ、

 向こうも様子見に徹する可能性が高い:


「うむ、妥当な判断だな」


「ああ、オレも魔女帝……陛下と同じ意見だ」


「私もそう思います」


 ドミニクがそう言うと、

 ネストールとエレミーナも相槌を打つ。


「となるとまずはパルナ公国を攻めて、

 そこを足場にして、

 本命はアスカンテレス王国という訳か」


「いや本命はアームカレド教国だ。

 アスカンテレス王国の制圧に成功したら、

 聖都サーラハイムへ侵攻して、

 教皇の身柄を押さえて、

 教皇にガースノイド帝国と余の存在を

 正式に承認させる、これが今回の戦いの最終目標である」


 明かされるナバールの構想に、

 周囲の臣下達は固唾を呑んだ。

 対するデーモン族達は固い表情をしていた。


「成る程、だがそう上手くいくかな?」


「そうなるように、

 魔女帝ドミニク殿、そしてその臣下達にも

 全力で次なる戦いに支援して頂きたい」


「ううむ、だが確かに小国を落として、

 無駄に領土を拡大するよりかは、

 敵の本拠点を落とす方が効果的と言えるな。

 良かろう、皇帝ナバールよ。

 我等、デーモン族も貴公と貴国の軍に力を貸そう」


「うむ、勝利をした祭には、

 お互いに戦勝利権を分かち合う事をこの場にて約束しよう」


「そうか、それは助かる。

 だがそう簡単には成功しないであろう。

 アスカンテレス王国は当然として、

 パルナ公国もそれなりの強国。

 貴公が思うようにそう事は運ばないのではないか?」


 ドミニクの指摘は真っ当であった。

 しかしナバールもそんな事は百も承知だ。

 だが帝国としても未来永劫、

 延々と戦い続ける戦力と国力がある訳もない。


「無論、リスクは百も承知の上だ。

 だがジェルミナ共和国やニャルザ王国などの

 小国を落すより、エレムダール大陸の盟主というべき、

 アスカンテレス王国とアームカレド教国を

 落とす方が戦略的にも重要と言えよう」


「成る程、貴公も次の戦いに全力を尽すつもりなんだな」


「嗚呼、我が国もそれ程、余力がある訳ではない。

 徐々に兵力と国力を失う前に、

 全兵力を持って、敵の本拠点を落とす。

 そしてエレムダール大陸全土に、

 余と帝国の存在を知らしめる。

 それが余が描く構想である」


 意気揚々とそう打ち明けるナバール。

 彼の臣下はその言葉に同調、あるいは感激していた。

 だがドミニクとその臣下達は懐疑的であった。


 ――成る程、この男は勝負に出るつもりか。

 ――しかしそう簡単に事が運ぶかな?

 ――これはわらわも慎重に動く必要があるな。


 ――だがそれと同時に好機チャンスとも言える。

 ――とりあえず兵力は出来るだけ投入しよう。

 ――但し勝敗いかんによっては、

 ――我々も覚悟を決める必要があるな。


 ドミニクは短時間でそういう結論に達した。

 だが勿論、本音を言うわけにはいかない。


「皇帝ナバールよ、貴公の覚悟はよく分かった。

 我々デーモン族も出来る限り貴公等に協力しよう。

 そして共に覇権を握ろうではないか!」


「嗚呼、我々でこの大陸の歴史を変えよう」


「うむ……」


 こうして帝国とデーモン族。

 そして傭兵隊長マクトレフ率いる傭兵及び冒険者部隊。

 この三勢力による共闘態勢が築かれた。


 だがいきなり戦争する訳にはいかない。

 まずは戦争の準備をする必要がある。

 そして帝国とデーモン族が協力して、水面下で動き始めるのであった。



次回の更新は2024年6月19日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
ナバールはアスカンテレスに狙いを定めてますね。  小国を少しずつ支配するよりも、総司令官のいる国を攻めたほうが後々楽になります。  もちろん相手も強大ですから、うまくいかないでしょう。  敵もしっか…
[一言] 更新お疲れ様です。 帝国側は、それなりに覚悟が決まったようですね。 戦争が近くにまで見えてきましたが、水面下でどう動くのでしょうか。 宣戦布告の為の理由付けがどうなるかも楽しみです。
[良い点] 戦争にも事前に準備が必要。何事もそうだと実感しますね。 アルカンレティアとの戦いもどうなるのか……
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