第二百三十四話 共存共栄(前編)
---三人称視点---
聖歴1757年8月10日。
ホーランド宮殿の二階の会議室に帝国の皇帝と臣下。
そしてデーモン族の魔女帝と魔宰相、そして「四魔将」全員が揃った。
会議室の中は、
いつもように大きな四角いテーブルを囲んで、
円卓会議のように演出されていた。
壁を背にして、上座に皇帝ナバールが座り、
その右隣に総参謀長ザイド。
そして左隣には、漆黒の戦女マリーダが座る。
ナバールの左手側の席に、
シュバルツ、ハーン、タファレル、バズレールの四元帥。
更にはエマーン、レジスの両将軍が座っていた。
魔女帝ドミニクは下座の席に座り、
魔女帝の右隣に魔宰相パーベル。
左隣に炎のネストールが座り、
下座から観て左側の席に、
エレミーナ、メルクマイヤー、クインラース。
そしてクインラースの左隣の席に、
プロマテア王国のセットレル将軍。
更には傭兵団「龍の閃光」の竜人族の団長兼傭兵隊長のマクトレフが座っていた。
以上の十七人が会議の参加者であった。
そんな中、ホスト役である皇帝ナバールが最初に口を開いた。
「まずはこの場に集まってくれた事を感謝する。
我等帝国とその同盟国、そして傭兵隊長マクトレフ。
そして遠路はるばる訪問してくれたデーモン族の魔女帝とその臣下達。
ここに居る全員で会議を行い、
この場に居る全員に益があるように持っていきたいと思う」
「それは当然であろう。
我等は貴国やその同盟国と同盟関係にある。
その辺を忘れてはないだろうな?」
「無論、承知の上だ」
ドミニクの言葉にそう返すナバール。
するとドミニクは「ふん」と鼻を鳴らして、言葉を紡いだ。
「貴国が今度連合軍に戦争を仕掛けるのであれば、
貴国の占領地域の統治が不安となるであろう。
故に我等が部隊を占領地域の各地に派遣しても良いぞ」
「それは非常に有り難い申し出だ。
だが占領地域の警備だけなのか?
戦争の中心となる戦域には派遣しないのか?」
と、皇帝ナバール。
「しても良いが、貴国等の働き次第だ」
「……どのような働きをお望みで?」
「我等もただ働きはしたくない。
故に率直に要望を述べよう。
戦いの勝ち負けに関係なく、
貴国の占領地域の一部を譲渡してもらいたい」
「成る程……」
そう言葉を交わすナバールとドミニク。
お互いに大国の君主。
それ故にこの場の主導権は、簡単には渡さない。
「具体的に欲しい領地はあるのかね?」
「そうだな、旧ファーランド王国の半分の領土が欲しい」
すると皇帝の周囲の臣下達が俄かにざわめいた。
だが皇帝ナバールは、平然とした様子で応じる。
「そうだな、旧ファーランド王国ならば、
貴公等、デーモン族と分割統治しても良いぞ」
皇帝の言葉に再び周囲がざわめいた。
しかし皇帝と魔女帝は、相変わらずのポーカーフェイスだ。
「欲しいのはファーランドだけか?
なんならペリゾンテも分けても良いぞ?」
「いやペリゾンテは遠慮しておこう」
「ふむ、良ければその理由を聞かせてもらえぬか?」
ナバールはストレートにそう問うた。
するとドミニクは、
しばし考え込んでから、理由を述べた。
「旧ファーランド王国は、
この短期間で君主が何度も変わっており、
政情不安定だから、我等が食い込む余地もあるが、
旧ペリゾンテ王国は、長い歴史のある国だ。
我々や貴国で分割統治すれば、
国民の不満は更に高まるであろう。
となれば統治するにも労力がかかる。
だから妾としては、無理してまで欲しい国ではない」
「うむ、妥当な政治判断だな」
「……腹の探り合いは面倒だ。
妾としては、貴国がファーランドの半分の領土を譲渡するなら、
デーモン族の大軍を派遣しても構わん」
「そうか、それは助かる」
「嗚呼、とりあえず旧神聖サーラ帝国領のヴィリニス大公国に、
約二万五千、旧ファーランド王国に同じく約二万五千人の兵。
そして旧ペリゾンテ王国に同様に約二万五千の部隊を配置しよう」
「うむ、それは心強い」
そう言ってナバールは鷹揚に頷いた。
「それから妾が本隊として三万五千の兵を率いて、
炎のネストールに約二万の兵。
そして風のメルクマイヤーにも約二万の兵を預けて、
総勢十五万の部隊で、貴国とその同盟国を支援する事を約束しよう」
「そうか、それならば余としても不服はないな」
「皇帝陛下、少しお待ち下さい」
そう言って会話に割り込んできたのは、
傭兵団「龍の閃光」の団長兼傭兵隊長のマクトレフであった。
すると皇帝、そして周囲の視線も自然に彼に向いた。
それに気付いた傭兵隊長マクトレフが表情を引き締めて――
「我等、傭兵団「龍の閃光」も全傭兵。
そして次の戦いで招集する傭兵、冒険者部隊を率いて、
皇帝陛下と魔女帝陛下の力添えしたいと思います」
「うむ、それで貴公は何を望む?」
ナバールは傭兵隊長マクトレフの要求お尋ねた。
傭兵隊長マクトレフは、やや勿体ぶった口調で答えた。
「我等、傭兵部隊も帝国の同盟国に、
それぞれ五千の部隊を配置したいと思います。
魔女帝陛下やデーモン族を疑う訳じゃありませんが、
一応、念の為にです」
「まあ貴公等からすれば、
デーモン族だけに占領地域の護衛を任せるのは不安であろう」
と、ドミニク。
「うむ、そうだな。 それが良いだろう」
皇帝ナバールも相槌を打つ。
そして話はここからが本題だ。
と言わんばかりに、傭兵隊長マクトレフが言葉をまくし立てた。
「そして帝国の本隊の援軍として、
私が率いる傭兵、冒険者部隊を五万人率いさせて頂きます。
つきましては、皇帝陛下のご相談があります」
「……何だ、申してみよ」
「次の戦いが終わり次第、
私、そしてその配下の傭兵部隊にも
恩賞や地位を与えて欲しいのですが……。
ここはデーモン族だけでなく、
我等とも共存共栄の関係を築いて頂きたいと思います」
「良かろう、貴公等にも報奨金や地位を与えよう。
その代わり、余と帝国の為に尽力を尽せ!」
「はっ、勿論でございます」
皇帝の言葉に、
傭兵隊長マクトレフが満足気に頷いた。
こうして帝国、デーモン族、傭兵部隊。
三勢力による共存共栄の関係が築き上げられたのであった。
次回の更新は2024年6月15日(土)の予定です。
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