第二百三十三話 急転(後編)
---三人称視点---
8月5日。
魔帝都サーラリアペルグのアラムレード大宮殿。
その二階の会議室にて、
魔女帝ドミニク、魔宰相パーベル。
そして「四魔将」の四人が集結していた。
小さな円卓の上座にドミニクが座り、
右回りに魔宰相パーベル、ネストール。
エレミーナ、クインラースという席順であった。
黒い軽装姿の魔女帝ドミニク。
黒い礼服姿の魔宰相パーベル。
ざんばらの赤髪に褐色の肌のネストール。
水色髪のエレミーナは、
水色のフードつきのケープを纏い、
フードを目深に被っている。
風のメルクマイヤーは、
前進、黄緑で少し長めの銀髪を後ろで結っている。
そして褐色肌に茶髪、茶色のローブ姿の土のクインラース。
この六人がこのアラムレード大宮殿に揃うのは、
かなり久しぶりの出来事であった。
だが魔宰相パーベル。
そして「四魔将」の四人も口を開こうとしなかった。
恐らく魔女帝の言葉を待っているのであろう。
その空気を察した魔女帝は、
鷹揚な口調で沈黙を破った。
「細かい話は省く事にする。
なので端的に事実のみを伝えよう。
彼の皇帝ナバールが5日後の8月10日に、
旧ペリゾンテのホーランド宮殿で、
妾と貴公等「四魔将」を交えて、
両国の今後について会議をしたいと申している。
それに対する貴公等の率直な意見を聞かせて欲しい」
魔女帝の言葉に「四魔将」と魔宰相パーベルも押し黙った。
内容が内容なだけに即答は出来かねた。
しかしこの状況で何も言わない訳にはいかない。
そしてその役目を炎のネストールが請け負った。
「オレ個人としては、その話に乗っても良いと思うよ。
但しただ働きは御免だね。
帝国と皇帝ナバールには、
それ相応の対価を払ってもらいたいね」
「それ相応の対価? 例えばどんなものだ?」
と、魔女帝ドミニク。
「ん~、帝国の東部エリアの占領地帯の一部を
譲渡してもらう、というのはどうかな?
ファーランド辺りならば、丁度良いんじゃないかな?」
「そうですね、この短期間の間に、
ファーランド王国は、統治者が何度も変わりましたわ。
なのでここで我々、デーモン族と帝国で、
ファーランドを分割統治する、
というネストールの意見に私は賛成です」
水のエレミーナがネストールの言葉を後押しする。
するとメルクマイヤーとクインラースも同調した。
「自分も二人の意見に賛成です」
「……私も」
「そうか……」
「四魔将」全員が賛同した事によって、
魔女帝ドミニクは、
両腕を胸の前で組んで軽く唸った。
確かに彼等が言うように、
デーモン族もただで帝国に加勢するつもりはない。
だが問題は何処まで、
この不毛な戦いに首を突っ込むかだ。
ドミニク個人は帝国と共に、
連合軍と戦っても良いと思っている。
だが彼女の一存で、
デーモン族全体を危険に巻き込む事は出来ない。
種族のトップとして君臨する彼女としては、
そこまで配慮する必要があった。
「オレとしては、是非魔女帝……陛下の本心を聞きたいね」
「「「私もです」」」
ネストール、そして残りの三人も声を揃えてそう言う。
こうなればドミニクとしても、
本心をひた隠す訳にもいかなかった。
「そうじゃな。 妾、個人としては、
この帝国と連合軍の戦いに本格参戦して、
派手に暴れ回り、更には戦争利権を得たいと思う」
「ほう、それがアンタの本心か。
いいじゃん、いいじゃん、ならば四の五の言わずに、
全兵士に「デーモン族よ、妾と共に戦えっ!」
……みたいな感じで大号令を出せばいいじゃん」
「そうも行くまい」
ドミニクは、ネストールの言葉を一蹴した。
するとネストールは軽く首を傾げて――
「何でだよ?」
と、眼前の魔女帝に問うた。
それに対して、ドミニクは論理的に答えた。
「妾の一存で、種族全体を危機に陥らす訳にはいかぬ。
だから何処から何処まで本気か。
そして何処から何処まで戦争利権を狙う。
という感じに全体像を見極める必要があるじゃろう」
「あ~、まあ確かにそれは一理あるね」
と、ネストール。
「私個人としましては、
数百年ぶりの大戦に、
戦闘種族であるデーモン族が何もせず、
傍観している、という状況は絶対に避けるべきと思います。
所詮、我等は戦闘種族。
戦う事でしか自身の存在意義を見いだせない」
「自分もメルクマイヤーと同じ意見です。
連合国も我等、デーモン族と本格的に
戦う事は控えるでしょう。
ならば帝国を盾にして、
我々は戦場を上手く駆け巡り、
漁夫の利を狙うべきです」
クインラースが興奮気味に意見を述べた。
「もし本格的に連合国と戦う事になっても、
仮にそれでデーモン族が滅んでも、
それはある種の本望でしょう。
私はこの寒い大地で何年も何十年も
無為に時を過ごす方が苦痛です」
エレミーナも力強くそう言い放つ。
するとドミニクも双眸を細めて、持論を述べた。
「成る程、貴公等の気持ちはよく分かった。
ならば妾も一大決心しよう。
ネストール、エレミーナ。
メルクマイヤー、クインラース。
妾と共にホーランド宮殿に同行せよ!
そして皇帝とその臣下相手に、
とことん話し合って、
我等だけでなく、デーモン族にとっても
利益があるように事を運ぶぞ」
「ああ」「「「はいっ!」」」
「パーベル、貴公も同行せよ!」
「御意!」
「確かにこのままこの寒冷地で、
惨めにこそこそ暮らすのも飽きてきた。
どうなるかは分からんが、
ここは勝負に出て、
もうデーモン族の名をエレムダール大陸全土にもう一度広めるぞ!」
「おうよ」「「「ははっ」」」
こうして魔女帝ドミニクは、
覚悟を決めて、皇帝ナバールと会議を行う事にした。
そして五日後の8月10日。
「四魔将」全員と魔宰相パーベル。
それ以外にも多くの護衛と部下、従者を引き連れて、
皇帝ナバールが待つ王都ウィーラーに入城。
こうして皇帝と魔女帝による一大会議が今、始まろうとしていた。
次回の更新は2024年6月12日(水)の予定です。
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