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第二百三十二話 急転(前編)


---三人称視点---



 「ポンド・フィールド事件」によって、

 王党派の実力者は、斬殺された為、

 ガースノイド帝国に潜んでい王党派。

 また貴族達は、身の危険を感じて国外に逃亡した。


 だが皇帝の臣下達によるこの襲撃事件は、

 ガースノイド帝国内の世論を真っ二つに分けた。

 元帝国宰相ファレイラスを謀殺した事によって、

 帝国内のタカ派は、この襲撃事件を強く支持した。


 影で暗躍するファレイラスを快く思わない者は、

 多数派居たが、それと同時に平和的な解決を望むハト派も一定数居た。


 ファレイラスは確かに奸臣かんしんであったが、

 それを強硬手段で謀殺するのは、

 ロベルト・ピエサール時代の恐怖政治を彷彿させる。

 という意見は倫理的にも正しいといえた。


 しかし結果的にこの事件によって、

 帝国の内外は俄に活気だった。

 そして聖歴せいれき1757年7月17日。


 この日はガースノイド帝国の建国記念日であった。

 皇帝ナバールと皇太子ナバール二世は、

 豪奢な馬車に乗って、

 帝都ガルネスの街頭パレードを予定通りに行った。


 「ポンド・フィールド事件」が起きた為、

 帝国内に潜む不満分子の大半は国外に逃亡。

 それ故に事前に計画された「皇太子暗殺計画」は、

 物の見事にご破算となった。


 しかし念には念を押して、

 皇帝ナバールと皇太子ナバール二世を乗せた馬車には、

 最大級の護衛がついて、

 帝都内にも憲兵隊の多数が派遣された。


 車道と歩道の境界に、

 憲兵隊や近衛騎士団の騎士が陣取り、

 興奮する帝都市民や見物客を身体を張って食い止めていた。


 そんな中、マリーダは黒毛の馬に乗って、

 皇帝と皇太子を乗せた馬車のすぐ後ろの位置についていた。

 これは本来ならば、

 親衛隊長などが請け負う任務である。


 しかし皇帝の鶴の一声でこのような事になった。

 皇帝の狙いは、大衆の面前で、

 噂になっている「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」を披露する事にあった。


 勿論、ここ一ヶ月余りの襲撃事件で、

 マリーダの事を「人斬り戦女ヴァルキリー」と呼んで、

 嫌う者達も多数居た。


 だがそれと同じくらいの数の者達が、

 彼女の事を「救国の英雄えいゆう」と呼んで賞賛していた。


「皇帝陛下、皇太子殿下、万歳っ!」


「ガースノイド帝国に栄光あれっ!」


「見ろ、彼女はあの「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」だ!」


「おお、見目麗しい御婦人じゃないか!」


「何でもかつては、侯爵令嬢だったらしいわ」


「成る程、どおりで気品がある訳だ」


 周囲の野次馬達が好き勝手に歓声を上げる。

 その光景を見て、マリーダはシニカルな気分になった。


 かつての自分は、厚顔無恥の見本のような悪役令嬢であった。

 今の自分があの頃を思い返すだけで、

 とてつもなく恥ずかしい気分になる。


 だが今この場では、

 そんなマリーダの過去までもが美化されている。

 これはある意味、喜劇といえなくもない。


 だがそれと同時にマリーダはこうも思った。

 結局、人の世は弱肉強食。

 弱者は強者の餌となり、

 強者は弱者を踏み台にして、優雅な生活を送る。


 それはガースノイド帝国であろうが、

 アスカンテレス王国であろうが同じのようだ。

 そしてその為には勝ち続けなければならない。


 皇帝ナバールが戦場で無様な敗北を喫したら、

 ここに居る大衆もきっと手の平を返すであろう。

 しかしそれを責める気にもならなかった。


 大衆とはそういう生き物なのだ。

 だから権力者は勝つ事で権力を守るしかない。

 マリーダはゆっくりと馬を進めながら、そう胸に刻み込んだ。


 そういった観衆の注目を浴びながらも、

 皇帝ナバールは、威風堂々とした態度を貫いた。

 だが彼の子供――皇太子ナバール二世はとても緊張していた。


「皇太子、どうした? 気分でも優れないのか?」


 父親であり、皇帝の言葉に幼年の皇太子は首を左右に振った。


「いえ……凄い数の大衆に驚いております」


「そうか、だが臆する事はない。

 いずれはあの大衆が貴公に跪くのだ」


「そうですか、ところで父上」


「……何だ?」


「いつになったら母上と会えるのでしょうか?」


「……」


 皇太子の言葉にナバールも言葉を詰まらせた。

 皇太子はまだ五歳の子供だ。

 母親を恋しく思うのも当然であろう。

 だがナバールはマリベルを赦す気はなかった、


「機会があればまた会う事になるだろう。

 だが今は無理だ、だから貴公も今は我慢せよ」


「はい……」


 そう言葉を交わすと、

 皇帝も皇太子も会話を交わす事を止めた。

 名の知らぬ大衆の支持より、

 血の分けた母親と会いたい。

 そう願う皇太子は年相応の子供であった。



---------


 建国記念日から二週間後の7月31日。

 この頃になると連合軍の加盟諸国による海上封鎖は、

 露骨になり、帝国内の物流が滞り始めた。


 この異変にナバールは、

 連合軍による海上封鎖だと確信した。

 どうやら敵はジワジワと兵糧攻めをするつもりのようだ。


 そして国力が低下した所で、

 何らかの理由をつけて、帝国とその統治国に攻め込む。

 それが連合軍側が目論む戦略であろう。


 どのみちこのまま永遠に平和が続く筈がない。

 連合国がナバールと帝国の存在を無条件で、

 受け入れる事はないだろう。


 結局、ナバールと帝国は戦う事でしか

 他国に対して、自身と自国の存在を証明するしかない。

 ならばこちらが先手を打つべきだ。


 そしてナバールは、

 旧神聖サーラ帝国寮、旧ファーランド王国領。

 そして旧ペリゾンテ王国領から、

 大量の物資を帝国本土に集めた。


 更には先の戦いで得た賠償金の大半を使って、

 旧神聖サーラ帝国寮、旧ファーランド王国領。

 そして旧ペリゾンテ王国領で傭兵や冒険者による部隊を結成した。


 その数、総勢で十万を超える大軍。

 だが所詮は烏合の衆に過ぎない。

 ナバールの本命は別にあった。


 それは今度の戦いで、

 デーモン族をこの戦いに本格参戦させる事。

 その為にナバールは、

 ラマナフ大魔帝国だいまていこくの魔女帝ドミニク宛に、

 数枚に及ぶ親書を送った。


 細かい内容は割愛するが、

 一週間後の8月10日に旧ペリゾンテ王国領のホーランド宮殿で、

 皇帝ナバールとその臣下。

 そして魔女帝ドミニクとその臣下による会議を行いたい。


 というのが主な主題であった。

 この会議の結果次第では、

 今後の情勢が大きく変わろうとしていたが、

 魔女帝ドミニクは、

 魔帝都サーラリアペルグのアラムレード大宮殿に、

 「四魔将」の全員を招集して、

 今後デーモン族がどう動く、かを話し合おうとしていた。


 そして魔女帝と「四魔将」の全員が揃い、

 アラムレード大宮殿の二階の会議室で、

 今後のデーモン族の行く末について会議が始まろうとしていた。


次回の更新は2024年6月8日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ついにデーモン族が本格参戦ですか。 ナバールも連合国と本気で勝負するつもりですね。 直前の戦いでは勝利していますし、このまま勝ちの波に乗られると連合国としてはかなり辛い…
[良い点] ナバールとマリベルの再会は何時になったら来るのか。その時を信じています!
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