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第二百二十九話 王党派襲撃事件(前編)


---三人称視点---



 マリーダは入り口玄関の扉を開いて、

 宿の中へ踏み込んだ。

 その後に続くのがシュバルツ、バズレール。

 エマーン、レジス、魔剣士カリル、イザック。

 残りの者は表口、裏口のかためにまわっていた。


「なっ!?」


 入り口付近のロビーの受付に、

 座っていた二十半ばくらいのヒューマンの女性が

 襲撃者に気付くなり、両眼を見開く。


「――影の拘束(シャドウ・バインド)!!」


 マリーダは間髪入れず、拘束系の暗黒魔法を詠唱。

 すると前方で受付嬢の影の中から、

 黒い縄のような物が現れて、

 眼前の女性を緊縛した。


「き、き、きゃあああっ!?」


「黙りなさい! 喋ると殺すわよ!」


「っ!?」


 マリーダは即座に間合いを詰めて、

 黒い縄に緊縛された受付嬢に漆黒の魔剣の切っ先を向けた。


「いい? 言われたら事だけイエス、ノーで堪えなさい。

 言うことを素直に聞いたら、アナタは殺さないわ。

 ……理解したかしら?」


「は、はいっ!」


「声は極力出さないで!

 首を縦か、横に振りなさい」


 すると受付嬢が縦に何度も首を振った。


「王党派の連中は何階に居るの?」


「二階と三階に……居ます」


 小声で答える受付嬢。


「元帝国宰相ファレイラスは居るかしら?」


「い、居ます。 三階の大部屋に居るはずです」


「良い子ね、約束は護るわ。

 アナタはここで静かにしてなさい」


 マリーダの言葉に受付嬢は、再度首を縦に振った。


「ファレイラスは三階ですわ。

 私がファレイラスをりますわ。

 シュバルツ元帥、バズレール元帥。

 それとレジス将軍にエマーン将軍。

 あなた方で二階を攻めて頂けませんか?」


「……良いだろう」


 シュバルツ元帥は、やや間を置いて返事した。

 正直、彼としてもファレイラスを斬りたかった。

 だが元々、この襲撃計画は、

 マリーダとザイドが練り上げたもの。

 故にこの場は彼女の顔を立てる事にした。


「なんか下の階が騒がしいな。

 誰か居るのか?」


 と、王党派の一人が階段から一階を覗き込んだ。

 そして一階から見上げたマリーダと顔が合う。

 それに気付いた二十半ばの男性の王党派が

 思わず身を退こうとするが、

 マリーダは階段を高速で駆け上がり、

 相手に近づくなり、漆黒の魔剣を縦横に振った。


「ぐ、ぐあああぁっ!?」


「良し、我々も続くぞ!」


 続いてシュバルツ元帥が階段を駈け上がる。

 更にバズレール元帥とエマーン将軍も続く。

 すると王党派も異変に気付き始めた。


「何だ、騒々しい……えっ?」


「――ヴォーパル・スラストッ!」


 今度はシュバルツ元帥が槍術スキルを放った。

 両手に持った魔槍まそうレオルバーシュで、

 眼前の中年男性の王党派の胸部を一突きする。


「あっ……て、敵襲だあぁっ!!

 宿屋内に賊が侵入したぞぉっ!!」


 他の王党派のメンバーが大声で叫ぶ。


「マリーダ殿、貴公は三階へ上がりたまえっ!」


「シュバルツ元帥、分かりましたわ」


 この場はシュバルツ元帥達に任せて、

 マリーダは三階へ続く階段を二段飛ばしで駈け上がる。


「貴様等、帝国の賊かっ!?」


 右手に長剣を持ったシャルグレア子爵がそう叫ぶ。


「貴様等と話す舌は持たぬ」


 冷然とした口調で言い放つシュバルツ元帥。


「くっ、悪逆皇帝あくぎゃくこうていナバールは、

 遂に暗殺行為まで行うようになったか!

 帝国政府も手段を選ばんようになったな」


 と、シャルグレア子爵。


「……そう言う貴様等は、

 建国記念日に皇太子殿下の暗殺を目論んでいたではないか?

 先にテロ行為に及ぼうとしたのは、貴様等だ」


「ふんっ! 悪しき帝国を復活させた事によって、

 ガースノイドだけでなく、

 このエレムダール大陸にまた戦争が始まった。

 あの悪逆皇帝あくぎゃくこうていナバールは、最早戦争狂。

 あのような人物が上に立つようでは、

 ガースノイドに未来はない」


 シャルグレア子爵は、忌々しげな表情でそう言い放った。

 だがシュバルツ元帥は動じる事なく、逆に煽り返した。


「ふん、レイル十六世のような暗君あんくんの復活こそ害悪。

 貴様等、貴族はかつての王朝時代の権力と生活を

 取り戻したいだけであろう?

 それこそ時代の逆行でしかない」


「ふんっ、悪逆皇帝あくぎゃくこうていいぬめっ!

 だが我々は貴様等などに屈しないぞ!」


 そう言ってシャルグレア子爵は、

 右手に持った長剣を構えて、腰を落とした。


「貴族の青二才が図に乗るなっ!

 ――ダブル・スラストォッ!」


 シュバルツ元帥は、

 気勢を発しながら、二連撃を繰り出す。

 だがシャルグレア子爵も最低限の剣技けんぎの心得を持っていた。


 最初の一撃は、斬り払いで防いだが、

 次の二発目がシャルグレア子爵の左肩に命中。


「く、く、くうぅぅっ……」


 その衝撃と痛みでシャルグレア子爵は、

 二階から一階の階段に転げ落ちた。

 階下に居たレジス将軍が一刀を浴びせたが、

 シャルグレア子爵は、

 傷口を左手で押さえながら、宿屋の表に出た。

 だがそこで絶望する事となった。


「なっ……これはぁっ!?」


 宿屋の周辺が闇色の結界で覆われていた。

 左手でその結界に触るが、

 それと同時に左手に電流が走ったような痛みが伝わる。


「……こういう事もあろうと思ってな。

 事前に封印結界を張ってたのさ。

 ――イーグル・ストライクッ!!」


「ぐ、ぐ、ぐあああぁぁぁっっ!!」


 レジス将軍が銀の剣を水平に振るい、

 シャルグレア子爵の喉笛を綺麗に横に切り裂いた。

 相手の急所を瞬時に突いて、

 瞬く間にシャルグレア子爵を戦闘不能状態にした。


「レジス将軍、ったのか?」


 二階からエマーン将軍の声が響いてきた。


「嗚呼、今から加勢に向かうよ」


 そしてレジス将軍も二階へ進んだ。

 その間にも二、三階で、

 帝国軍の襲撃部隊と王党派による戦いは賊いていた。


 こうして後に王党派襲撃事件と呼ばれる血生臭い襲撃によって、

 今もこの瞬間に王党派のメンバー及びシンパの命が奪われていた。



次回の更新は2024年5月29日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 帝国の戦力のほぼ全てが王党派を潰すために動いていますね。 これだけの戦力がいれば、ほぼ確実に暗殺は成功するでしょう。 そして、王党派の勢力も一気に潰すことができそうです…
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