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第二十二話 御前会議(後編)


---三人称視点---



 10分後、ほぼ時間通りに皇帝ナバール一世は、

 宰相ファレイラス、総参謀長フーベルグ、親衛隊長ザイドらと共に純白のマントを翻して、

 さっそうと臣下達の前にその姿を現せた。


 それと共に室内に、緊張の波が走り、列席者の側近は、

 全員その場にて起立した。誰一人姿勢を崩すことなく、

 皇帝が上座に腰掛けるまで、敬礼の姿勢をやめようとしなかった。


 皇帝ナバールは特別美男子という訳ではなかったが、

 精悍な顔つきをしており、その目に覇気を宿らせていた。

 身長は168セレチ(約168センチ)とやや小柄であったが、

 全体的な風格に勇ましさがある。


 漆黒のコートに純白ベスト、黒スラックス。背中には純白のマントという格好も様になっていた。そして帝国の支配者たる中年男性は、臣下達の緊張をほぐすかのように、軽く右手をあげた。それに習うかのように、全員、一礼してからまた自席に座る。宰相ファレイラス、総参謀長フーベルグ、親衛隊長ザイドらも自席に座ると、席がほぼ埋まった。


 皇帝ナバールの鳶色の瞳が冷然たる輝きを放ちながら、臣下達の姿を直視した。

 そして皇帝は形の良い唇を動かし、凜とした声で言葉を発した。


「卿等に集まってもらった理由は言うまでもない。

 今日の御前会議で作戦概要が決まり次第……我々帝国軍は連合軍と全面衝突する」


 この言葉と共にまた会議室内が、ざわめいたのは言うまでもない。

 顔を見合わせる者、黙って聞く者、一人神妙に考え込む者。

 その反応の違いは程度の差はあるが、

 やはり一定以上の緊張感と高揚感が彼、彼女らの中枢神経を駆け抜けた。


「いよいよですな……陛下、私はこの瞬間を長年待ちわびておりましたッ!」

 

 興奮気味のラング将軍が、身を乗り出して右拳を強く握ったまま力説した。

 後に続く者は居なかったが、それに類する感情を抱いている者も少なくなかった。


「皇帝陛下……是非ともこのヴィクトール・ラングに兵をお任せください。

 必ず陛下のご期待に応えられる働きをしてみせましょう!」


 この発言は、越権行為も良いところだったが、

 ナバールは特にとがめなかった。このような強引さと自己顕示欲の強さが、

 ラング将軍の最大の特徴であり、また長所であることを知っていたからだ。


「まあそう慌てるな……卿のその覇気と積極性は買うが、

 物事は大局を見て決めるものだからな」


 と、ナバールが軽くいなす。

 そしてナバールは無言で総参謀長フーベルグに視線を向ける。

 するとフーベルグが席から立ち上がり、

 エレムダール大陸の地図を近くの黒板に貼り付けた。


「恐らく連合軍は、エストラーダ王国を根拠地として我が帝国領に進行するであろうが、

 その際にあたって考えられる進行ルートは二つ。エストラーダの国境線を

 越えて真正面から帝国領へ攻め込むか、

 迂回して港町ジェルバへ奇襲をかける可能性も高い」


 皇帝の忠実なる臣下達の目線もおのずと、その地図に集中する。

 正攻法で攻めるなら正面決戦を選ぶだろうが、

 奇襲戦法で港町ジェルバを奪還して海路を確保して、

 帝国領の東部にある神聖サーラ帝国と共闘する可能性も高い。


 その場合、下手すると西部、東部から連合軍、

 神聖サーラ帝国に挟撃される危険性も秘めていた。


 積極的、控えめながら、慎重論、各将帥達が、

 それぞれの意見を述べ作戦概要もおおむね決まっていく。

 皇帝ナバール一世は、黒髪をかきあげ、最大の焦点である陣容発表に入ろうとした。


 雰囲気と空気から、それを感じ取った臣下達も静まり返り、

 固唾を飲んで、彼の言葉を待つ。

 皇帝は一望するかのごとく、目線をゆっくりと各将帥達に移していく。


 ヴィクトール・ラング将軍は、拳を握りしめ身体を微動させていた。

 その眼は――俺に指揮権を与えてくだされ、と訴えかけていた。

 ハーン将軍は、それを横目で見ながら、対抗心を浮き彫りにした表情を浮かべている。

 シュバルツ、ネイラール辺りは、普段通り静かに事の成り行きを見守っていた。

 壮年の皇帝は、臣下達の顔を見据え、注目を一身に集めながら、高らかに陣容発表をした。


「ラング、ハーン」


「はっ!」


 二人とも同時に席から立ち上がり、敬礼しながら高らかにそう叫ぶ。


「卿らに命じる。卿らの指揮下の二個騎士団を持って、可及的すみやかに、

 エストラーダの国境付近におもむくべし。総指揮官にはラング将軍を任命する、

 ハーン将軍は現地の総督府及び将軍と協力して、総指揮官の補佐をこなしながら、

 状況に合わせて、臨機応変に動いて、連合軍を完膚なきまで叩き潰せ!」


「御意!!」


 ラング将軍は大声でそう答えた。

 少し白髪の混じった黒い髪の下で、ラングの顔が紅潮した。

 彼の期待と希望は、最上の形と結果で、報われたのである。次に皇帝ナバールは瑠璃色の瞳を、シュバルツ元帥とネイラール将軍、親衛隊長ザイドに向けた。


「シュバルツ元帥、ネイラール将軍! ザイド帝都防衛司令官」


「「「はっ!」」」


「シュバルツ元帥とザイド隊長は、帝国内に留まり、他国の動きや……各地での

 反乱部隊の動きに、眼を光らせておけ」


「「御意っ!!」」


「ネイラール将軍!」


「はっ!」


「卿には港町ジェルバの防衛を任せる。

 現地の総督府と協力して、何としてもジェルバを護れっ!」


「御意」と静か答えるネイラール将軍。


 皇帝は、一通りの陣容発表を終えると、一息をつくかのように、上座に腰掛けた。

 そして幼年学校の従卒の少年が、持ってきた熱い紅茶の入ったティーカップに、

 二口ほど口をつけてから、臣下達の顔に視線を向ける。


 案の定、臣下達の表情には、それぞればらつきがあった。

 ラングは、最大の至福の時と言わんばかり、

 喜びを身体全体表現するかのごとくであった。


 ハーン、シュバルツ、ネイラール、ザイド辺りは、

 表情から、いつも通りに与えられた任務をまっとうしようと読み取れた。

 そして皇帝ナバールは、腰帯からを白銀の宝剣を抜剣して、頭上に掲げながらこう叫ぶ。


「卿等らの賛同も得られたようだな。 ではこれより我が帝国同盟軍は、

 本格的に連合軍と交戦する。 余は卿等命じる……。

 必ず勝て! 圧倒的な勝利を収めよ!!

 我々は我々自身の手で、自らの未来と栄光を掴み取るのだ!

 では卿等の武運と勝利を心より願わせてもらう、ガースノイド帝国に栄光あれ!」


 皇帝の言葉が、臣下達の胸に、重く響き渡った。

 その反応は様々であったが、臣下達の覇気と闘志を滾らせた事だけは共通していた。

 抑えられない覇気と熱気を吐き出すかのように、

 ラング将軍が皇帝の後に続くように叫んだ。


「皇帝ナバール陛下!!ばんざい!!」


「ガースノイド帝国ばんざい!!」


 室内が覇気と熱気で埋め尽くされ、

 皇帝と忠実な臣下達の胸の鼓動を、加速的に早まらせた。

 彼等のその覇気と闘志をいかんなく発揮させる舞台は整った。


 アスカンテレス王国とサーラ教会及び教会軍を主軸としたエレムダール連合軍。

 対する皇帝という存在の許に歴戦の勇者達が集結したガースノイド帝国。

 この先の戦いでどれだけ多くの血が流されるかはわからない。

 ただその量は限りなく多量ということだけは言えた。


 それぞれの思いが交錯するなか、

 会議は終幕を迎え、ナバール一世は宰相と総参謀長を引き連れて、踵を返した。

 敬礼でそれを見送った臣下達は、胸のうちが熱くなるのを自覚しつつ散会した。


次回の更新は2023年2月17日(金)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どちらにとっても、生命を懸けた闘いなんですよね。 つい主人公を推してしまいますが。 戦いをどんなふうに描いてくれるのか楽しみです!
[良い点] この2話に渡っての帝国側の会議内容、良いですね。 それぞれ思惑や一癖も二癖もある将たちですが、現段階では皇帝の元、一枚岩となっている。 強敵ですな。 [一言] こんにちは。 この次ぶつか…
2023/02/16 12:35 退会済み
管理
[一言] 更新お疲れ様です。 リーファ達がぶつかるのは、2人の将軍か。それともネイラールか。 正々堂々正面突破か、迂回して海からか。 海だと海上戦も... いや大穴で、2つ同時に攻めるとか?
感想一覧
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