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第二百二十六話 人斬り戦女(ヴァルキリー)


---三人称視点---



 暗がりで顔はよく見えないが、

 ヒューマンらしき三人組が、

 闇に馴染むフーデッドローブを纏い、

 その手には漆黒の長剣が握られていた。


「……き、貴様等! な、何者だぁ!?

 私はガースノイドの貴族ジラール男爵だ。

 それを知ってのこの振る舞いか!?」


 精一杯の虚勢を張るジラール男爵。 

 良くも悪くも貴族らしい振る舞いだ。

 すると中央に立つ黒づくめの女騎士――マリーダが一歩歩み出た。


「無論、承知の上よ。

 王党派のシンパ――ジラール男爵よ。

 命が惜しければ、王党派のメンバーの個人情報と

 王党派の活動内容を我々に教えよ!」


 一方的な言いようにに、

 ジラール男爵もいたく自尊心プライドが傷つけられた様子。

 ジラール男爵は、顔を真っ赤にして反論する。


「ふざけるなぁっ!

 貴様等なんぞ誰が教えるもの――」


「――影の拘束(シャドウ・バインド)!!」


 マリーダが覚えたての暗黒魔法を詠唱する。

 すると前方で息巻くジラール男爵の影の中から、

 黒い縄のような物が現れて、眼前の男爵を拘束する。


 影の拘束(シャドウ・バインド)は、

 標的を拘束する暗黒魔法だ。

 ジラール男爵は「馬鹿な!」と叫び、

 黒い縄を解こうと暴れ回る。


 そんな最中、マリーダは距離を詰めて、

 左手でジラール男爵の口の辺りを押さえた。


「う、う、うぐっ……!?」


 今のマリーダの握力は、100キール(約100キロ)を超えている。

 マリーダの左手がジラール男爵の口元に強く押さえ込んだ。


「う、う、うっ……!?」


「これから幾つか質問するわ。

 死にたくなかったら、正直に答えなさい。

 肯定なら首を縦に、否定なら首を横に振りなさい」


「う、うううっ……」


「逆らうと、この漆黒の魔剣を口の中に突き刺すわよ?」


 左手で顔を押さえて、

 これみよがしに右手の魔剣で威嚇するマリーダ。

 するとジラール男爵が何度も首を縦に振った。


「では聞くわ。 今日の会合の場に、

 フーベルグ警務大臣とファレイラス元宰相は居たの?」


 マリーダの問いに首を左右に振るジラール男爵。


「ならば質問を変えるわ。

 フーベルグ警務大臣とファレイラス元宰相は、

 貴方達の会合に最近参加したかしら?」


 再度、首を左右に振るジラール男爵。


「……でも貴方達は、

 フーベルグ警務大臣とファレイラス元宰相とコネクションがあるわね?

 特にファレイラス、彼の潜伏先は分かるかしら?」


 ジラール男爵は、マリーダの問いを首を振って否定する。

 するとマリーダは左手に掴んだ男爵の口元を強く握った。


「あ、あ、あがががっ……」


「最近の潜伏先でなくても良い話。

 貴方が知る範囲で何処に居たか教えて頂戴」


「い、い、痛い。 ま、まずは口元を押さえるのを止めてくれ」


「いいでしょう。 それで彼の潜伏先は?」


「わ、私が知る範囲だが、

 フーベルグ警務大臣の邸には時々訪れていたようだ。

 それと帝都の郊外の邸、

 またアームカレド教国やヴィオラール王国にも

 彼は拠点を……持っているようだ」


「成る程、やはりフーベルグ警務大臣と繋がっていたか。

 やはりあの男は早い段階で始末すべきだわ」


「こ、これだけ喋ったんだ。 わ、私の命は……」


「そうね」


「君のことはけっして口外しない」


「あっそ、でも貴方はもうお役御免よ」


 マリーダはそう云って、

 右手に持った漆黒の魔剣でジラール男爵の喉笛を切り裂いた。


「あ、あ、あがががっ……ご、ごばあああぁぁぁっ!!」


 悲鳴を上げながら、喉元を押さえるジラール男爵。

 そして止めを刺すべく、

 マリーダはもう一度魔剣を振って、

 ジラール男爵の喉笛に更なる剣傷を刻む。


 これが致命傷となり、

 ジラール男爵は、口を開閉しながら地べたに倒れ込んだ。

 そんな彼に対して、マリーダは吐き捨てるように告げた。


「王党派の連中なんか信用するわけないでしょ」


「マリーダ様、周囲に人の気配はありませんが、

 そろそろこの場から去った方が良いと思います」


 そう言ったのは、マリーダの付き添い人だ。

 女性のダークエルフで職業は魔剣士。

 彼女の名前はカリル・クーザン。

 

「私もカリルと同意見です」


 もう一人の付き添い人も同調する。

 三十前後の男性竜人族で職業は暗殺者アサシン

 彼の名前はイザック・ランベール。


「そうね、そろそろ引き際ね。

 とりあえず転移石で帝城まで飛ぶわよ」


「「はいっ!!」」


「転移! ガルネス城の城門前!」


「転移! ガルネス城の城門前!」


 マリーダ達は、そう叫んで手にした転移石を頭上に掲げた。

 鈴を鳴らしたような音色と共に、転移石が激しく砕け散った。

 同時にマリーダの身体が白い光に包まれ、

 数秒後にはその姿が消え失せた。


 ……。

 約一分後。

 マリーダ達の意識が覚醒する。


 気がつけば、彼女等はガルネス城の城門の近くに立っていた。

 どうやら無事に転移できたようだ。

 ちなみに転移石は、一回使えば必ず壊れる上に、

 一個あたり五万ラルク(約五十万円)する高額商品だ。


 それ故に転移石を使う際には、

 細心の注意を払う必要があるが、

 今回、またこれまで王党派のシンパを暗殺した際の転移石は、

 マリーダが自腹を切って、シリル達に渡していた。


 しかしこれは必要経費といえた。

 マリーダだけでなく、

 カリルとイザックも剣術に長けており、

 また密偵や暗殺者としての能力も高かった。


 これまで基本的にこの二人と行動を共にしてきたが、

 転移石があるとないとでは任務の成功率も違った。

 

「今回も無事成功しましたね」


 と、カリル。


「ええ、でも本丸のファレライスは未だに

 その消息すら掴めてないわ」


「しかしマリーダ様、ファレイラスの暗殺は、

 皇帝陛下から禁じられているのですよね?」

 

 と、イザック。


「ええ、でも彼奴きゃつを生かしておくと、

 帝国の災いになるのは明白。

 だから皇帝陛下から罰を受けても、

 私はあの男を早い段階で始末しておくべきと思うわ」


「そうですね、ならばこれまで通りに、

 密偵、暗殺任務に精を出すべきですね」


 と、カリル。


「ええ、でもあまり暗殺を多発するのも良くないわ。

 やるなら二週間に一度くらいの頻度が良いでしょう」


「それぐらいが良いと思います」


 と、イザック。


「では今夜はこれで解散するわ。

 二人ともご苦労様」


「「お疲れ様です」」


 こうして今宵の暗殺任務は無事終了した。

 その後、マリーダ達は二週間に一度の頻度で

 暗殺任務を繰り返したが、

 王党派もマリーダ達の存在に気付き始めた。


 そして暗殺犯がマリーダである事も薄々感づいた。

 その結果、マリーダは王党派から「人斬り戦女ヴァルキリー」と呼ばれる事となった。


 二週間後、マリーダ達は再び暗殺任務を行ったが、

 その際にようやくファレイラス元宰相の情報を掴んだ。

 王党派の話によると、

 来月の建国記念日を祝うパレードで、

 皇帝ではなく、皇太子の暗殺を目論んでいるとの話だ。


「これは看過できない事態ね。

 怒られる覚悟で皇帝陛下にファレイラスの暗殺を申し出るわ」


 こうして休戦状態が続く中、 

 水面下では様々な思惑が交差していた。



次回の更新は2024年5月18日(土)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[良い点] 油断は禁物ですね。果たしてどうなるのか気になります!
[一言] 更新お疲れ様です。 ファレイラスさん、早めに居場所がわかりそうですね。 でも、どうして皇太子を狙うのでしょうか。 子孫を絶って一代だけの王朝にしているのかもしれません。 さすれば、メタ的…
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