第二百二十二話 一心同体
---主人公視点---
連合軍と帝国軍の休戦協定が結ばれて、
三日後の聖歴1757年4月17日。
ラミネス王太子率いる連合軍の主力部隊は、
兎人領の北部エリアまで撤退した。
連合軍は約束通り帝国本土に敷いた包囲網を解き、
皇帝ナバールは、皇太子と共に帝都に凱旋を果たしたわ。
これで表向きは平和になった。
そうなると私とその盟友もお役御免という事になる。
そして私達五人は、
ラミネス王太子が陣取る本陣に呼び出された。
それから本陣の天幕の前で身体検査された。
私達は武装解除して、天幕の中へ入る。
「戦乙女とその盟友、ただ今参上しました」
「うむ、リーファ嬢。 よく来てくれた」
ラミネス王太子は、本陣の床几に腰掛けながら、
こちらに視線を向けた。
「今回の戦いでも君達は、連合軍に多大な貢献をしてくれた。
だから前回同様に君達一人一人に報奨金を出そう。
一人頭、一千万ローム(約一千万円)を出そう。
冒険者ギルドの銀行口座に送金したいので、
君達の冒険者の証を提出して貰いたい」
今回も一千万ローム(約一千万円)も貰えるのね。
この辺りは気前が良いわね。
「はい」
私達は言われたとおりに、冒険者の証を提出する。
するとラミネス王太子は、、
私達の冒険者の証の登録番号を手元の羊皮紙に、
羽根ペンでシュシュッと書き写した。
金額が金額ですからね。、
このように銀行振り込みしてもらう方がお互いに良いわね。
そしてラミネス王太子は、
私達の冒険者の証を手渡して返してくれた。
「今回の戦いでも君達は、
連合軍に多大な貢献をしてくれた。
故に報奨金以外にも冒険者ランクや魔法ギルドの昇級をさせよう。
リーファ嬢、そして盟友一行の各ランクを教えて欲しい」
「私は冒険者ランクAで魔法ギルドBランクです」
私は端的にそう伝えた。
「オイラは冒険者ランクBで魔法ギルドCランクだよ」
「私もジェインと同じく冒険者ランクBで魔法ギルドCです」
と、アストロス。
「私は冒険者ランクBで、魔法ギルドBランクです」
と、エイシル。
「あたしもエイシルと同じで、
冒険者ランクBで、魔法ギルドBランクですわ」
ロミーナもそう主張する。
するとラミネス王太子は、「うむ」と頷いた。
「ならば各自のランクをワンランクずつ昇級させよう」
「……宜しいのですか?」
これは破格の条件ね。
だから私はあえて躊躇する素振りを見せた。
するとラミネス王太子は、事務的な口調で――
「過去の戦い、そして今回の戦いで、
君達は連合軍の為に尽力してくれた。
だからこれぐらいの褒美は当然であろう?
遠慮など要らぬ、ここは素直に受け取るが良い」
「は、はい……」
ここは王太子殿下の厚意に素直に甘えるべきね。
これは私だけで無く、
アストロス達にも恩恵がある話ですからね。
「これまで本当によく戦ってくれた。
だが帝国との戦争もこれで終わりだ。
だから君達のパーティも再び解散してもらう」
「……」
「どうした? 不服なのか?」
……そうね。
ここは素直に私の意見を述べるべきですね。
「不服という訳じゃありません。
ですがパーティの解散は、少し待って頂けませんか?」
「ん? 君は何を考えているんだ?」
「王太子殿下、ハッキリと申し上げます。
今回の連合軍と帝国軍の休戦協定は、
そう長く続くものだとは思いません。
ですので再び始まる戦いに向けて、
私とその一行は、休戦期間中もパーティを
継続して組んで、討伐依頼や各自で稽古をつけて、
次なる戦いに備えたいと思います」
「成る程、君はそう考えるんだな」
「はい、このままナバール。
そしてその配下のマリ-ダがずっと大人しくしている、
なんて事はないと思います」
「まあ……その可能性はあり得るな」
「ええ、ですのでこのままパーティを組んだ状態で、
私個人、そして仲間との戦闘練度などを上げて、
来たるべき時に向けて備えたいと思います」
「まあ……私個人はそれでも構わんが、
そこの魔法剣士の彼やジェイン……君は良いとして、
そこのエルフの女性魔導師、兎人の御婦人はどうなのかな?」
そう言ってラミネス王太子は、エイシルとロミーナをちらりと見る。
王太子殿下のご指摘は尤もだわ。
彼女等はあくまでエルフ族や兎人勢力から、
派遣された人材、私の独断で彼女等の動向を決める権利はないわ。
「ボク……いえ私は上層部が赦して頂けるなら、
リーファさんに同行したいと思います」
「あたしもエイシルと同じ意見ですわ。
このままパーティを離脱するのも何処か消化不良ですわ」
エイシルとロミーナがそう主張した。
どうやら彼女達もまだ戦うつもりのようね。
ならばここは王太子殿下のお力を借りるべきね。
「休戦期間中の彼等、彼女等の給金に関しましては、
私が自己負担します。 とりあえず一人頭一ヶ月五十万ローム(約五十万円)を
用意しますわ。 ですので王太子殿下の方からも
エルフ族や兎人の上層部に掛け合って頂けませんか?」
「……う~ん」
私の提案に唸るラミネス王太子。
流石に即答しかねる問題よね。
でもここは辛抱強く行きましょう。
「まあいざという時の保険は必要だな。
それと盟友一行の給金は、
アスカンテレス王国が出させてもらう」
「……良いのですか?」
「嗚呼、我が国にはそれぐらいの資金はあるさ。
何より戦乙女一行を冷遇したら、
色々と外聞も悪いからな」
「……お気遣いありがとうございます」
「各種族の王族、首脳部には私から話を通しておくよ。
しかしリーファ嬢、君もなかなか奇特な人物だな」
「……何がでしょうか?」
するとラミネス王太子は、
わざとらしく両肩を竦めた。
「表向きはこれでしばらくは、平和な訳であろう?
君も晴れて自由の身だ。
そんな中で戦争を再開に備えて、
自身の自由を放棄する。
……普通の人間には、真似出来ない芸当だ。
君をそこまで駆り立てる力は何だね?」
「勿論、祖国アスカンテレス王国と、
エレムダール大陸の真の平和の為です。
……というのは、無論建前です」
「……それで本音は?」
ここはあえて本音を伝えるべきね。
私は表情を引き締めて、声高らかに宣言する。
「……本音はあの漆黒の戦女に負けたままでは、
寝覚めが悪いからです。 機会があれば、
この手で雪辱したい、それが私の本音です」
するとラミネス王太子は、
こちらを見据えながら、両眼を瞬かせた。
それから一呼吸を置いて、小さく笑った。
「やれやれ、君は病的な負けず嫌いなんだね。
まさか君がそこまで気丈な性格とは思わなかったよ。
でもある意味、戦乙女に相応しい人材なんだろうな」
「……ありがとうございます」
「まあ細かい事は、帰国してからにしよう。
私も長期に渡る戦争と会議で疲れている。
だから君達はもう下がってよいぞ」
「はい、失礼します」
そして私達は、踵を返して本陣を後にした。
それから本陣から離れると、
ジェインやエイシル、ロミーナが無言でこちらを見ていた。
「……」
この空気、皆も少し引いたようね。
流石に少し本音を言いすぎたかしら?
「お姉ちゃんは確かに凄い負けず嫌いなんだね。
でもオイラはそういうお姉ちゃんが好きだよ」
「ジェイン、ありがとう」
「私もリーファさんのそういう所が好きです」
「あたしもよ。 ある意味、戦乙女が天職と思うわ」
エイシル、ロミーナも私を支持してくれた。
どうやら私の思い違いのようね。
でも戦乙女が天職か。
これは喜ぶべきか、悩むところよね。
「お嬢様、母国に帰国した際には、
些事は私にお任せください」
「アストロス、いつもありがとう」
これで全員の同意は得られた。
まずは戦争の事はひとまず忘れて、
三、四週間はゆっくりと静養したいわ。
でも私は必ず戦場に戻る。
そしてこの手でマリーダを倒してみせるわ。
だけど今のままじゃ彼女に勝てないかもしれない。
その為にも剣術や魔法の鍛錬は必要ね。
でも今くらいは、ゆっくりしてもいいでしょう。
「さあ、皆。 我が母国アスカンテレスへ行きましょう。
いずれ戦場に戻る事になるでしょうが、
数週間はゆっくり過ごしましょう。
戦士にも戦乙女にも静養は必要だわ」
「「はい」」「「うん」」
こうして私は生きて、母国に帰る事となった。
でもこの時点でも既に分かっていた。
このまま連合軍と帝国の戦いが終わるわけがない。
という事実を。
だけどひとまずそれは忘れて、
ラミネス王太子に用意してもらった豪奢な馬車に乗って、
私達はアスカンテレス王国へ向かった。
でもこのままでは終わらないわ。
私は必ず戦場に帰って来る。
それが戦乙女に与えられた役割ですからね。
次回の更新は2024年5月8日(水)の予定です。
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