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第二百二十一話 鳩首凝議


---三人称視点---



 その後も連合軍と帝国軍は、四度に及ぶ会議を行った。

 それによって連合軍は、

 帝国軍に対して二億三千万ラルク(約二十三億円)の賠償金を払う事となった。


 また猫族ニャーマンのニャルザ王国が

 自国の鉱山の一部の採掘権を帝国に譲渡。

 それに加えて、帝国内における関税の引き上げなどの

 好条件を突きつけて、帝国側の説得に成功。


 こうして聖歴せいれき1757年4月14日に、

 連合軍と帝国軍は、正式な休戦協定を結んだ。

 これに対する各国の王族及び首脳部の反応は様々であった。


 停戦を歓迎する者も居れば、

 帝国との徹底抗戦を望む者も居た。

 だがそれらの外野の人間は、

 表舞台に立つ事はなく、

 あくまで安全圏からの発言に過ぎない。


 ラミネス王太子は、

 最初こそ長期的な休戦協定を望まない。

 と、主張していたが、

 実際、彼も彼の母国も戦争によって疲弊していた。


 また彼としては、

 この休戦期間を生かして、

 他大陸の諸国を植民地化して、

 大国ヴィオラールのように、経済力を増して、

 兵力の増強に取り組んで、富国強兵の実現を望んでいた。


 結局の所、連合軍にしても、

 帝国軍にしても我が身と母国が一番大事で、

 どういう形であれ、

 戦争が終わる事を心の何処かで、

 望んでいたのかもしれない。


 こういう現状を見て、

 リーファとその盟友も何処か達観した気分になっていた。

 ちなみにホーランド宮殿の会議場では、

 義妹マリーダと何度も顔を合わせたが、

 お互いに言葉を交わす事は皆無であった。


 だが遠目から見ただけだが、

 リーファもマリーダが過去とは違い、

 人間的にも戦士としても成長している事を理解した。


 ――他人ひとはほんの短期間で成長するものなのね。


 マリーダを見ながら、

 リーファは一人そう思いふけた。

 案外、他人もリーファが戦乙女ヴァルキュリアになった時、

 似たような感想を抱いていたのかもしれない。


 いずれにせよ、今回の休戦によって、

 リーファもその仲間も今後の方針が未定となった。

 そして三日後の4月17日。


 リーファとその盟友は、

 ラミネス王太子と共に帝国の東部エリアへ移動。

 それから帝国の東部エリアに駐屯した

 ラミネス王太子が率いる連合軍の主力部隊の本陣に招かれた。


 リーファ達の視界に、

 大きくて華美なテントの天蓋が映る。

 ラミネス王太子の本陣だ。

 そのテントの出入り口で、

 屈強な男性ヒューマンの兵士が二名立っていた。


「そこの五人組、一度その場で止まってください」


 兵士の一人がそう警告する。

 リーファ達はその言葉に従い、その場で停止した。


「……戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友一行ですか?」


「ええ、そうよ。 

 気になるなら私の冒険者の証を提示するわ」


「……では左手で自分の冒険者の証を提示してください」


「分かったわ」


 リーファ達は、兵士に言われるまま、

 自分の冒険者の証を左手に持って、

 眼前の二人組に提示した。


「どうやら本物のようですね。

 王太子殿下からお話は聞いております。

 どうかご自由にお通りください」


 安全確認が終わり、警備兵二人は敬礼する。

 少々手間がかかるが、

 連合軍の総指揮官の警護ならば、

 これぐらい用心するのは当然とも云えた。


「ラミネス王太子殿下。

 戦乙女ヴァルキュリアリーファです。

 ご命令通り盟友を引きつれて、参上しました」


「リーファ嬢か、中に入るが良い」


「はいっ!」


 王太子の言葉に従い、

 リーファとその盟友は天蓋の中へ入った。

 すると天蓋の中央部の床几しょうぎに、

 ラミネス王太子が腰掛けており、

 その近くに副官ブラッカー。

 それと騎士フローラと騎士バジーリオが立っていた。


「リーファ嬢に盟友一行よ。

 よく来てくれた、私や周囲に気にする事無く、

 楽な姿勢を取って、私の話を聞いてくれ」


「お心遣い感謝します」


 だがリーファ達は直立不動の姿勢を崩さない。

 するとラミネス王太子は、

 その双眸でリーファを見据えながら、口を開いた。


「君達も休戦会議に同行したから、分かるであろうが、

 これからこの東部エリア、そして他の包囲網も

 同時に解く予定だ。 だが予想外の事態が起こるかもしれん。

 だから君達に私の護衛を務めてもらいたい」


「はい、謹んでお受け致します」


「うむ……」


 そして東部エリアだけで無く、

 北部、西部、南部エリアの連合軍が帝国の国境から離れた。

 その光景を見た皇帝ナバール率いる帝国軍の本隊五万人は、

 ハーン、バズレールの両元帥と共に、

 帝国への帰り道を堂々と突き進んだ。


 ちなみにタファレル元帥は、

 ペリゾンテ王国に残って、駐留部隊を指揮する事となった。


 今ここで条約を破棄して、反転攻勢をかけたら、

 帝国軍と皇帝ナバールを倒す事が可能であろう。

 四方に散らばった連合軍の指揮官は、

 似たような感情を抱いていた。


 だが条約はきちんと護らなければならない。

 そうしなければ、連合軍の正当性は保たれない。

 各指揮官がそう自分に言い聞かせた。


「このように帝国に凱旋出来るとはな。

 どうやら母なる大地ハイルローガンは、

 余の事をまだまだ見捨ててんないようだな」


 そう云って意気揚々と凱旋する皇帝ナバール。


「しかし陛下、油断は禁物です。

 連合軍の連中が急に条約を破棄する可能性もあります」


 と、釘を刺す総参謀長ザイド。

 

「その時はその時だ。

 ザイド、けいの云う事も分かるが、

 ここは心に余裕を持って、凱旋すべきだ。

 我々は勝ったのだ、勝者なのだ。

 だから勝者らしい態度で凱旋するのさ」


「……分かりました」


 口ではそう言いながらも、

 ザイドは周囲に目を配りながら、

 連合軍の様子を絶えず窺っていた。


 こうして帝国軍が帝都に凱旋するまで、

 約五日間の時間を要する事となった。

 帝国が凱旋する姿を遠方から見て、

 ラミネス王太子は渋い表情を浮かべていた。

 

「こうして帝国軍が凱旋する姿を

 目の当たりにするとはな……」


「王太子殿下のお気持ちは分かります。

 ですがここは堪えてください。

 これでしばらくの間は平和が訪れます」


 と、副官レオ・ブラッカー。


「しばらくの間……か。

 その平和がいつまで続くか見物だな」


「……いずれにせよ、今は耐えてください」


「分かっているさ、私も莫迦ばかじゃない。

 今は大人しく見守っているさ。

 だが再戦の機会があれば、その時は……」


 そう言って、ラミネス王太子は、言葉を呑み込んだ。

 こうして連合軍と帝国の間に、

 正式に休戦協定が締結された。


 この平和がいつまで続くかは、

 分からないが、兵士達や各国の民は、

 心から望んだ平和に喜びを露わにした。



次回の更新は2024年5月5日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 思えば、作中で4ヶ月間ずっと戦争が続いていましたからね。ここらで一時の平和も悪くないでしょう。 21章から、マリーダとの戦闘が止まりませんでしたし日常編が楽しみです。…
[良い点] 休戦となったが、戦いは今後どうなるのか気になります!
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