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第二百二十話 機略縦横(後編)


---三人称視点---



「色々と申しているが、

 我々の既得権益を許容しているだけではないか。

 貴公等――連合軍自体は何も対価を払ってないぞ」


「……」


 ナバールが鋭利な声でそう指摘する。

 するとラミネス王太子は、黙り込んだ。

 勿論、王太子とてそんな事は理解している。


 だが最初から譲歩するのではなく、

 相手と議論を重ねた上で、

 譲歩、ひいては歩み寄りの姿勢を見せる。

 それが外交駆け引きの鉄則だ。


「しかし我々も帝国に敗北を喫した訳ではない。

 我々の立場は、あくまで五分五分。

 と私は思ってますが……」


 宰相シークが王太子をアシストする。

 だがこの言いようは、皇帝の神経を逆撫でした。


「五分五分だとっ……?

 馬鹿を申すな、ファーランド王国、

 ペリゾンテ王国での戦いで我が軍は大勝した。

 それに対して、貴公等は無様な撤退をしたではないか!」


「……無様な撤退ですか」


 今度は皇帝の言葉にシャーバット公子が怒った。

 その負の感情が瞬く間に周囲に伝染する。

 ……前にレーガー統領が場の空気を和らげる。


「まあ、まあ、そう興奮せずに!

 ここは冷静に行きましょう、冷静に!」


「……余は冷静だ」


「私もだ……」


 仲裁の言葉を聞いて、

 皇帝と王太子も一応は落ち着きを取り戻す。

 だがお互いに譲れる部分と譲れない部分がある。

 

 両者をそれをひた隠しながら、

 言葉のやりとりでなんとか主導権を握ろうとする。


「そもそも停戦協定を申し込んで来たのは、

 貴公等ではないか? 

 それに対する誠意を見せるのは、当然の義務と思うが……」


「誠意ですか、どのような誠意を見せれば良いのでしょうか?」


 皇帝の言葉にグレイス王女がそう口を挟む。

 すると皇帝は冷然とした口調で応じる。


「そうだな、賠償金や貴国等の領土の一部を割譲かつじょうする。

 などといくらでもあるであろう」


「賠償金に領土の割譲ですとっ!?」


 予想外の言葉に声を荒げるラミネス王太子。

 だがそんな彼を宰相シークがやんわりと宥めた。


「まあまあ、王太子殿下。

 そう興奮なさらずに、ここはまずは皇帝陛下のお言葉に、

 耳を傾けましょう。 出来るかどうかは別にして、

 帝国側としても戦勝利権は主張したいでしょう」


「ふむ、流石は大国ヴィオラールの宰相だ。

 物の道理というものをよく理解されている」


 と、皇帝ナバール。


「いえいえ」


「それで貴国はどのような条件を出してくれるのだ?」


「そうですね、領土の一部の割譲に関しましては、 

 私個人の一存では決められないですが、

 賠償金に関しては前向きに検討したいと思います」


「うむ、そうか、賠償金なら払っていいと言うわけか?」


「まあ金額にもよりますが……」


 皇帝の言葉に曖昧に頷く宰相シーク。


「曖昧な言葉ではなく、

 具体的な金額を提示して頂けませんか?」


 ここで初めてハーン元帥が口を挟んだ。


「そうですな、ここで誠意を見せて欲しいですね」


「ええ……」


 バズレール元帥とタファレル元帥も同調する。

 しかし宰相シークはあくまで低姿勢を見せながら――


「ではあえて問いますが、

 皇帝陛下はどれぐらいの額をご希望するのですか?」


「そうだな……」


 宰相シークの言葉に皇帝が考えるそぶりを見せた。

 そしてナバールは、強気の姿勢であえて高い金額を述べた。


「……五億ラルク(約五十億円)でどうだ?」


「五億ラルク(約五十億円)ですか?」


 法外な値に宰相シークの表情が消えた。


「その値段は流石に法外では?」


 シャーバット公子が控えめに反論する。

 だが皇帝及びその臣下は強気な態度を崩さない。


「和平の条件としては妥当であろう。

 それとも何だ? 貴国等はこの停戦を一時的なものと

 考えているのか? ある程度の休戦期間を設けて、

 自国の力を蓄えたら、また開戦するつもりなのか?」


「いえ……そんな事はありませんよ」


 ラミネス王太子が淡々とそう答えた。

 勿論、これは嘘である。

 しかし外交駆け引きにおいては、嘘も方便。

 そう自分言い聞かせる王太子とその他の首脳部。


「ならば恒久的な平和、とまでは云わないが、

 長期に渡る平和の代償として、

 それ相応の賠償金を払うのは当然の事ではないか?」


「しかし五億ラルク(約五十億円)は流石に高すぎるニャン。

 まあ現金払いは無理でも猫族ニャーマン領の鉱物資源の

 採掘権の一部を譲渡する、とかなら出来そうニャン」


 と、ニャールマン司令官。


「ほう、鉱物資源の譲渡か、それは魅力的な条件だな」


「ニャー、でもボクの一存では決められないよ?

 でもこの会議の後に国に戻ったら、

 国王陛下に掛け合ってみるニャン」


「そうか、それは是非検討してもらいたいものだ」


「五億ラルク(約五十億円)は無理でも

 連合軍の加盟諸国で協力すれば、

 二億五千万ラルク(約二十五億)なら払えるかもしれません」


 レーガー統領があえて金額を下げてそう云った。

 皇帝ナバールの五億ラルク(約五十億円)は、

 あくまで吹っかけた金額だ。

 

 レーガー統領だけでなく、

 周囲の首脳部もそれをよく理解していた。

 そしてここから値下げ交渉が始まった。


「具体的な金額はこの場では決めかねますが、

 我々も本国に戻り次第、国王や首脳に掛け合ってみせましょう。

 ですので皇帝陛下にも歩み寄りの姿勢を見せて欲しいです」


 宰相シークが軽く牽制する。

 だが皇帝もここが瀬戸際の交渉だと悟った。


「そうだな、確かに貴公等にも立場というものがあろう。

 賠償金や領土の割譲をこの場で決めるのも乱暴といえよう。

 良かろう、貴国等がそのつもりであるならば、

 我等、帝国も連合軍との停戦協定を前向きに考えよう」


「その言葉に偽りはないですよね?」


 と、ラミネス王太子。

 すると皇帝も「嗚呼」と小さく頷く。


「我々とて永遠に戦い続ける訳にはいかない。

 皇太子も皇后も帝国に戻った今、

 我々も連合軍と歩み寄る時期に来ているかもしれない。

 とはいえ内容が内容だ。

 この場で結論を出さず、

 何度も議論を交えて、今後の方針を決めようではないか」


 やや不服が残るが、

 連合軍としても最低限の落としどころはついた。

 だからラミネス王太子も私情を捨てて、

 帝国と歩み寄る姿勢を見せた。


「ええ、エレムダール大陸の平和の為にも、

 お互いにメリットのある議論をしたいものです」


「そうですね」


「ウン、そうだニャン」


「ええ」


 宰相シーク、ニャールマン、レーガー統領も同意する。

 他の者達も場の空気を読んで、相槌を打つ。

 こうして連合軍と帝国による第一回の停戦協定の会議は終わった。


 双方が納得いく内容ではないが、

 とりあえずは停戦に向けて、

 前向きな会議が今後も続くであろう。


 双方の首脳部はそう思いつつも、

 今後の会議において少しでも優位な条件を勝ち取る。

 と、心の中で野心を秘めつつ、

 表面上は冷静かつ温和の姿勢を保とうとしていた。


次回の更新は2024年5月4日(土)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[良い点] 一時はどうなるかと思いましたが、結果オーライですね。
[一言] 更新お疲れ様です。 賠償金問題で、かなり揉めておりますね。 これは、どこの国がいくら払うかで問題になるかもしれませんね。 ともかく、会議中に戦いが開幕しなくてよかったです。 この世界は魔…
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