第二百十七話 大会議(後編)
---三人称視点---
翌日の聖歴1757年4月4日。
この日も前日に続いて、
二階の会議室で「大会議」が行われた。
そして前日同様に、
停戦派のラミネス王太子と戦争継続派のアルピエール枢機卿。
この二人が主に発言して、
周囲の者は会議の流れを読む、といった形になった。
しかし何度も何度も同じ事を繰り返して、
反論するのは、精神衛生面上にも良くなかった。
そしてそれは周囲の停戦派も同じ気持ちであった。
「アルピエール枢機卿。
貴公と貴公の所属するアームカレド教国の方針は分かります。
ですが貴国は口は出すけど、
兵士や戦争資金、軍事物資は出さない。
故に私――我々としても貴国の意向に従う気はありません」
と、ラミネス王太子。
「うん、ボクも――余も同じ意見ニャン。
というかさぁ~、これ以上、議論を重ねても無意味だニャン。
だからこの場に居る十三人で、
停戦に賛成か、反対の多数決を取らない?」
「それは名案ですね。 私は賛成です」
「オイラも賛成ですニャ!」
「うむ、私も陛下と同じ考えです」
ニャーザレ一世の提案に、
ジュリアス将軍、ニャールマン司令官、大臣ニャーフルが賛同する。
すると残った者達も、
場の空気を読んで、右手を上げて賛成の意を示した。
こうなればアルピエール枢機卿もこの流れに乗るしかなかった。
「ニャ、では今から「停戦に賛成か、反対か」で
多数決を取りますので、
この場に居る皆様は、必ずどちらかに手をあげてください」
ニャーザレ一世が淡々とそう告げる。
すると場の空気に緊張感が生まれた。
「では停戦に賛成の方、挙手してください」
ニャーザレ一世がそう言うなり、
この場の席の大半の者が右手を上げた。
賛成の意を示したのは――
ニャーザレ一世と宰相ニャーフル、軍司令官ニャールマン。
アスカンテレス王国のラミネス王太子。
シャーバット公子、兎人のジュリアス将軍と第一統領レーガー。
ヴィオラール王国の宰相シーク。
そしてエストラーダ王国の国王グレアム三世と第二王女グレイス。
それにリーファを加えた総勢十一人である。
この時点で体勢は決した。
だがホストとしてニャーザレ一世は、
一応、念の為に反対派の意見も聞いた。
「では停戦に反対の方、挙手してください」
「「……」」
アルピエール枢機卿と騎士団長レイラが無言で手を上げた。
これで賛成十一人、反対二人。
これによって多数決で、停戦協定の締結が決定した。
「以上をもちまして、
帝国と停戦協定を結ぶ事となりました。
それではその停戦協定をどうのように行うか。
それについて皆様で話し合いたいと思います」
ニャーザレ一世の一声によって、
会議の主題は停戦の具体的内容となった。
本来ならこれで早々と会議が終わる筈であった。
だがここでもアルピエール枢機卿が色々と難癖をつけた。
帝国との停戦協定の条件として、
ガースノイド帝国は、占領した旧神聖サーラ帝国領。
旧ファーランド王国領、そしてペリゾンテ王国領。
この三つの領土を本来の主君に返還して、
ようやくガースノイド帝国は停戦協定を締結出来る。
といった内容をアルピエール枢機卿が主張し続けた。
それに対して、ラミネス王太子は正論で反論する。
「今の状態で帝国が旧神聖サーラ帝国領。
旧ファーランド王国領、そしてペリゾンテ王国領を
黙って返還する事はないでしょう。
それに私個人は、これらの領土を帝国に保持させたままの方が
何かと都合が良いと思います」
「ほう、王太子殿下は、なぜゆえ、そのように思うのかね?」
と、アルピエール枢機卿。
「現状の帝国は短期間で領土を拡大しましたが、
占領地域を保有する為、大軍と大量の兵糧が必要となります。
現時点でもガースノイド帝国の若者、壮年の男子が
徴兵によって、戦場に駆り出されており、
国内にはまともな労働力がない状態です。
そして停戦を結んだ際に、
見えない形で、ガースノイド帝国とその周辺国に、
海上封鎖をかけて、経済的に圧力をかければ、
自ずと帝国と皇帝ナバールは力を失うでしょう」
「海上封鎖か、それは名案ですな。
私は――ヴィオラール王国はそれに賛成します」
と、若き宰相シーク。
「私も賛成ですね。
軍事力だけでなく、経済力でナバールに負担を強いる。
これはなかなか有効な戦略ですわ。
国王陛下もそう思いませんか?」
グレイス王女の言葉にグレアム三世が「嗚呼」と頷く。
「そして海上封鎖している間に、
連合軍は各国から兵糧と軍事物資を集めて、
いつでも停戦協定を破棄する状態を保つ、訳じゃな?」
「左様です、グレアム三世陛下。
但しこの作戦を行うにあたって、
エレムダール大陸各地の国々の協力が大前提となります。
ですので、皆様。 どうか協力の方を宜しくお願いします」
そう言ってラミネス王太子は、小さく頭を下げる。
すると周囲の者達がお互いに顔を見合わせて、
小声で何かの言葉を交わす。
そして三十秒後。
まずはニャルザ王国が賛成の意を示す。
「うむ、余はこの戦略に賛成するニャ」
「ええ、私も賛成です」
「同じく我等も賛成だ」
ニャーザレ一世、レーガー統領、グレアム三世も同意する。
「……」
残すはアームカレド教国のアルピエール枢機卿のみ。
だが彼にも自尊心があった。
それ故に肯定する事はなく、最後まで無言を貫いた。
「……殆どの方が賛成の意を示してくれましたので、
このまま停戦協定を帝国に申し込もうと思います。
尚、停戦の使者として私と戦乙女殿が
ペリゾンテ王国のホーランド宮殿に向かいますが、
皆様に同伴するおつもりがあるならば、
遠慮無く申し出てください」
ラミネス王太子がそう言うと、
周囲が重い静寂に包まれた。
「うむ、猫族は、ニャールマン司令官を同伴させよう。
ニャールマン司令官、頼んだぞ」
「はっ!」
「ならば我等、兎人はこの統領自ら出向きましょう」
「レーガー統領、私もお供します」
「うむ、良かろう」
これでニャールマン司令官。
第一統領レーガー、ジュリアス将軍が同行する事となった。
「国王陛下、私も彼等に同行したいと思います」
「そうだな、グレイス。
エルフ族を代表して、お前を派遣しよう」
「……ありがとうございます!」
「私も行きましょう」
「同じく私も同行を希望します」
「私もヴィオラールの宰相として同行致します。
シャーバット公子と騎士団長レイラ。
そして宰相シークも名乗り上げた。
これで合計九人。
停戦の使者としては、
少々多すぎる気もするが、
ラミネス王太子としても同行を拒む事は控えた。
こうして以上の九名が停戦の使者として、
護衛をつけた状態で、
ホーランド宮殿を目指す事となった。
果たしてラミネス王太子の思惑通りに物事は、進むのか?
いずれにせよ、
大陸を二分する休戦協定会議が開かれようとしていた。
次回の更新は2024年4月27日(土)の予定です。
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