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第二百十五話 王都ニャナルドライド


第二十八章 鳩首凝議きゅうしゅぎょうぎ


---三人称視点---



 聖歴せいれき1757年4月1日。

 ラミネス王太子とリーファ達を乗せた馬車が

 ニャルザ王国の王都ニャナルドライドに到着した。


 元が猫の為に猫族ニャーマンは、

 基本的に怠惰な傾向があり、

 向学心も労働意欲もそれほど高くない。


 だが幸運な事に、猫族ニャーマン領では、

 領土内の到る所で、金、銀、白金プラチナ、ミスリル、魔石などの

 鉱物資源が採掘され、

 それらの鉱物資源の輸出の利益で、国が支えられている。


 猫族ニャーマンは、獣人以外の他種族との交流を好まなかったが、

 非力な猫族ニャーマンや獣人では、

 鉱山の採掘作業もままならなかった。


 それ故に採掘場周辺に限って、

 ヒューマンやエルフ族、

 竜人族などの他種族の鉱夫を雇っており、

 一攫千金を目論む若者や荒れ者達が各地から、

 これらの採掘場に押し寄せていた。


 だが基本的に怠惰で、

 無邪気な性格の猫族ニャーマンは、

 ここ数十年の間、他種族や他国とも争う事はなかった。 

 彼らの行動原理は基本食う、寝る、遊ぶ。


 故に平和で怠惰な生活を好み、

 争いを好まない種族と云っても過言はないであろう。


 王都ニャナルドライドの建物の多くは、

 カラフルな色彩で彩られ、

 その構造もお菓子の家のようにユニークな作りであり、

 独特の景観と雰囲気を醸し出していた。


 だが国の中心の王都であるが為、

 宿屋や食堂、酒場などの多くの人々が集まる施設では、

 獣人サイズだけでなく、

 ヒューマンなどの種族に適した施設やサービスも充実していた。


 このような理由から、

 動物好き、特に猫好きな観光客が、

 エレムダール大陸全土から日々、訪問しており、

 観光都市としても、観光客の多様なニーズに応えていた。


 そういう訳でこの王都ニャナルドライドには、

 様々な種族の姿が見受けられた。


 しかしラミネス王太子は、

 そういった光景を目の当たりにしても、

 特に表情を変える事なく、

 事務手続きを済ませて、

 今夜の寝床を確保して、明日に国王と会うアポを取り付けた。


 ラミネス王太子は、王都の商業区の高級宿屋。

 リーファ達は、同じく商業区の中級の宿屋に宿泊する事となった。

 尚、宿屋で食べた夕食は、

 ヒューマン向けに味付けを変えていたので、

 特に問題なく食べる事が出来た。


 そして翌日の4月2日。

 ラミネス王太子は副官ブラッカー、

 それに騎士フローラ、騎士バジーリオを連れて、

 リーファと共にニャナルドライド城へ入城した。


 尚、アストロス達は宿屋で待機中。

 やや緊張感が伴う中、

 リーファ達は猫族ニャーマンの黒い礼服姿の執事に連れられて、

 三階の謁見の間へ向かう。


 そして歩くこと、十分余り。

 二階、三階と階段を登り、謁見の間に到着。


「この先が謁見の間となります。

 国王陛下がお待ちかねしてます」


「嗚呼、案内ご苦労様」


 ラミネス王太子が労いの言葉をかける。

 すると黒服の執事がぺこりと頭を下げた。

 そして謁見の間の扉が開かれて、

 リーファ達はゆっくりと中に入った。


 豪華な赤い絨毯、煌びやかに輝くシャンデリア。 

 歴代国王の肖像画、美術品や調度品などで装飾された部屋に

 少し驚きながらも、リーファ達は赤い絨毯の上を歩く。


 そして猫族ニャーマンにしては、

 随分と大柄な白銀の鎧を着た猫騎士達が左右対称に縦一列に並び、

 国王が座る玉座まで、一本道が出来上がっていた。


 玉座には、金の王冠を被った豪奢な真紅ガウンを羽織った壮年の猫族ニャーマンが座っていた。

 彼がニャルザ王国の国王ニャーザレ一世だ。

 品種はトンキニーズ、年齢は脂の乗った七歳。

 見た感じが他の猫族ニャーマン同様、

 可愛らしいが、その双眸には知性と強い意志が宿っていた。


 そして前一列に副官ブラッカー、ラミネス王太子、騎士フローラ。 

 その後ろにリーファと騎士バジーリオが横に並んで、

 深々と頭を下げてから、恭しくその場に跪いた。 

 すると王の傍に立つ黒い礼服姿のオシキャットの猫族ニャーマンが鷹揚な口調で語りかけてきた。


「ようこそ、おいでくださいました。 

 こちらが猫族ニャーマンの国王ニャーザレ一世陛下でございます。

 尚、私はニャルザ王国の宰相ニャーフルでございますす」


 と、端的に用件を伝える宰相ニャーフル。」


「やあ、やあ、ラミネス王太子。

 それと噂の戦乙女ヴァルキュリアも居るんだね?

 ボクが国王ニャーザレ一世だよ、以後よろしくね」


 予想に反して軽い乗りだった。

 でもある意味、猫族ニャーマンらしい云えばらしい。


「お久しぶりです、ニャーザレ一世陛下。

 この度は大会議の場を設けて頂けて、深く感謝してます」


 と、ラミネス王太子。


「まあ、まさかペリゾンテ王国が陥落するとはねえ~。

 これはボクも予想外だったニャ。

 だから王太子殿下の云うように、

 ここは手早く停戦協定を結ぶべきだね」


「ええ、今の状態で戦果を拡大するのは、

 各国の負担が大きくなります。

 無論、停戦協定がそれ程長く続くとは思いませんが、

 二、三ヶ月でも良いので、

 連合軍としても準備期間が欲しい、というのが私の本音です」


 饒舌に喋るラミネス王太子。

 一方のニャーザレ一世は「ウン、ウン」と相槌を打つ。


「陛下、ここでその結論を出すのは些か早急です。

 王太子殿下が仰る事も分かりますが、

 相手はガースノイド帝国。

 なのでここは慎重に事を運ぶべきです」


 宰相ニャーフルのこの主張も間違いではない。

 実際、ラミネス王太子は、

 巧みな話術でニャーザレ一世を丸め込むつもりであった。


 またニャーザレ一世自身も見た目ほど、

 世間知らずな訳でもなかった。


「まあ宰相の言う事も一理あるね。

 そうだね、とりあえずこの問題はボク達だけでなく、

 他の諸外国の首脳陣を交えて、

 大会議で話し合うべきだね。 ウン、それがいいニャ」


「ええ、そうすべきです」

 

 国王の言葉を肯定する宰相ニャーフル。

 すると場の空気の変化を読み取ったラミネス王太子も――


「そうですね、大事な問題を我々だけで決める訳にもいきませんね。

 この件の続きは本番の大会議でしましょう。

 とりあえず今日の所は、

 国王陛下へのご挨拶という事で……」


「ウン、今日はもうこれくらいにしよう。

 明日の大会議まで、まだ時間はあるから、

 我がニャルザ王国の観光も楽しんでね」


「ええ、では本日はこれで失礼します」


 とりあえずラミネス王太子と国王ニャーザレ一世の謁見は、

 特に問題なく終わる事となった。

 だがラミネス王太子は、

 自身の構想を変えるつもりはなかった。


 そして夜の十八、十九時過ぎに、

 エストラーダ王国の国王グレアム三世と第二王女グレイスとその従者。

 パルナ公国の第一公子シャーバット、

 ジェルミア共和国のジュリアス将軍と第一統領レーガー。

 これらの顔ぶれが王都ニャナルドライドに到着した。


 明日にも新たな面子が集まるであろう。

 果たしてラミネス王太子の目論見通りに会議は進むのか?

 いずれにせよ、エレムダール大陸の運命を大きく変える大会議が

 この王都ニャナルドライドで行われようとしていた。


次回の更新は2024年4月21日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新章が始まりましたね。重大会議はどうなってしまうのか気になりますが、ハラハラ・ドキドキの展開を楽しみにしています!
[一言] 更新お疲れ様です。 ニャーザレ一世、非常に気さくな人物ですね。 彼もまた、王族としては他の人(獣)と別の場所に位置していますね。 なんだか、全てをその場のノリと勢いだけで決めてそうですね。…
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