第二百十話 野戦病院
---主人公視点---
「……」
意識が覚醒するなり、私は辺りを見渡そうとするが、
身体が痛み、思うように首をあまり動かせなかった。
「……ここは何処?」
私は誰に問うべきでもなく、そう呟いた。
するとその声を聞きつけて、
知った顔がこちらに寄って来た。
「リーファさん、意識が戻ったのですね!
良かったです、三日も眠った状態でしたから……」
眼前のローブ姿のエルフ族の少女――エイシルが安堵の息を漏らした。
すると獣人二匹――ジェインとロミーナもこちらに気付いたようだ。
「お姉ちゃん、目が覚めたのね!
良かった、良かった、良かったワン」
「本当だわさ、これで一安心ね」
私はもう一度周囲を見渡すと、
至る所にベッドが置かれており、
傷病兵と思われる男女がベッドに横たわっていた。
「……ここは野戦病院なのかしら?」
「そうです、王都ウィーラーの近くの駐屯地に、
設置された野戦病院です」
「……そう言えばアストロスの姿が見えないわね?」
するとエイシル達の表情が急に曇った。
「アストロスくんは、お姉ちゃんが意識不明になった後、
敵の元帥と一騎打ちして、負傷を負ったワン。
幸い命に別状はないけど、
身体の傷はお姉ちゃんより深いだワン」
と、ジェイン。
そうか、アストロスも負傷したのね。
それと同時に私は自分の置かれた立場を理解した。
やっぱり私はマリーダとの戦いに敗れたのね。
かつての義妹に負けるとは……情けない話だわ。
しかしあのアストラル界で女神サーラと再会したのは、
夢ではないと思うわ。
「……私達は完敗したのね」
「そうめげる事ないだわさ。
誰でも調子が良くない事はあるものよ」
ロミーナがさりげなく慰めてくれた。
その気持ちはとても有り難いけど、
それで私の心の傷が完璧に癒やされはしなかった。
……その前に状況確認をしよう。
「アストロスもこの野戦病院に居るの?」
「ええ、回復魔法である程度は治療しましたが、
細かい部分で身体を痛めており、今は大事を取ってます」
と、エイシル。
「そう、それで王国軍と帝国軍の戦いは、
どうなったのかしら?」
「……王国軍は既にマリアーテ草原から撤退。
それからカルネイス砦を最終防衛線として、
奮戦していますが、長くは持たないでしょう」
そう言うエイシルの表情は暗かった。
やはりあれから戦いの流れが変わる事はなかたのね。
そうなるとこの野戦病院に長居するのも危険ね。
「……。 我は汝、汝は我。
女神サーラの加護のもとに! ――ディバイン・ヒール!!』
私はベッドから上半身を起こすなり、
自分自身に対して、上級回復魔法をかけた。
すると目映い光が私の身体を包むなり、
私の身体中の痛みがどんどんと消えていった。
「お、お姉ちゃん、病み上がりに魔法を使うのは危険ワン」
「大丈夫よ、ジェイン。
誰か私の携帯ポーチを持ってきて。
その中にある万能薬を飲むわ」
「り、リーファさん、焦る気持ちは分かりますが、
もう少し様子を見ませんか?」
「エイシル、そんな余裕は私達にはないわ。
王国軍の籠城戦は、持って二、三週間でしょう。
その間に私達は、ペリゾンテ王国の国外に脱出すべきよ。
大丈夫、私は戦乙女。
そんなやわな身体はしてないわ……」
「…でも無理は良くないですよ」
「本当に大丈夫なのよ。
自分の身体の事は、私自身が一番分かっているわ」
「……分かりました、ではポーチを探してきますね」
「ええ、お願い」
そう言葉を交わして、
私は自分のベッドから降りた。
……駐屯地の野戦病院という事もあって、
周囲はベッドだらけだわ。
衛生面もあまり良くないようね。
全体的にカビ臭いわ。
これは私やエイシルで回復魔法と治療魔法を
傷病兵にかけていくべきね。
「ありました、このポーチで良いんですね」
「ありがとう、エイシル」
私はエイシルから自分のポーチを受け取って、
右手でポーチの中身をまさぐった。
そして万能薬の入った中瓶を取り出す。
それから中瓶の栓を右手の指で抜いて、
その中身を一気に喉に流し込んだ。
「……!?」
意識が冴え渡る感触が全身の伝わる。
うん、もうこれで大丈夫よ。
「アストロスのベッドは何処かしら?
それとこの野戦病院のお医者様と話がしたいわ。
私とエイシルで傷病兵に回復、治療魔法をかける
許可が欲しいわ」
「とりあえずアストロスさんのベッドへ向かいますね」
「ええ、案内をお願いするわ」
そして私はエイシル達に案内されて、
アストロスが眠るベッドへ向かった。
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「お嬢様、エイシル。
回復魔法と治癒魔法ありがとうございました」
「気にしなくていいわよ。
貴方は私の大事な友人であり、仲間ですから」
「……本当にありがとうございます」
そう言うアストロスの表情は固かった。
私達が駆けつけた時点で、
彼の意識はあったが、それ相応の怪我を負っていた。
ジェイン達の話によると、
帝国のタファレル元帥と一騎打ちしたみたい。
それで完膚なきまでにやられたらしい。
あの元帥、見た目は地味で冴えないけど、
それなりの実力者のようね。
まあとにかくアストロスが負傷していたので、
私とエイシルが上級の回復及び治癒魔法をアストロスにかけた。
幸い病気の類いではなかったので、
アストロスの怪我もすぐに回復魔法で治癒出来た。
一応身体に包帯を巻いているが、
この状態なら自分の足で歩けるでしょう。
その後、私とエイシル。
それとジェインとロミーナにも中級の回復、治癒魔法を使って、
野戦病院の傷病兵達の傷を癒やした。
この野戦病院はなかなかの広さで、
百人以上の傷病兵が居たので、
回復魔法をかけるにも一苦労したわ。
だけど野戦病院内の軍医さんや衛生兵さんからは――
「本当にありがとうございます」
と、感謝の言葉を伝えられた。
まあ私だって少しは他人の事を考えるわ。
このままこの野戦病院の帝国軍が攻め来たら、
ここに居る医療スタッフや傷病兵も大変な事になるわ。
でもこういう風に感謝の言葉を述べられるのは、
やっぱり悪い気はしないわね。
そう思っていた矢先に、
伝令兵らしきヒューマンの男性兵士が慌てて、
この野戦病院内に入って来た。
「た、大変だ。 王国軍がかなり劣勢らしい。
このままではカルネイス砦が陥落するのも時間の問題だ!」
「……」
どうやら思ったより時間がないようね。
さて、こうなれば私は――私達はどう動くべきか。
ここは冷静になって、どう動くか決めましょう。
次回の更新は2024年4月10日(水)の予定です。
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