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第二百六話 質実剛健(後編)


---三人称視点---



「ハア、ハア、ハア……」


「どうした? もう終わりか?

 それでも戦乙女ヴァルキュリアの盟友か?」


「……」


 両者の戦いが始まって、既に十分が経過していた。

 タファレル元帥が攻め、アストロスが守る。

 といった形の攻防が続いているが、

 そろそろアストロスの体力は限界に近かった。


 相手のウォーハンマーを破壊したまでは良かったが、

 タファレル元帥は、素手でもかなりのレベルの体術使いであった。

 基本的に控えめな性格で、

 帝国軍の将軍、元帥の中でもあまり目立たないが、

 ここぞという時の働きには定評のある男。


 そして戦乙女ヴァルキュリアの盟友相手の一騎打ちでも、

 ジワジワと相手の体力と魔力を消耗させて、

 気がつけばかなり有利な状況で相手を追い詰めていた。


 対するアストロスはかなり追い込まれていた。

 彼自身の戦闘力は決して低くない。

 だが基本的に魔法剣士は、支援型の前衛職。


 単体の火力はあまり高くはない。

 しかし相手は帝国軍の元帥。

 それを考えたら、ここまで良く戦っていた。


 正直ここまで追い込まれたら、

 逆転勝利を掴むことは出来ないであろう。

 アストロスもそれは痛いほど、痛感していた。


 だが彼にも剣士としての矜持きょうじがある。

 せめて後、一太刀でも良い。

 勝たないでも、相手に手傷を負わせたい。


 そう思いながら、アストロスは思考をフル回転させた。

 彼の持つ最大の剣技ソード・スキルは、

 帝王級ていおうきゅうの『プロセクション・ドライバー』。


 これがまともに決まれば、

 タファレル元帥も無事では済まないであろう。

 だが相手は左手にカイトシールドを持ち、

 護りを固めた状態で戦っている。

 

 この状況で相手の隙を突くのは難しい。

 もしそれを可能とするのであれば、

 相手の意表を突くしかない。


「……」


 アストロスは、その為の戦術をこの短時間で練り上げた。

 まず相手の攻撃を回避して、「魔力吸収」で相手の魔力を奪う。

 それからタファレル元帥に対して、

 自分の魔力の半分を「魔力マナパサー」する。


 「「魔力マナパサー」は味方以外の対象にも行う事が可能だ。

 もっとも敵相手に使う事は滅多にない。

 アストロス自身、初めての経験である。


 短期間で相手の魔力を奪い、

 間髪入れず、相手に魔力を分け与える。

 これは言うならば、短期間で自分の血液を抜いて、

 違う血を自分自身に輸血する。

 といった一連の動作に似ている部分がある。


 これを実行すれば、

 殆どの者が急性の魔力酔い現象を起こすであろう。

 そこで一気に大技を放つ。


 これがアストロスが思い描いた戦術である。

 成功する可能性は五分五分程度。

 だが真っ向勝負では、ほぼ勝ち目はない。

 だからアストロスはあえてこの策を選ぶ事にした。


「ふん、いつまで黙っているつもりだ?

 時間稼ぎか? 良かろう、ならばこちらから生かせてもらう。

 喰らうが良いっ! ――シールド・ラッシュッ!!」


 タファレル元帥はそう言って、

 右構えの状態から、左手に持ったカイトシールドで

 アストロスの殴打を試みた。


 一回、二回と盾が突き出される状況で、

 アストロスは、左右にサイドステップを刻み、

 タファレル将軍の「シールド・ラッシュ」を回避する。


「まだだ! まだ終わらんさ!」


 再びカイトシールドで殴打するタファレル元帥。

 しかしアストロスは、冷静を保った状態で――

 

「――アクセルッ!」


 加速魔法「アクセル」を使って、

 時計回りに身体を動かさせて、盾を回避。

 そして前掛かりになったタファレル元帥の背後を取った。


「――くっ!?」


「――魔力吸収マナ・アブソーブっ!」


 アストロスは左手を前へ突き出して、

 スキル・「魔力吸収マナ・アブソーブ」を発動させた。

 するとタファレル元帥の纏った闘気オーラ

 アストロスの左手の平に吸い込まれていった。


 ――良し、狙い通りだ!

 ――次は「魔力マナパサーで……んっ!?


 ここまでは計画通りであったが、

 タファレル元帥の咄嗟に対抗策を講じてきた。


「――サクション・シールド、フルパワーッ!!」


 タファレル元帥は、左手のカイトシールドを前へ突き出して、

 帝王級の盾スキル「サクション・シールド」を発動。

 このスキルはアストロスの「魔力吸収マナ・アブソーブ」を更に強化させたような

 魔力吸収まりょくきゅうしゅう能力のうりょくであった。


「な、な、何っ!?」


 魔力を吸ったかと思えば、

 今度は自分自身の魔力が吸われ始めた。

 それもとてつもない吸引力で……。


 気がつけば、

 アストロスの全身の闘気オーラと魔力がタファレル元帥のカイトシールドに、

 綺麗に吸い込まれていた。


「小細工が多かったが、貴様との戦い……悪くなかったぞ。

 だが所詮、基本能力が違いすぎる。

 だからせめてもの情けだ、一瞬で決めてくれよう。

 我が奥義を喰らうが良い! ――エンペラー・ナックルッ!」


 タファレル元帥は、ここで一気に攻勢に転じた。

 左手にカイトシールドを持った状態で、

 素早くステップインして、間合いを一気に詰める。


 そしてそこから独創的技オリジナル・スキル「エンペラー・ナックル」を発動させる。

 最初の一撃は、右手に風の闘気オーラを宿らせて、

 力任せにアストロスの腹部を強打。


 続いて二発目は、炎の闘気オーラを宿らせて、

 アストロスの心臓部を強打。


「が、がはああぁっっ!?」


 見事な心臓ハート打ち(・ブレイクショット)が決まり、

 アストロスは口から胃液を吐いて悶絶する。

 既にこの時点で勝負はついていたが、

 タファレル元帥は、容赦しなかった。


 この時点で魔力反応「熱風」が発生。

 そしてタファレル元帥は、最後の一撃に光の闘気オーラを宿らせる。


「これで終わりだぁぁぁっ!!」


 気勢を上げながら、

 オーバーハンド気味の右ストレートを放つタファレル元帥。

 タファレルの元帥の右拳がグロッキー状態のアストロスの顎の先端(チン)に命中。


「が、が、がはあああぁぁぁっ!!」


 ウェイトがたっぷりに乗った右のオーバーハンド、

 その衝撃でアストロスの顎が綺麗に二つに割れた。

 更には魔力反応が『熱風』から『太陽光サンライト』に変化した。


 その衝撃でアストロスは後方に十五メーレル(約十五メートル)ほど、

 吹っ飛んで、地面を何度も転がった。

 アストロスが意識を失うと同時に、

 彼が張った封印結界も強制解除された。


 この凄まじい結末に、

 ジェインやロミーナ、その他の連合軍及ぶ王国軍。

 また味方である帝国軍の兵士達も、

 タファレル元帥の戦いっぷりに呆然としていた。


 普段は地味であまり目立たない男だったが、

 いざという時はやる男。

 という印象を周囲の帝国兵の脳裏に刻み込んだ。


 また彼が放った独創的技オリジナル・スキル・「エンペラー・ナックル」は、

 端的に言えば、右のトリプル・パンチだが、

 熟練したプロの拳士フィスターでも公式戦で、

 右のトリプル・パンチを決める事は滅多に無い。


 一見すればその凄さが分からないが、

 この土壇場の勝負で鮮やかに右のトリプル・パンチを決める勝負強さ。

 

 一方のアストロスは白目を剥いて、

 地面に仰向けに倒れ込んでいた。

 彼もやれるだけの事はやった。


 だが結果から言えば、

 タファレル元帥の完勝であり、アストロスの完敗であった。

 こうしてリーファに続いて、

 その盟友及び従者であるアストロスも敗北を喫した。


次回の更新は2024年3月31日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 やはり、タファレルさんは強かった。 もしかしたらここでタファレルさんが死亡するかもと思っていたのですが、杞憂でしたね。 まだ活躍しそうで嬉しいです。 アストロスは、リ…
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