第二百四話 アストロス対タファレル元帥(後編)
---アストロス視点---
「せいやぁぁぁっ!!」
「はああぁぁ……あああっ!!」
お互いに気勢を上げて、
手にした武器を同時に奮う。
「きん」という金属音と共に、
激突した長剣とウォーハンマーが激しく衝突する。
その衝撃で私の身体のバランスも微妙に崩れた。
だが私は即座に体勢を整えて、
軽く左にサイドステップで飛んで、間を取った。
「ふう~」
……。
既に一騎打ちが始まって五分は過ぎたであろう。
だがここまでほぼ防戦一方である。
とは言ってもこちらも致命傷の類いは受けていない。
タファレル元帥は左手のカイトシールドで、
がっちりと防御を固めながら、
右手のウォーハンマーでこちらに攻撃を仕掛けて来る。
そして決して無理する事はなく、
こちらの体力と魔力をジワジワと奪う耐久戦で、
徐々にだが私を追い詰めつつある。
このままでは負けるのは時間の問題だ。
とはいえ私と元帥の能力値には大きな開きがある。
真正面から攻撃しても勝ち目はない。
となると多少リスクを覚悟して、
絡め手を使って、相手の隙を突くしかなさそうだ。
こちらの使える技や能力で有効そうな策は――
相手が攻勢に転じて、大技を駆使したところで
「魔封陣」で相手の魔力を奪う。
そして属性破壊を相手の武器に放つ。
そこから氷結魔法「シューティング・ブリザード」を放ち、
相手の武器を氷結させて、風属性で武器を攻撃。
そうすれば魔力反応「分解」が発生して、
タファレル元帥のウォーハンマーは、無残にも砕け散るだろう。
この戦術で前に『帝国鉄騎兵団』の副隊長を倒した。
同じ手を二度使う事にやや躊躇いも覚えるが、
残念ながら正攻法で私が元帥を倒す事は出来ないだろう。
ならば私のちっぽけな自尊心などドブに捨てて、
私は勝利を掴むべく、泥臭くても僅かな可能性にかけるまでさ!
だが眼前の元帥は、そんな私の心を見透かしたように口の端を持ち上げた。
「真正面では勝てない、だから奇策を使う。
そんな事を考えているのじゃないのか?
だが私相手に小細工は通じないぞ」
タファレル元帥は、そう言ってじりじりと間合いを詰めてきた。
まあ相手も馬鹿じゃない。
それくらいの事は考えるであろう。
だから私は煽るような台詞を吐いた。
「そんな事やってみなくちゃ分からんであろう?」
「そうかもな、仮にも戦乙女の盟友だ。
この私の意表を突く何かを仕掛けて来るかもしれん。
だが私は自分で言うのもアレだが、冷静沈着な性格だ。
だから多少の事では動じんよ」
「……」
どうやら向こうも用心しているようだな。
まあ当然と言えば当然か。
だがいずれにせよ、私は相手の隙を突くために動く。
「このままお見合いするのも時間の無駄だ。
貴公が何を考えているかは知らんが、
ここら辺で一気に勝負を決めてみせよう。
行くぞぉっ……『ペンタ・ストライク』」
タファレル元帥はそう叫んで、
右手に持ったウォーハンマーを激しく振った。
これは確か帝王級の戦鎚スキルだ。
全てを回避するのは厳しいな。
ならば――
「――トリプル・ドライバーッ!!」
私も三連撃を放ち、
タファレル元帥の5連撃に対抗するが、
一、二、三発と簡単に弾き返された。
「くっ……」
想像以上の一撃一撃が重い。
糞っ……パワーでも相手が上のようだな。
そう思っていると、最後の五発目が飛んできた。
私は両手でミスリルソードを構えて防御を試みるが――
「甘いわぁっ!」
タファレル元帥は、最後の五発目を放たず、
そこで一端、右手に持ったウォーハンマーを手元に引き寄せた。
見事なフェイントとなり、私も思わずその動きに釣られた。
そこからタファレル元帥が私の顔面目掛けて、
右手に持ったウォーハンマーを強く振った。
「――フェイス・クラッシャーッ!!」
まともに喰らえば、私の顔面が砕かれていた。
だが私も咄嗟にダッキングして、
この渾身の一撃をギリギリのところで躱した。
しかし次の瞬間、胸部に強烈な痛みが走った。
「ふんっ! ――サンダー・シールドォッ!!」
「ご、ごはあああぁぁぁっっ!!」
私の胸部に強い衝撃と電撃を受けたような感覚が伝わる。
が、が、がはああぁっ……こ、これはマズい!
ど、どうやら盾による技攻撃のようだ。
「ご主人、危ない! 兎に角、身体を動かすのだ!」
と、守護聖獣ブルーフが叫ぶ。
そ、そうだ……兎に角、動かないと……。
「ふんはぁっ! ハート・ブレイクッ!!」
この状態でタファレル元帥は、
私の胸部目に狙いを定めて、ウォーハンマーで強打を狙う。
そんな中、身体が痺れた状態で、
私は地に伏せて、タファレル元帥の強打を何とか回避。
そしてそこから後転して、
地面を二度、三度と転がって間合いを取った。
それから剣帯に吊したポーチに左手を突っ込んだ。
……上級回復薬。
いやここは万能薬を使うべきだ。
そして私は万能薬が入った中瓶を
左手で取りだして、
瓶の栓を左手の親指と人差し指で「ポン」と抜いた。
その中瓶を持った左手を自分の口元に持っていき、
その中身を一気に口の中へ流し込んだ。
「……っ!?」
それまで朦朧としていた意識が一気に覚醒する。
……とりあえず身体の痺れは何とかなったようだ。
「ご主人、体力と魔力は回復したが、
敏捷力は低下したままだから、気をつけるんだ」
「……そ、そうか。 忠告感謝する」
「ふむ、思った以上にやるではないか。
正直レベルや能力値を見た時に
勝利を確信したが、流石は戦乙女の盟友と呼ぶべきか。
だが私が有利である事には、変わりない。
だからこの勝負、悪いが勝たせてもらう」
「……」
さて、さて、どうしたものか。
正直言ってこの流れは厳しい。
だが私はそれでもあえて戦う。
私はリーファお嬢様の従者であり、
盟友であるが故に退く訳にはいかない。
とはいえ気持ちだけで勝てる相手でもない。
最悪の場合は完敗する前に、
逃走するという選択肢を選ぶかもしれない。
だがせめて爪痕の一つや二つは残したいものだ。
私はそう心に刻みながら、
両手でミスリルソードの柄を握り、腰を深く落とした。
大丈夫、私はまだ戦える!
次回の更新は2024年3月27日(水)の予定です。
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