第二百三話 アストロス対タファレル元帥(中編)
--アストロス視点---
さて、どうしたものかな?
相手の一騎打ちに応じたまでは良いが、
まさかこれ程、能力に開きがあるとはな。
流石は帝国の元帥というべきか。
だが戦いはやってみないと分からない。
まずは様子を見つつ、自分の能力を再確認しよう。
私の職業は、普通職の魔法剣士。
接近戦は出来るが、メイン火力になれる程ではない。
魔法剣士の主な役目は、
各種エンチャントを使い、
周囲の味方に属性攻撃を付与する。
あるいは自身の属性を強化。
また相手の属性を変化させる。
そして属性を破壊して、相手の抵抗値や対魔力を下げる。
それに加えて、魔法剣を使い、様々な属性を操る。
といっや感じの支援型の中衛職だ。
対するタファレル元帥は、
上級職の「盾の騎士」。
この職業は、高い防御力を有しており、
相手に弱体攻撃も仕掛けられる防御役である。
攻撃力自体はそこまで高くないが、
耐久力や各防御スキルが優れているので、
長期戦に強い傾向がある。
これらの条件を見合わせると、
既に体力と魔力が摩耗した私が長期戦を挑むのは、愚策であろう。
正直、体力や魔力が万全の状態でも厳しい相手だ。
となると短期決戦の勝負を挑むべきであろう。
だが残念ながら、
私にタファレル元帥を一気に倒す手立てはない。
でも戦術次第では、格上相手でも戦う事は可能だ。
まずは属性強化で全属性を強化。
そこから魔法剣を発動させる。
魔法剣を発動させたら、
手にした武器に各種の属性を纏う事が可能になる。
属性の変化には十秒ほどの時間がかかるが、
上手く使いこなせば、
一人で単独連携を起こす事も可能である。
そしてそこから相手の属性を破壊。
抵抗値や対魔力を低下させた状態で
魔法剣、あるいは魔法攻撃で一気に相手を攻め落とす。
という戦術を上手く使いこなせば、
私にも勝機があるであろう。
実際、前に『帝国鉄騎兵団』の副隊長をこの戦術で倒した。
まあとはいえ今回の相手は、更に強敵だ。
だが焦らず冷静に相手の動きを見て行こう。
でもまずは自身の属性を強化するぞ。
「我は汝、汝は我。 我が名はアストロス。
女神サーラよ! 我に女神の加護を与えたまえ! 属性強化!!」
私がそう呪文を紡ぐなり、
私の身体が白光に包まれた。
それによって私の属性が限界まで強化された。
そして私はどっしりと腰を落として、
両手で持った翠玉色の長剣を構えて――
「――魔法剣っ!」
と叫んで、手にした長剣に炎の属性を宿らせた。
とりあえず最初は無難に炎属性で攻めよう。
「魔法剣か、まあ無難な初手だな。
ならばこちらも初手を打つ!
――ファランクスッ!!」
タファレル元帥は、黒い鎧姿で右手に白銀の戦鎚。
左手に少し大き目なカイトシールドを持ちながら、そう叫んだ。
すると強力な魔力が彼の全身に降り注がれた。
「っ!?」
今のスキルは自己強化技か、魔法か。
とりあえずブルーフに分析させよう。
「ブルーフ、もう一度、分析を頼む!」
「了解した、分析開始っ!!」
分析までの間、
私は摺り足で僅かに後ろに下がって、相手の様子を見る。
だがタファレル元帥も武器と盾を構えたまま、動かなかった。
そして分析が終わり、
私の意識が守護聖獣ブルーフと共有化されて、
タファレル元帥の能力値の数値が露わになった。
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名前:バルナバス・タファレル
種族:ヒューマン♂
職業:盾の騎士レベル43
能力値
力 :1194/10000
耐久力 :2360/10000
器用さ :974/10000
敏捷 :1237/10000
知力 :1087/10000
魔力 :1863/10000
攻撃魔力:1403/10000
回復魔力:1951/10000
※「ソウル・リンク」で能力値強化中
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なっ……耐久力が一気に跳ね上がっている!?
これはやはり護りを固めて、
長期戦も覚悟した戦いを挑んでくる可能性が高いな。
そう思った矢先、タファレル元帥がまた動いた。
「我は汝、汝は我。 聖なる大地ハイルローガンの加護のもとに……
――『自動再生』!」
タファレル元帥が呪文を唱えるなり、
彼の身体が目映い光に包まれる。
これによって彼は自動治癒の魔法効果を得た。
「――いざ参るっ!」
「!?」
強化魔法をかけ終えたタファレル元帥は、
地を蹴って、一気に間合いを詰めてきた。
とりあえずここは接近戦で応戦だ。
「――ハード・ヒットッ!」
「――ヴォーパル・ドライバーッ!!」
お互いに初級技を繰り出した。
タファレル元帥の白銀の戦鎚。
これはウォーハンマーの類いだな。
そのウォーハンマーと私のミスリルソードが激しく衝突する。
それと同時に私の両手に鈍い衝撃が走る。
なかなか重い一撃だ。
だが充分に耐えられるレベルだ。
一方のタファレル元帥は涼しい顔をしていた。
「――ダブル・ヒット!」
間髪入れず、中級技を放ってきた。
ならばこちらも中級技で応戦だ。
「ダブル・ドライバーッ!!」
お互いに二連撃を放つが、
タファレル元帥のウォーハンマーの強打で、
私のミスリルソードによる突きが綺麗に弾き返された。
そして間髪入れず、次の一発が放たれる。
「――アクセルッ!」
それと同時に私は加速魔法を発動させた。
そして後方に華麗に跳躍して、
タファレル元帥の強打をひらりと回避した。
「ほう、悪くない動きをするな」
「それはどうも……」
私は探り合うようにそう言葉を交わした。
パワーでも向こうが一枚上手だな。
だが絶望的な開きがあるわけではない。
しかし耐久力の差は歴然だ。
となれば僅かな隙を突いて、
一気に攻勢に出て相手を倒す。
と行きたいところだがそれも難しいだろう。
……お嬢様はいつもこんな相手と戦っていたのか。
流石と思う反面、随分彼女に負担を負わせていたようだ。
だがそのお嬢様も今は倒れた状態。
ならば彼女の執事として、
盟友として私が彼女の代わりに戦う!
兎に角、気持ちの上では絶対に負けない。
私はそう自分に暗示を掛けながら、
翠玉色の長剣の柄を両手で深く握り込んだ。
次回の更新は2024年3月24日(日)の予定です。
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