第二百二話 アストロス対タファレル元帥(前編)
---三人称視点---
タファレル元帥の声が戦場に響き渡る。
そうした中、アストロスは、
右手に翠玉色の長剣を構えて、
前方で青毛の軍馬に乗る禿頭の元帥を見据えた。
一体全体どういうつもりだ?
ここで何故敵の元帥が自分に一騎打ちを挑む。
考えられる理由はいくつかある。
その中で一番考えられる理由は、
戦乙女が敗れた状態で、
その盟友を叩けば、敵の士気は上がり、
あの禿頭の元帥の名声も上がるであろう。
そう考えれば、この申し出にも意味が見いだせる。
一方のアストロスからすれば、
この一騎打ちを受ける利点はあるだろうか?
考えてみたが、あるといえばあった。
まず自分が勝つ事によって、
リーファの初敗北の悪印象をある程度拭う事が可能だ。
それとこの一騎打ちに勝てば、
アストロス個人の名声も上がるのは間違いない。
またこのようなシチュエーションで、
帝国の元帥と戦えるという事はそう何度もある事ではない。
だが今のアストロスは、肉体も精神も疲弊した状態。
恐らく相手もその辺を見据えているのであろう。
そう考えると、一騎打ちを受けるリスクは小さくない。
だがアストロスはあえて相手の要求を呑む事にした。
兎に角、今は少しでも連合軍や王国軍に貢献して、
リーファとその盟友の立場を護るべきだ。
アストロスはそう決意を固めて、一歩前へ出た。
「帝国軍元帥バルナバス・タファレルよ!
我が名はアストロス・レイライム。
貴公の言うとおり戦乙女の盟友である。
此度の一騎打ちに応じる事をここに宣言しよう!」
覇気のある表情で鋭くそう言い放つアストロス。
すると周囲の味方や敵が一斉にこちらに視線を向けた。
こうなればもう退く事は出来ない。
だがそれこそ望むところだ。
とアストロスは心に刻み込んだ。
「盟友アストロス・レイライムよ。
我が挑戦を受けてくれた事を感謝する。
その期待に沿えるように、私も全力を尽そう」
黒い鎧を身に纏ったタファレル元帥は、そう言って青毛の軍馬の鞍から降りた。
そして白銀の戦鎚を右手に持って、数歩前へ歩み出た。
それに応じるように、
黒いコートと黒いスラックス姿のアストロスも数歩前へと進み出た。
「周囲の邪魔が入らないように、
封印結界を張ろうと思うのだが、
結界を張る権利を貴公に与えよう」
「……本当に良いのか?」
「嗚呼、我が挑戦を受けてくれたからな。
それくらいの権利は貴公に与えよう」
「そうか、ならば遠慮無く厚意に甘えよう」
相手は見たところ前衛職のようだ。
だが単純な前衛職のようには見えない。
職業で考えたら魔法が使えるタイプの前衛職とみた。
ここで結界を広くし過ぎても、
狭くし過ぎても戦いずらくなる。
ならばここは程よい広さの結界を張ろう。
アストロスはそう思いながら、封印結界を発動させた。
「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ!
我が願いを叶えたまえっ! 『封印結界』ッ!!」
アストロスがそう呪文を唱えると、
彼等の周囲がドーム状の透明な結界で覆われた。
そしてアストロスとタファレル元帥を閉じ込めるように、
ドーム状の結界が広がった。
縦と横の広さも程よく、高さは十メーレル(約十メートル)に設定。
これならば接近戦も中距離戦も行う事が可能であろう。
「ほう、絶妙な広さの結界だな。
これならば存分に戦えそうだ。
それでは結界の強度を確認する」
タファレル元帥はそう言って、
周囲を覆う透明な結界結界に近いて、左手で触れた。
するとタファレル元帥の左手が結界に強く弾かれた。
「うむ、これならば簡単には封印は解けないであろう。
良かろう、これより一騎打ちを始める!
―――我が守護聖獣コンドラーよ。
我の元に顕現せよっ!!」
タファレル元帥は、そう叫んで左手を頭上にかざした。
するとタファレルの頭上に、
全身がほぼ黒いコンドルが現れた。
厳密に言えば、品種はクロコンドルであった。
全長60セレチ(約60センチ)。
全身がほぼ黒色で、足は白色、尾は短かった。
このクロコンドルがタファレル元帥の守護聖獣コンドラーだ。
「それが貴様の守護聖獣か?」
と、アストロス。
「見ての通りだ」
「よし、ブルーフ! 分析だ!」
「了解、――分析開始!」
するとブルーフの両眼が眩く光り、
その身体も目映く輝きだした。
だがタファレル元帥も同様に守護聖獣に分析を命じた。
「――コンドラー、分析せよ!!」
「了解したッ、――分析開始!」
お互いに分析を行う。
そして一分後に分析が終わり、
アストロスとタファレル元帥の意識が守護聖獣と共有化されて、
お互いの能力値の数値が露わになった。
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名前:バルナバス・タファレル
種族:ヒューマン♂
職業:盾の騎士レベル43
能力値
力 :1154/10000
耐久力 :1960/10000
器用さ :874/10000
敏捷 :1287/10000
知力 :987/10000
魔力 :1763/10000
攻撃魔力:1303/10000
回復魔力:1851/10000
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名前:アストロス・レイライム
種族:ヒューマン♂
職業:魔法剣士レベル37
能力値
力 :583/10000
耐久力 :800/10000
器用さ :524/10000
敏捷 :907/10000
知力 :479/10000
魔力 :1378/10000
攻撃魔力:725/10000
回復魔力:271/10000
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数値の上ではタファレル元帥がアストロスを大きく上回っていた。
地味に見えるがタファレルは、帝国の元帥。
あまり表だって最前線に出るタイプではないが、
自己鍛錬は常に欠かさない努力の人であった。
「ご主人、あの禿頭の男。
見かけによらずかなり強いぞ」
守護聖獣ブルーフがそう呟いた。
「嗚呼、正直想像以上だ。
だが私は負けるつもりはない。
ブルーフ、もう一度「ソウル・リンク」だ!」
「了解だぁっ! リンク・スタートォッ!!」
「コンドラー、我々も「ソウル・リンク」するぞ
行くぞ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
お互いが「ソウル・リンク」を発動させた。
そして守護聖獣と魔力が混じり合い、
アストロスとタファレル元帥の能力値と魔力も急激に跳ね上がった。
「準備完了だ。 では行くぞ魔法剣士レイライムよ!」
「嗚呼、かかって来るが良い!」
こうしてアストロスとタファレル元帥の一騎打ちが始まった。
二人の能力差は大きいが、
果たして勝利を収めるのはどちらか。
周囲の観衆がそう思う中、
二人は武器を片手にゆっくりと間合いを詰めた。
次回の更新は2024年3月23日(土)の予定です。
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