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第二百一話 盟友達の奮闘(後編)


---三人称視点---



 聖歴せいれき1757年3月16日の午後十五時過ぎ。

 マリアーテ草原の戦いが始まって、八時間が過ぎた。

 ペリゾンテ王国軍は左翼、

 右翼の両翼部隊が帝国軍の両翼に攻め込んだが、

 帝国軍もデーモン族部隊四万人が加勢して、

 この広い草原内で苛烈な戦闘が繰り広げられた。


 連合軍の第五軍が加勢している王国軍の左翼部隊は、

 やや押し気味であったが、

 デーモン族が加勢している王国軍の右翼部隊は、

 苦戦を強いられていた。


 だが共に負けられない戦い。

 故に王国軍と帝国軍の兵士の士気は高かった。

 また加勢した連合軍の第五軍。

 そしてネストール率いるデーモン族部隊も懸命に戦った。


 中距離、長距離からの魔法戦。

 あるいは騎兵による騎兵戦。

 または歩兵による白兵戦。

 

 ありとあらゆる形で激闘が繰り広げられた。

 戦力の上では互角であった。

 そして両軍の兵士の士気も高かった。


 こうなると後は適切な戦術や用兵。

 あるいは長期戦を見据えた戦術、戦略が重要となるが、

 王国軍を率いるミューラー三世は、

 全軍に――


「退くな! 兎に角、気持ちの上で負けるな。

 ここまで来れば気力の勝負だぁっ!」


 そう通達させた。

 このような精神論は状況に応じては、

 愚策となるが、この戦いにおいては、

 正しい判断だったかもしれない。


 こうした状況の中で、

 アストロス達は、連合軍の第五軍。

 そして王国軍の左翼部隊と共に帝国兵と果敢に戦っていた。


「――ピアシング・ドライバー!」


「ぎ、ぎゃああ……あああぁっ!」


 アストロスが右手に持ったミスリルソードで、

 前方の帝国兵の喉元を串刺しにした。

 アストロスは、そして喉元から素早く剣を抜いた。


「ハア、ハア、ハア……」


「アストロスくん、もう二十人以上倒しているよ。

 お姉ちゃんも無事に撤退出来たようだし、

 オイラ達もそろそろ中列か、後列に下がろうよ!」


 ジェインの主張は間違ってなかった。

 既にアストロス達は、多くの帝国兵を倒した。

 更にはリーファをおぶったエイシルも無事に撤退した模様。


 こうなればアストロス達としては、

 無理に前線で戦わずに、中列辺りに後退して

 今後の戦況をみて、どう動くか決めるべき。

 ジェインだけでなく、ロミーナもそう思っていた。


 だがアストロスは違う考えを持っていた。

 連合軍の象徴になりつつあった戦乙女ヴァルキュリアが初敗北を喫した。

 これは由々(ゆゆ)しき事態である。


 これまではリーファとアストロス達も特別扱いされてたが、

 この敗北によって、彼女等、彼等の待遇が変わる。

 そうなれば今後どうなるか、分からない。


 だからここはあえて盟友である自分達が

 リーファの敗北の穴埋めをしなくてはならない。

 少なくともアストロスはそう思っていた。


「いやまだだ。 まだ戦いは終わってない。

 リーファお嬢様が負けた今、我々が彼女の穴埋めをすべきだ。

 だから私は……少なくとも私だけでも戦わなくちゃいけないんだ」


「……気持ちは分かるけど、

 私達では戦乙女ヴァルキュリアの代わりは出来ないだわさ。

 だからここはジェインの言うように、後退すべきよ」


 ロミーナが諭すようにそう告げた。

 

「ならば君達二人だけでも下がると良い。

 私はまだ前線に残って戦うよ」


 あくまで戦うと主張するアストロス。

 こう言われて自分達だけで後退する訳にはいかない。


「そんな事が出来る訳ないでしょ!

 仕方ないわね、あたし達も付き合うだわさ!」


「うん、オイラもここに残るよ」


「……そうか」


 ロミーナとジェインの言葉を聞いて、

 アストロスも微笑を浮かべた。

 そして再び前へ出て、帝国兵と斬り合った。


---------


「思いの他、前へ進めないな。

 一体どうなっているのだ?」


 タファレル元帥は、帝国軍の右翼部隊の中列で、

 青毛の軍馬に跨がりながら、そう一言を漏らした。

 すると同じく彼の傍で、

 鹿毛の軍馬に跨がった副官のミルザが状況を説明する。


「どうやら敵兵が思いの他、奮闘しているようです。

 なんでも話によれば、戦乙女ヴァルキュリアの盟友らしいです」


「成る程、敗れた戦乙女ヴァルキュリアの代わりに、

 その盟友が穴埋めをしているのだな。

 その盟友の種族と職業ジョブは分かるか?」


「聞くところによるとヒューマンの青年で

 職業ジョブは魔法剣士のようです」


 と、副官ミルザ。


「成る程、ヒューマンの魔法剣士か。

 それでその者はどれくらい戦っているのだ?」


「既に二十人近くの味方が犠牲になってますが、

 そろそろ体力と魔力が尽きる頃でしょう」


「そうか、それは好機こうきだな。

 戦乙女ヴァルキュリアの盟友を倒したら、

 私の名声と部隊の士気も上がるであろう。

 ミルザ、私は前線に出てその魔法剣士と一騎打ちをする!」


「……元帥自ら最前線にお立ちになるのですか?」


 副官の言葉に「嗚呼」と頷くタファレル元帥。


「我が軍は既に「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」殿が戦乙女ヴァルキュリアに勝利した。

 その上で帝国の元帥がその盟友を倒せば、

 我が軍の士気は上がり、敵軍の士気は下がるだろう」


「……まあそうですね。

 しかし元帥自ら一騎打ちを挑むのは……」


「……危険と申すのか?

 侮るでない、私も誇り高き帝国の元帥だ。

 戦乙女ヴァルキュリアの盟友ぐらいなら、

 この手で必ず勝利を掴んで見せるさ!」


「……分かりました。 但し護衛をつけた状態で、

 前線にお立ち下さい。 相手が一騎打ちを拒む可能性もあるので」


「嗚呼、その辺のところは弁えている」


 そしてタファレル元帥は、

 副官ミルザと五十名の騎兵を引き連れて最前線に躍り出た。

 すると最前線の帝国兵達がやや及び腰になっていた。


 その光景を見ながら、前方を見据えるタファレル元帥。

 するとその視線の先には、

 帝国兵の返り血を黒いコートに浴びたアストロスが両肩で息していた。


 ――見たところ二十前後の青年のようだな。

 ――腕はそこそこ立つ感じだ。

 ――だがそろそろ体力の限界が近そうだ。

 ――この状況なら私が勝つ可能性が高いな。


 タファレル元帥は、心の中で算盤そろばんを弾いた。

 タファレル元帥はそれ程、功名心の強い人物ではない。

 今回の一騎打ちの目的も自身の功名心より、

 この戦いの流れを変える為である。


 だからあえて一騎打ちという茶番を行う。

 そして王国軍と連合軍に心理的ダメージを与える。


 そう心に刻みながら、

 タファレル元帥は馬を数歩前へ進めた。

 そして高らかな声で次のように叫んだ。


「そこの戦乙女ヴァルキュリアの盟友に告ぐ!

 私は帝国軍の元帥バルナバス・タファレルだ!

 帝国元帥として、また一人の帝国兵として、

 私は貴公に一騎打ちを求める。

 貴公に真の勇気があるのであれば、

 この一騎打ちに応じてくれっ!」



次回の更新は2024年3月20日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ついに、アストロスvsタファレルさんの勝負が始まりそうですね。 待ちに待った名勝負、良くも悪くもこれまであまり目立つことの無かった2人ですが、どちらに勝利の女神は微笑む…
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