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第百九十八話 姉妹喧嘩、再び(後編)


---三人称視点---



「―――秘剣・『神速殺しんそくさつ』っ!!」


 リーファは腰を落とした状態から、

 剣帯の鞘から聖剣を素早く抜剣して、

 最大級の力と速度を持って、渾身の斬撃を繰り出した。


「く、くうぅっ!?」


 呻き声を上げながら、バックステップするマリーダ。

 悪くない反応であったが、全てを回避するまでには至らない。

 するとマリーダの喉笛から再び赤い鮮血が迸った。


「ま、マリーダちゃん! ――アーク・ヒールッ!」


 再び上級回復魔法を唱える守護聖獣ガーラ。

 それでマリーダの喉笛の傷は、ある程度癒やされたが、

 飛び散った血液を回復する事はなかった。


「リーファ殿、ここが勝負どころだぁ!」


「ランディ、分かっているわぁっ!」


 リーファは自身の守護聖獣の掛け声と共に、

 左足で強く地を蹴って、前へ飛び込んだ。


戦乙女ヴァルキュリアの舞(・ダンス)』ッ!!」


 リーファはそう叫びながら、

 左構え型(サウスポー・スタイル)から綺麗な左ストレートを放つ。

 だがマリーダも意識が朦朧とする中、

 右手に持った漆黒の魔剣でリーファの左拳を受け止める。


 「ガシンッ!」という音と共にリーファの左拳に痛みが走る。 

 だが防御ガードしたマリーダも拳打による衝撃で、

 身体のバランスを大きく崩した。

 それと同時にリーファの左ボディフックがマリーダの右脇腹に命中。


「か、かはぁぁぁっ!?」


 リーファの肝臓撃ち(リバー・ブロウ)が綺麗に決まる。

 だがリーファはそこからローリング・ソバットを打たず、

 後ろに下がって、間合いを取った。


 そして再び腰を落として、

 居合抜きの体勢に入るが――


「あああぁっ!! 漆黒の波動っっ!!」


 苦悶の表情を浮かべながら、

 マリーダが左手を前に突き出して、そう叫んだ。

 すると「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の職業能力ジョブ・アビリティ「漆黒の波動」が発動。


 それと同時にマリーダの左手から闇色の波動が放出された。

 闇色の波動は、リーファの全身に注がれて、

 リーファの自己強化魔法バフや守護聖獣とのリンクが強制的に解除された。


「あああっ……リーファ殿、強制解除系のスキルだ!」


 最後の声を振り絞って、ランディがそう伝えた。


「……ソウル・リンクがぁっ!?」


「アァァァ……アァァァッ!! ま、負けないっ!!」


 まるで呪詛の言葉のように、

 あるいは自己暗示の言葉のように、

 マリーダはそう叫びながら、前進して来た。


 異様なまでの勝利への執念。

 かつてのマリーダから考えられない執念だ。

 鉄の心臓を持つリーファもマリーダの亡者のような表情に

 戦慄を覚えずにはいられなかった。


 しかしリーファもすぐに気を引き締める。

 両肩の力を抜いたまま、腰を落とした状態で、

 マリーダが射程圏内に入るなり、

 「神速殺しんそくさつ」を繰り出した。


「――神速殺しんそくさつ


 居合い斬りの軌道は下から上へ繰り出された。

 まともに決まれば、マリーダの首筋を綺麗に水平に裂いていただろう。

 だが残念ながらそうはならなかった。


「アァァァ……アァァァ」


 なんとマリーダは自身の左腕を盾代わりにして、

 リーファの放った「神速殺しんそくさつ」を防いだのだ。

 「ソウル・リンク」と自己強化魔法バフがかかったままならば、

 この時点でマリーダの左腕は、吹っ飛んでいたであろう。


 だが左腕は綺麗に切り裂かれて、

 腕の神経も何本か切断されたが、

 腕そのものを切断するには至らなかった。


「マリーダちゃん、凄いガッツだニャン。

 その意気だよ、――アーク・ヒールッ!!」


 そして猫妖精ケットシーガーラが絶妙のタイミングで

 上級回復魔法を使い、マリーダの左腕を治癒する。

 完治には至らないが、腕を自由に動かすくらいまでは回復出来た。


「ま、負けないっ! 私はアナタに負けないわっ!!」


「っ!?」


 マリーダが目を血走らせて、間合いを詰めてきた。

 リーファも迎撃態勢を取ろうとするが、

 マリーダの動きがそれを上回った。


 そしてマリーダは右手に持った漆黒の魔剣の柄を強く握って――


「――デス・ブラッドォォォッ!!」


 そう叫ぶと同時に高速の袈裟斬りを放つ。

 炎の闘気オーラが宿った袈裟斬りが

 リーファの身体に鋭い剣傷けんしょうを刻む。


 そこからマリーダは、漆黒の魔剣を逆手に持って、

 Xエックスの文字を刻むように、

 風の闘気オーラを宿らせた下から上へ切り上げる逆袈裟を放つ。


「き、き、きゃあああっ……」


 マリーダの二つ目の独創的技オリジナル・スキル・「デス・ブラッド」が綺麗に命中。

 だがこれで終わりではなかった。

 マリーダは右手で魔剣を握りながら、

 左手をリーファの胸部に当てた。


「な、なっ……ま、まさかっ!?」


「そのまさかですよ! ――シャドウ・フレアァッ!!」


 魔法攻撃による零距離射撃。

 爆音と共にリーファの身体が後方に十メーレル(約十メートル)程、吹っ飛んだ。

 そして何度も身体を地面に打ち付けて転び回る。


 零距離射撃で放たれた闇炎がリーファの体内で、

 暴れ狂い、その全身を容赦なく焦がす。


 マリーダの独創的技オリジナル・スキル・「デス・ブラッド」は、

 標的の身体にX(エックス)の剣傷を刻んで、

 その傷口に零距離魔法を放つ、という比較的シンプルな技だ。


 だが最初の二撃で魔力反応「熱風ねっぷう」を発生させて、

 零距離から闇属性魔法を撃ち、

 魔力反応「闇熱風やみねっぷう」を引き起こした。


 零距離攻撃に加えた高ランクの魔力反応で、

 流石のリーファも白目を剥いて、

 地面に大の字に倒れながら、気を失った。

 それと同時にリーファが張った「封印結界」も解除された。


「マリーダちゃん、勝ちだよ! キミの勝ちだァっ!」


 と、叫ぶガーラ。


「ハァ、ハァ、ハァ……わ、私が……か、勝ったの?」


「そうだよ、まごう事なきキミの勝ちだよ!」


 待ち望んだ勝利。

 だがマリーダもこの戦いで大量の血を流しており、

 体内の血液が不足していた。


 そしてマリーダは、勝利の余韻に酔いしれる事無く、

 左膝をがっくりと落として、地につけた。

 周囲の観衆ギャラリーも唖然とした表情でこの光景を見ていた。


 この戦いの勝敗の差は、僅かなものであった。

 だが強いて勝因と敗因を述べるのであれば、

 リーファはこの戦いに全てをかけず、

 マリーダはこの戦いに全てをかけた。


 そして何よりも勝利に対する異様なまでの執念。

 リーファにはそれがなく、

 マリーダにはそれがあった。


 こうして戦乙女ヴァルキュリアと「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の二度目の戦いは、

 マリーダの勝利という結果で終わった。

 そしてりーファにとっても戦場における初敗北となった。


次回の更新は2024年3月13日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言]  マリーダがリーファに勝ちましたね。  しかしどちらも負傷していたから、ぎりぎりの勝利でした。  リーファはチートですが、マリーダもチートです。それ故に白熱した戦いが良かったですね。  これ…
[一言] 更新お疲れ様です。 まさかのリーファが……。 でも、血液の話がチラホラありましたし、殺されるには至りませんでしたね。よかった。 主人公だから補正されている───という訳でもなく、納得の行…
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