第百九十六話 姉妹喧嘩、再び(前編)
---主人公視点---
私とマリーダの彼我の距離は、
約200メーレル(約200メートル)程、くらいでしょう。
二十数秒もあれば、接近する事が可能な距離ね。
とはいえ安易に近づくことは危険ね。
マリーダも前回の時に比べたら成長しているわ。
だからここはまずは自己強化を行うわ。
「――能力覚醒っ!」
まずは職業能力『能力覚醒』を発動。
これで私の能力値は倍加された。
そして今度は『速射』を発動させるわ。
「――『速射』っ!!」
私はそこから『速射』を発動させる。
この技の効果時間は約五分。
でもこれじゃ前回と変わらない。
そこで私は新たに覚えた職業能力・『零の鼓動』を使用した。
『――『零の鼓動』」
これで一定時間、無詠唱で魔法を使えるわ。
一方のマリーダも私同様に自己強化の能力を発動させる。
「――能力覚醒っ!」
まずは能力覚醒。
『――魔力覚醒っ!」
続いて魔力覚醒。
ここで能力覚醒と魔力覚醒を重ね掛けするのね。
これは迂闊に魔法を喰らうわけにはいかないわね。
ならば私も更に『戦乙女の祝福』を使うわ。
「女神サーラよ、我に祝福を与えたまえ!
――「戦乙女の祝福」っ!!」
私がそう呪文を紡ぐなり、
目映い光が私の身体に降り注がれた。
これによって私の力と耐久力、敏捷性の能力値も強化された。
更には『自動再生』の効果も発動した。
とりあえず使える技や能力は使ったわ。
ここからはどう攻めるべきかしら?
定石通りになら、魔法攻撃で攻めるべきでしょうが、
マリーダにはあのガーラがついている。
あの猫妖精の吸収能力は本物よ。
おまけにお互いに「幻魔の盾」。
向こうも吸収能力が高い漆黒の盾を持っている状態。
ここで魔法を打ち合いしても、
無駄に魔力を消費するだけでしょうね。
もし魔法を撃つとしても、
こちらがある程度、連続攻撃を繰り出してから、
零距離で撃つのが一番効果的と思われるわ。
そしてマリーダも当然そう考えるでしょう。
となると今回の戦いでは、魔法戦はあくまで補助的役割。
そうなれば必然的に技や剣技による戦いになるわね。
でも私のレベルは前回からそれ程、上がってない。
対するマリーダは8くらいレベルが上がった状態。
となると通常の技や剣技の打ち合いでは、
こちらが不利でしょうね。
……となると私に残された手段は、
独創的技になるわね。
でも『戦乙女の舞』も『神速殺』も何度か見せると、
今のマリーダならすぐに対抗策を練る可能性がある。
認めたくないけど、今のマリーダからは、
そういう強者特有のオーラが放たれてるわ。
となると決め手となるのは、初撃。
あるいは途中で攻撃のリズムを変化させる。
この二点に絞って、独創的技を使うべきね。
「「……」」
マリーダも黙ってこちらの様子を窺っている。
さてさて、どうしたものかしら?
『戦乙女の舞』は格闘技。
それ故にいきなり繰り出しても、
防御や回避させる可能性が高い。
となると使うならば、『神速殺』ね。
それに加えて『鞘打ち』を交えた二段構え。
これならばきっとマリーダの裏をかけるでしょう。
「マリーダちゃん、お見合いしてる場合じゃないよ。
こちらから仕掛けるんだ!!
ボクもちゃんとサポートするから!」
「分かったわ。 ――シャドウ・ボルトォッ!!」
「っ!?」
マリーダから先に仕掛けてきたわね。
でも慌てる必要はないわ。
ここはレジストで返すっ!
「――ライト・ボールッ!!」
私は左手を前に出して、
光属性の初級魔法を放った。
闇色の衝撃波と光の球が綺麗に混ざり合い、
お互いにレジストさせて、音と共に綺麗に消え去った。
、それと同時にマリーダが一瞬で間合いを詰めてきていた。
……ここで『神速殺』を使うのは、まだ早いわね。
いいわ、ここは剣術で受け返すわ。
「――イーグル・ストライクッ!!」
マリーダが初級の剣技を放ってきた。
でも私は慌てる事なく、横に飛び退いてその一撃をかわす。
「――ダブル・ストライクッ!!」
「――甘いわっ!!」
続いて放たれるマリーダの二連撃を聖剣の背で受ける。
……剣速もかなりの速さになっているわ。
やはりマリーダは、私が想像している以上に急成長している。
「ならばこれはどう! ――ヴォーパル・ドライバーッ!!」
マリーダの渾身の突き一撃を、
私はまた回避して、数歩ほど後ろに下がった。
良し、そろそろ『神速殺』の使いどころね。
「――負けない、私は絶対に負けないっ!!」
マリーダは、怒声と共に踏み込んできた。
それと同時に私は地を蹴り、疾走する。
そして相手を射程圏に捉えるなり、
両肩の力を抜き、腰を素早く落とした。
「――神速殺っ!!」
「なっ!?」
私の叫び声が静寂を劈いた。
マリーダもいち早くこちらの居合いに気付き、
右手に持った漆黒の魔剣で防御を試みる。
「ガキンッ!」
気が付くと私の聖剣の鞘による「鞘打ち」で、
マリーダの漆黒の魔剣を強打した。
その衝撃でマリーダが身体のバランスを崩した。
「な、なっ!?」
――これは好機!!
「――神速殺っ!!」
再度繰り出される居合い切り。
だが今度は鞘でなく、
聖剣の刃でマリーダの首筋を狙った。
マリーダも咄嗟に後方に跳躍するが、
次の瞬間には、マリーダの喉笛から赤い血が飛び散った。
「あ、あ、あ、あああぁっ!!」
「マリーダちゃぁん! マズいっ!!
ここは……アーク・ヒールだニャン!!」
咄嗟に回復魔法を使うガーラ。
それによってマリーダの喉笛の傷が急速に癒やされる。
だけど上級の回復魔法では、
抜けた血までは補充できないのよ。
しかしマリーダは、直ぐに身体の体勢を整えた。
「ハアァア……ま、負けないわっ!!」
マリーダは、そう言って身体を奮い立たせた。
大した精神力ね。
やはり昔のマリーダとは違うわね。
でも負けない気持ちなら、私も同じよ。
マリーダ、悪いけどここで倒させてもらうわ。
ここで一気に『戦乙女の舞』を決めるわ。
私はそう思いながら、地を蹴って前へ突き進んだ。
次回の更新は2024年3月9日(土)の予定です。
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