第百九十五話 乾坤一擲(後編)
---主人公視点---
私は白馬に跨がりながら、
手綱を手に取り、ゆっくりと馬の足を進めた。
「お嬢様、一騎打ちを申し込むつもりですか?」
同じく鹿毛の軍馬に乗ったアストロスがそう言う。
「ええ、相手は「漆黒の戦女」。
ここは戦乙女である私が相手を務めるべきでしょう」
「確かに周囲の味方が臆しているワン。
でもお姉ちゃん、油断しないで!
あの女……凄い負のオーラを発しているよ」
「分かっているわ、ジェイン。
でもそれで臆する私じゃないわ」
「リーファさん、くれぐれも油断しないでください」
「そうよ、実力的には互角と思うべきだわさ。
でも強い意志があれば、必ず勝てるわ!」
エイシル、ロミーナも声をかけてくれた。
有り難い言葉だけど、そんな事は百も承知よ。
でもこんな風に心配されるのは、やはり嬉しいわ。
そう思う一方で私は前方のマリーダを見据えた。
黒い軍馬に跨がり、全身黒づくめの格好。
その双眸からは強い意志を感じた。
だが彼女には私のような仲間は居ない。
周囲の帝国兵も好奇に満ちた視線で、
マリーダを見ていたが、誰も声を掛けようとしなかった。
しかしマリーダは、それを気にするような素振りも見せない。
恐らく彼女は帝国内でも親しい人間は居ないのでしょう。
かつての彼女は、多くの取り巻きに囲まれる事を好んだ。
でも今のマリーダは、あの時のマリーダじゃない。
良くも悪くも彼女は一度死んだ身。
正直、言って私もマリーダが流刑された時点で、
彼女がこうしてもう一度表舞台に立つとは思わなかったわ。
でもマリーダは、全てをなげうって、こうして戦場に立っている。
それも全ては戦場で私を倒す為。
その狂気に満ちた執念は、決して侮ってはいけないわ。
するとマリーダもゆっくりと漆黒の軍馬を前へ進ませた。
「……お久しぶり、という程でもありませんわね。
しかしこうして戦場でまた合間見れるとは……。
お義姉様、私は暗黒神アーディンに感謝しますわ」
「そこは女神サーラでしょ?
いや今のアナタには、暗黒神アーディンが主神なのかしら?」
「ええ、そうですわよ。
私は暗黒神アーディンと契約して、
「漆黒の戦女」になりましたのよ」
「そう……」
「端的に云いますわ。 お互いに無駄な犠牲は出したくないでしょう?
だから私ともう一度、一騎打ちして頂けませんか?」
「いいわよ……」
「お義姉様、ありがとうございます。
では邪魔の入らないように、封印結界を張って頂けますか?
それとお互いに馬から降りて、勝負しましょう」
「ええ、よくってよ。
アストロス、エイシル、ジェイン。
私の白馬を一時的に預けるわ」
「分かりました」「はい」「ウン」
そして私は白馬の鞍から降りた。
マリーダも同様に漆黒の軍馬から降りる。
「……本当に私が封印結界を張っていいのかしら?」
「ええ、アナタはとても自尊心の高い御方。
故に私相手に、いや私相手だからこそ、
不正や卑怯な真似はしないでしょう」
「……分かったわ」
そして私は封印結界の範囲を設定する。
全長300メーレル(約300メートル)、幅二十メーレル(約二十メートル)。
高さは、十五メーレル(約十五メートル)に設定。
前回より少し大きめに設定したわ。
「我は汝、汝は我。 嗚呼、母なる大地ハイルローガンよ!
我が願いを叶えたまえっ! 『封印結界』ッ!!」
私がそう呪文を詠唱するなり、
私とマリーダの周囲がドーム状の透明な結界で覆われ始めた。
そして私達を閉じ込めるように、ドーム状の結界が広がった。
縦と横の広さも程良く、高さも充分ね。
これならば結界内でも、
正々堂々と全力に戦えるでしょう。
「……マリーダ、結界の強度を確認してみなさい」
「分かりましたわ」
マリーダはそう答えて、
周囲を覆う透明の結界に近づいて、左手で触れた。
するとマリーダが僅かに顔をしかめて、左手を引っ込めた。
「……この強度なら外部から邪魔は出来ないですわね。
流石はお義姉様、やることに全て無駄がないわ」
「……では行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解、リンク・スタートォッ!!」
そして私は『ソウル・リンク』を発動させた。
私と守護聖獣ランディの魔力が混ざり合い、
私の能力値と魔力が急激に跳ね上がったわ。
「ガーラ、『ソウル・リンク』よっ!!」
「了解ニャン、リンク・スタートォッ!!」
そしてマリーダとあの猫妖精の魔力も混ざり合い、
マリーダの能力値と魔力も急激に跳ね上がる。
これで条件的は五分五分ね。
まずはお互いに「ソウル・リンク」を発動。
そして次に行うべきは相手の分析よ。
「ランディ、分析よっ!」
「了解。 ――分析開始!」
「ガーラ、こちらも分析よっ!」
「了解だニャン、分析開始っ!」
そして暫しの間、周囲が静寂に包まれた。
それから待つ事、一分余り。
お互いの守護聖獣が分析を終えた。
「リーファ殿、分析を終えました」
次の瞬間、私と守護聖獣ランディの意識が共有化された。
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名前:マリーダ
種族:ヒューマン♀
職業:漆黒の戦女レベル45
能力値
力 :1545/10000
耐久力 :2270/10000
器用さ :1154/10000
敏捷 :1844/10000
知力 :2420/10000
魔力 :4237/10000
攻撃魔力:2455/10000
回復魔力:2385/10000
※「ソウル・リンク」で能力値強化中
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「もうレベル45!? 私とそう変わらないじゃない」
「そうですな、リーファ殿は今丁度レベル50だからな」
「これは絶対に油断してはいけないわね。
ランディ、気を引き締めて戦いに挑むわよ!」
「――了解した!」
私はランディとそう言葉を交わして、
戦乙女の剣を右手に持って身構えた。
今のマリーダは私と互角以上の実力。
そう思った方がいいわね。
でも彼女には、まだ実戦経験が足りてない。
そのアドバンテージを生かして、
今のうちに叩き潰すわ。
兎に角、絶対に負けられない。
これはある意味、私自身の尊厳をかけた戦い。
だから必ず勝つ、必ず勝ってみせるわ!
次回の更新は2024年3月6日(水)の予定です。
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