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第百九十二話 不撓不屈(後編)


---三人称視点---



 援軍として駆けつけたマリーダ率いる三百名の騎兵隊。

 マリーダの周囲を騎士ナイト戦士せんしなどの防御役タンクが護りつつ、

 魔法剣士やレンジャー、更には回復役ヒーラーや魔導師も待機していた。


 その状態でマリーダは、黒馬の軍馬に跨がりながら、

 彼女の近くに浮遊する猫妖精ケットシーの守護聖獣ガーラに問うた。


「ガーラ、アナタはどう動くべきと思う?」


「そうだねえ~、敵も馬鹿じゃないから、

 こちらの魔法攻撃には、対魔結界、レジストで対応してくるだろうね。

 それでもマリーダちゃんの魔法攻撃は、完全には防げないよ」


「うん、それからは?」


「敵の魔法攻撃は、マリーダちゃんの「常闇とこやみの盾」、

 それとボクの能力で吸収できるから心配ないよ。

 恐らく敵の狙いは魔法戦の長期化によるマリーダちゃんの疲弊だね。

 肉体的にしろ、魔力的にしろ、「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」にも行動の限界点があるからね」


「そうね、私もそれが敵の狙いと思うわ。

 でも長期的視野で観れば、

 ここで魔力や精神を消耗させては意味がない。

 私の役目の大きな一つは打倒・戦乙女ヴァルキュリアよ。

 肝心な時に動けないようでは、話にならないわ」


 マリーダの言葉にガーラも「ウン、ウン」と頷く。


「マリーダちゃんも戦争における戦い方が分かってきたね。

 ボクもあくまで最終目標は、

 あの憎きリーファを倒す事だと思うけど、

 それまでの間に魔法攻撃で何人か仕留めて、

 少しでも経験値エクスペリエンスや熟練度を稼ぐのも有りと思うよ」


「そうね、まだ慌てる時間じゃないし。

 ここはのらりくらり魔法戦を仕掛けて相手の様子を見ましょう。

 とりあえず最初は「ソウル・リンク」や「魔力覚醒」を使わない方向で行きましょう!」


「ウン、そうしようニャン」


「では行くわよ! ――シャドウ・フレアァッ!!!」


 マリーダがそう叫ぶなり、

 彼女の左腕から闇色の炎が前方に向けて放たれる。

 そして闇色の炎が前方の連合軍の第五軍に迫る。

 彼我の距離は六百メーレル(約六百メートル)以上ある。


「慌てるニャ! ライト・ウォールで防ぐニャ」


 司令官ニャールマンは、

 猫族ニャーマンの魔導師部隊にそう命じた。


「了解ですニャ! ――ライト・ウォール!」


「――ライト・ウォール」


 猫族ニャーマンの魔導師部隊が対魔結界を張る。

 その半瞬間後、闇色の炎が光の壁に着弾する。

 爆音と共に光の壁が揺れ動く。

 何とかマリーダの魔法攻撃を防ぐ事に成功。


「ここまではボクの読み通りだニャン。

 とりあえずここは様子見で行こう」


「了解よ、ガーラ」


 その後、両軍の間で無言の睨み合いが続く。

 そんな中、シャーバット公子が放った伝令兵が

 ミューラー三世の許に到着する。


 伝令兵が手短いにミューラー三世に伝令を伝えた。

 するとミューラー三世は「成る程」と鷹揚に頷いた。


「現状では我が軍の右翼部隊が押している状況だからな。

 だから我が軍の両翼から敵の両翼にダメージを与えるのは、

 戦術的にも有効だ、良かろう。

 シャーバット公子殿下の言うとおりにしよう。

 伝令兵、ソルダッシュ元帥にそう伝えよ!」


「はっ!」


「貴公は戻るが良い。

 ソルダッシュ元帥のもとには、我が隊から伝令兵を派遣する!」


 そして新たな伝令兵が早馬に乗って、戦場をかけた。

 その間、連合軍の第五軍とマリーダの部隊は、

 攻撃魔法をお互いに放つが、

 決定打が欠けたまま時間が過ぎていく。


 二十分後。

 王国軍の左翼部隊の指揮官ソルダッシュ元帥の許に、

 国王の使いである伝令兵が辿り着いた。

 伝令兵は手短だが、分かりやすく国王の指示を伝えた。


「成る程、私も国王陛下の指示に賛成だ。

 だが相手には「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」が居る。

 あの者と真正面から戦うのは、避けたい。

 なので国王陛下から連合軍の第五軍の指揮官に

 「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の首を獲れば、

 地位も報奨金も与える、とお伝えして頂きたい。

 第五軍の戦力の一部は、傭兵、冒険者部隊。

 奴等なら金で動くであろう」


「はっ、早速お伝えします」


 更に二十分後。

 伝令兵が国王ミューラー三世の許に戻って来た。

 ミューラー三世は、伝令兵の伝令を聞くと、

 しばし無言で考え込んだ。


 ――そうだな、どのみちこの戦いに負けたら……

 ――ペリゾンテ王国はお終いだ。

 ――ならばここは多少出費しても問題ないであろう。

 ――地位や金で動く者を上手く動かすのだ。


 それからミューラー三世は、

 腰帯の黒革の小鞄こかばんから銀色の携帯石版を取り出した。

 そして魔力刻印に魔力を篭める。


『……はい、シャーバットですが』


 石版に刻んだ魔力刻印から、

 シャーバット公子の声が聞こえてきた。


『公子殿下、私でです。 ミューラー三世です』


『国王陛下、我が提案を受け入れて頂けますか?』


『嗚呼、その代わりこちらの要求も通して頂きたい』


『……どのような要求ですか?』


『まず殿下の指揮下の傭兵部隊に、

「ペリゾンテ王国の国王が「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の首を獲れば、

 高い報奨金に加えて、

 ペリゾンテ王国の騎士、あるいは爵位も与えると伝えて欲しい』


『成る程、金と地位で兵を釣るわけですか?』


『嗚呼、それと公子殿下にもう一つお願いを聞いて頂きたい』


『……何でしょうか?』


 声からも警戒している様子が伝わってきた。

 だがミューラー三世は臆することなく自分の要求を伝えた。


『「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」と互角に戦う為、

 戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友を動かす指揮権を

 この私に与えてくださらぬか?

 無論、彼女等は貴重な戦力。

 それ故に大事に扱う事を約束致します』


『……私の一存では決めかねますが、

 彼女等も遊びで戦場に来ているわけじゃない。

 この戦いはペリゾンテ王国の命運をかけた戦い。

 ですので彼女等を戦場に投入せず、

 負けるようでは本末転倒も良いところ』


『つまりその指揮権を私に与えてくれるのですね?』


『……それはお約束できかねます。

 だからミューラー三世陛下、

 アナタの判断で彼女等を動かしてください』


 ……。

 どうやらシャーバット公子も責任は取りたくないようだ。

 仕方ない。


 ならばここはリスクを承知で、

 自分の判断で戦乙女ヴァルキュリアを動かす事にしよう。

 と、決意を固める国王ミューラー三世。


『……分かりました。

 全ての責任はこの私が取ります』


『……ペリゾンテ王国軍の健闘をお祈りします』


『……ありがとうございます』


 そこで会話は終わり、

 ミューラー三世は銀色の石版を黒革の小鞄こかばんの中に戻した。


「陛下、連合軍の許可も取れた事ですし、

 ここは戦力を出し惜しみせず、

 機会があれば猛攻をかけるべきでしょう」


 ヒューマンの中年男性の副官シャミルがそう上申する。

 

「嗚呼、だが慌てては駄目だ。

 戦局をじっくり見据えた上で決断を下すのだ」


「はい、勿論承知しております」


「嗚呼、兎に角この戦いは絶対に負けられない。

 必ず勝たねばならん、余はその為には手段を選ぶつもりはない」


 様々な思いが交錯する中、

 戦局にも少しずつだが変化が訪れ始めていた。


次回の更新は2024年2月28日(水)の予定です。


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黄昏のウェルガリア
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 リーファがもうすぐ動きそうですね。そうなると、マリーダとの戦いは避けられそうにはないでしょう。 そして、農夫対禿頭元帥の戦いも近付いてきているようですね。 一体どうなる…
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