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第百九十一話 不撓不屈(中編)


---三人称視点---



 マリアーテ草原の西部。

 そこにシャーバット公子率いる連合運の第五軍が陣取っていた。

 司令官のシャーバット公子は、

 本陣の天幕で床几しょうぎに腰掛けて、

 事の成り行きを見守っていた。


 シャーバット公子指揮下の犬族ワンマン部隊二万二千。

 ニャールマン司令官の猫族ニャーマン部隊二万一千。

 傭兵隊長カーライルが率いる傭兵及び冒険者部隊二万三千人。


 これらの約6万6000の兵が独立遊軍として、

 マリアーテ草原の西部に待機していた。

 シャーバット公子個人としては、

 この戦いに参戦して、帝国軍の進行を少しでも食い止めたかった。


 だが他の連合軍は、

 この帝国とペリゾンテ王国軍の戦いに消極的であった。

 特にラミネス王太子の動きが気になる。


「ラミネス王太子は、帝国だけでなく、

 ペリゾンテ王国軍、そして我々も両天秤にかけているな」


「公子殿下、私もそう思います」


 チワワの副官エーデルバインが小さく頷く。


「まあペリゾンテ王国も今まで上手い具合に立ち回って、

 自国の軍事及び経済的立場の強化を図っていたのも事実。

 それを面白く思わん王太子殿下の気持ちも分かるワン。

 だがここでペリゾンテ王国軍が帝国軍に敗れたら、

 このエレムダール大陸における戦いの流れが大きく変わる」


「元皇后は別として、皇太子ナバール二世が

 ナバールの許に戻るのは、我々としては避けたい状況ですね」


「その通りだ、エーデルバイン!

 皇帝ナバールは、まごう事なき戦争の天才だが、

 現時点では奴に後継者が居ない。

 故に戦場で奴を討てば、我々の勝利は確定するワン。

 だがもしここで皇太子がナバールの許に戻れば……」


「事態は複雑化しますね。

 その割には連合軍の増援部隊は我々のみ。

 ラミネス王太子や他の王族は、

 今後の事を見据えて、様子見に徹するつもりでしょうな」


「嗚呼、だから私としては――」


「で、伝令を伝えに来ました! 

 ペリゾンテ王国の国王ミューラー三世陛下は、

 連合軍の第五軍、そしてシャーバット公子殿下の助力を請うております!」


 天幕に突然青年ヒューマンの伝令兵が駆け込んで来た。

 するとシャーバット公子は、

 無表情で眼前の伝令兵を見据えた。


「……ミューラー三世陛下は、

 我々に何を望んでいるワン? ン?」


「申し上げました通りに助力を請うております」


「うむ、助力か」


 やや勿体をつけるシャーバット公子。

 それに狼狽する伝令兵。

 するとシャーバット公子は、僅かに口の端を持ち上げた。


「そうだな、援軍の要請に応えてもかまわんワン。

 但し我々の動きに文句はつけないで欲しい、

 とミューラー三世陛下に伝えてくれ」


「わ、分かりました」


 すると伝令は素早くこの場から去った。


「シャーバット公子殿下、援軍要請に応じるのですか?」


 と、副官エーデルバイン。


「嗚呼、先程も申したように、

 この戦いに敗れると、色々とまずい状況になる。

 とはいえ我々だけで帝国軍に勝つのも厳しい。

 だから援軍要請には応じるが、

 我が軍が危険に瀕したら、素早く撤退するつもりだ」


「そうですね、それが無難な立ち回りですね」


「嗚呼、だがやれる範囲ではやれるだけの事をしよう」


「はいっ!」


 こうしてシャーバット公子率いる第五軍が戦線に参加した。

 シャーバット公子は、犬族ワンマン部隊。

 ニャールマン司令官の猫族ニャーマン部隊に、

 騎兵に魔導師を相乗りさせて、

 魔法攻撃で帝国軍の騎兵を狙い撃った。


「――ワールウインド!


「――アイスバルカン!」


「――ファイアバースト!」


「――スターライト!」


 王国軍のラル・ソルダッシュ元帥率いる左翼部隊約3万人。

 そして6万を超えるシャーバット公子率いる連合軍の第五軍。

 その両軍から正面、側面から魔法攻撃で、

 狙い撃たれたタファレル元帥率いる右翼部隊二万人は苦戦した。


 だが帝国軍の右翼部隊が反撃を試みる頃には、

 シャーバット公子は、魔導師部隊をさっと後退させた。

 典型的なヒット&アウェイ攻撃。

 だが相手からすれば、実に嫌な攻撃であった。


「伝令! 左翼側面の部隊が撤退して行きます。

 それと同時に敵の左翼部隊が前進してきてます。

 元帥閣下、ここはどう動きますか?」

 

 前線から早馬が駆けて来た。


「そうだな、現状我が部隊だけではキツい。

 だから本陣の皇帝陛下に「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」殿を

 派遣して頂けるように、上申せよっ!」


「はっ! 了解しました」


「「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」が来るまで何とか持ちこたえよっ!

 前線は重装歩兵や騎兵で固めて、防御スキルを駆使せよ。

 中列に魔導師部隊を置いて、相手の魔法攻撃をレジスト。

 あるいは対魔結界か、障壁バリアで防ぐのだっ!」


「はっ!」


 タファレル元帥の言葉に副官ミルザが大声で返事する。

 数十分経過……。


「味方右翼部隊が苦戦中であります。

 右翼部隊のタファレル元帥が「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の派遣を求めております」


「そうだな、そろそろ彼女を――マリーダを動かす頃だな」


 皇帝ナバールはそう言って、

 腰帯のポーチに手を入れて、長方形型の石版を取り出した。


 この長方形型の銀色の石版は、

 魔法で作られた魔道具「携帯石版」である。

 これを手にして魔力を込めれば、

 遠く離れた仲間とも魔力を介した念話テレパシーで、

 連絡を取り合う事が可能であった。


 そしてナバールは、「携帯石版」に魔力を篭めた。

 すると三十秒後にマリーダの「携帯石版」とリンクした。


『はい、マリーダでございます』


『マリーダか、私だ、皇帝ナバールだ』


『陛下、私の出番でしょうか?』


『嗚呼、とりあえず三百名の騎兵を連れて、

 右翼部隊のタファレル元帥を援護するのだ!』


『了解致しました』


『うむ、貴公の健闘を祈っておるぞ』


 そして皇帝ナバールは、

 再び「携帯石版」を腰帯のポーチに入れた。

 この魔道具は非常に便利だが、

 長時間は使えず、おまけに使い捨て品である。

 それ故に緊急時にしか使わない事にしていた。


「ザイド!」


「はっ!」


「敵の左翼側面部隊は、連合軍のどの部隊だ?」


「斥候の情報によりますと、

 犬族ワンマンのシャーバット公子が率いる連合軍の第五軍の模様です」


「成る程、他の連中は獣人に損な役目を押しつけたようだな。

 だがシャーバット公子は、犬族ワンマンであるが、

 優秀な指揮官との話だ、だからくれぐれも気を抜くな!」


「御意っ!」


 更に数十分経過。

 「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」マリーダ率いる三百名の騎兵隊が

 帝国軍の右翼部隊の応援に駆けつけた。


 それをシャーバット公子指揮下の魔導師部隊が

 「魔力探査マナ・スキャン」で感知した。


「強い魔力反応を感知致しました!

 恐らく「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」と思われます」


「公子殿下、如何いかがなさいますか?」


 シャーバット公子は、チワワの副官の問いに「ウム」と頷いた。


「よし、とりあえず「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の様子を見るワン。

 相手が魔法攻撃してきたら、対魔結界、あるいはレジストせよっ!

 こちらの魔法攻撃は吸収される可能性が高いから。

 上級以上の魔法は使わず、初級及び中級の攻撃魔法で攻めよっ!

 相手が「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」と言えど、

 長時間の魔力消耗には耐えられない筈だ。

 「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」が行動不能になったら、

 我が軍は北上して敵の右翼部隊を狙い撃つから、

 それと同時に王国軍の左翼部隊も突撃するように、

 ミューラー三世陛下。

 またペリゾンテ軍の左翼指揮官に伝えよっ!」


「はっ! 早速、早馬を走らせます」


 シャーバット公子の言葉を聞くなり、

 チワワの副官が伝令兵を乗せた早馬を走らせる」

 風が吹く中、マリアーテ草原の戦いが本格的に動き出そうとしていた。


次回の更新は2024年2月25日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 マリーダは行動を開始しましたが、リーファはまだ動かないようですね。 それにしても、相手の魔力を吸収できるの非常に強力ですね。 それだけで、相手の魔法攻撃を最小限にまで…
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