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第百九十話 不撓不屈(前編)


---三人称視点---



 聖歴せいれき1757年3月16日の早朝七時。

 帝国軍との戦いが近づいている。

 ペリゾンテ王国軍は、横一列に布陣を敷き、

 帝国軍の侵攻をマリアーテ草原で食い止めようとしていた。


 対するガースノイド帝国軍は、

 ペリゾンテ王国軍と同じように、

 左翼、中央、右翼に布陣を敷いて、

 左翼に2万人、司令官バズレール元帥。

 中央の本陣の約三万の兵を皇帝ナバール一世が率いて、

 前部中央部に2万人、司令官ハーン元帥。


 右翼に2万人、司令官タファレル元帥。

 以上の陣形と陣容で、

 ペリゾンテ王国軍との戦いに挑もうとしていた。


 パウロ・サンタナ将軍が最右翼を護る中、

 敵の左翼部隊率いるバズレール元帥が右翼から、

 王国軍内へ攻め込もうとしている。

 という情報がサンタナ将軍のもとに届く。


「サンタナ将軍、如何いかがなさいますか?」


「レリウス副官、我が軍の騎兵に馬を後方に下がらせよ。

 そして我が右翼部隊は、塹壕ざんごうに潜るように指示を出せっ!」


「ははっ!」


 とりあえずこの場においては、

 攻撃より防御を優先すべく、

 騎兵を歩兵にして敵の進軍を食い止める。

 それがサンタナ将軍の出した作戦であった。


 既に馬止めの柵は設けており、

 後はどうやって敵騎兵隊の接近を封じ込めて、

 敵軍を陣地内に侵攻させない、そういう腹づもりであった。


 その結果、敵のバズレール部隊の攻撃は、

 馬止めの柵が効果を発揮して、

 柵外の敵兵を石弓、狙撃銃、

 また魔導師部隊による攻撃魔法で

 一気に撃破するようにサンタナ将軍の部隊も動いた。


「よし、今だ! てっ!!」


「サンタナ将軍の命令に従って、

 弓兵アーチャー部隊、狙撃部隊、魔導師部隊は、

 力のある限り、攻撃を続けよっ!!」


 副官レリウスがそう言うなり、

 王国軍の右翼部隊が一気に攻勢に転じた。


弓兵アーチャー部隊、矢を放てっ!」


 サンタナ将軍の掛け声と共に弓兵アーチャー部隊が矢を放つ。

 通常の木の矢、鉄の矢に炎の闘気オーラを宿らせる。

 あるいは猛毒を塗った矢。

 兎に角、様々な種類の矢が飛び交った。


 それによってバズレール部隊の騎兵隊も動きを鈍らせた。

 それと同時に副官レリウスが右手を肩の線まで上げた。


「次は狙撃部隊だぁっ! 撃て(ファイア)っ!!」


 狙撃部隊は、塹壕から顔と狙撃銃を出して、引き金を引いた。

 使う弾丸は様々であった。

 通常の弾丸から炎と光、氷と風の合成弾。


 狙撃部隊は塹壕からひたすら狙撃。

 あるいは岩陰から隠れての狙撃。

 兎に角、身体の動く限り、居たる場所から、

 狙撃銃の引き金を引き続けた。

 それによってバズレール部隊の騎兵も大きな損害を受けた。

 

退くな、退いてはならぬっ!!」


 後方から大声で叫ぶバズレール元帥。

 だがそれは後方で指揮する指揮官のエゴであった。

 前線で矢や銃弾に狙い撃たれる者は、

 生存本能を優先して、回避及び防御行動を取った。


「よし、止めは魔導師部隊だ! 

 初級か、中級の魔法をひたすら放てっ!」


 再び大声で叫ぶサンタナ将軍。

 それを待ちかねていたように、

 塹壕から魔導師部隊が這い出て、攻撃魔法を仕掛けた。


「――ファイア・バースト!」


「――スターライト!」


「――フレイムボルトッ!」


「――ワールウインド!」


 サンタナ将軍の指示通り、

 魔導師部隊は初級及び中級攻撃魔法で帝国軍の騎兵を狙い撃った。


 このような状況においては、

 詠唱の長い上級以上の攻撃魔法より、

 短縮詠唱で初級、中級の魔法を連発した方が効率が良かった。


 それに加えて、魔力反応も「核熱」や「熱風」が発生して、

 前線で魔法を喰らう敵騎兵も激しく狼狽する。

 しかし敵将のバズレール元帥も対抗策を打った。


「騎兵に魔導師を相乗りさせよ。

 それから対魔結界か、障壁バリアを張るんだ。

 敵の攻撃もそう長くは続かないであろう。

 そして敵が怯んだら、前進して白兵戦に持ち込めっ!」


 最初のうちは為す術もない防戦が続いていたが、

 バズレール元帥の作戦が実行されると戦局がジワジワと変化した。

 帝国の騎兵も相乗りさせた魔導師達に、

 対魔結界、あるいは攻撃魔法を放たせて王国軍に反撃する。


「サンタナ将軍、このままでは敵の騎兵が塹壕付近まで

 接近してくるのは、時間の問題です」


 と、副官レリウス。


「無論、分かっている。 だから弓兵アーチャーや魔導師部隊に伝えよ。

 敵が防衛戦を突破して来たら、

 後の事は歩兵に任せて撤退するように伝えよ」


「……つまり歩兵は見殺しにするのですか?」


「副官、言葉を慎め! どのみち帝国軍相手に無傷で勝てる訳がない。

 そして我々はあくまで全部隊の右翼部隊に過ぎぬ。

 故に我々は陣形を維持しつつ、

 帝国軍を少しでも減らすのだ。

 後の事は国王陛下に任せたら良い!」


「……そうですね。 確かに言葉が過ぎました。

 ならばギリギリまで帝国兵を消耗させましょう」


「嗚呼、どのみちこの戦いに負ければ、

 俺も貴様も未来はない、ならば今戦うしかないのさ!」


 覚悟を決める将軍と副官。

 その思いは周囲の兵士達にも伝染した。

 そして激しい消耗戦の末についに帝国軍の騎兵が攻め勝った。


「敵の騎兵が来るぞ! 遠隔攻撃部隊は撤退。

 そして塹壕に居る歩兵部隊に告ぐ!

 ここが正念場だ、貴様等の意地と覚悟を見せてくれ!」


「おおっ!!」


 将軍の言葉に呼応した王国軍の歩兵達が塹壕から這い出た。

 そして長剣や長槍、戦斧を振り回して敵騎兵と白兵戦を開始。

 騎兵相手に歩兵では、

 色々と振りであったがそこは気力でカバーした。


「ペリゾンテ王国軍の意地を見せてやれ!」


しき帝国軍に屈するなぁっ!!」


「何を言うか、黒狸くろだぬきのミューラー三世のいぬ共めっ!」


「我々の手で皇太子殿下を取り戻すのだぁっ!」


 帝国軍も興奮状態にあり、

 白兵戦は予想以上に激しいものとなった。

 王国軍も懸命に戦った。

 帝国軍も無我夢中で戦った。


 その結果、戦場には多くの屍が積み上げられた。

 両軍の死傷者は数千人に及んだが、

 王国軍の右翼陣が完全に破綻するまでには至らなかった。


 そして気がつけば、時刻は正午になろうとしていた。

 そこで本陣で床几しょうぎに座っていた皇帝ナバールが立ち上がった。


「良し、これで敵の右翼には損害を与えた。

 次は左翼を攻める! 右翼の指揮官タファレル元帥に命じよ!


「御意」


 皇帝の言葉に総参謀長ザイドが頷く。

 そして早馬を出して、右翼のタファレル元帥に前進を命じた。

 指示が伝わり、右翼のタファレル元帥の右翼部隊が前進を開始。


 それを遠方から観ていた王国軍の国王ミューラー三世は、

 天幕に設けた席を立った。


「こちらも左翼の第二軍三万人を前進させよ!

 それと左側面に陣取るシャーバット公子殿下のもと

 伝令兵を出して、援軍要請をするのだ!

 ここが正念場だ、全員覚悟を決めろ!」


 勇ましく叫ぶ国王。

 

「御意!」


 国王の言葉に伝令兵は、素早く身を翻して出て行った。

 こうしてマリアーテ草原での戦いは、

 新たな局面に突入しようとしていた。


次回の更新は2024年2月24日(土)の予定です。


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