第百八十九話 窮途末路(後編)
---三人称視点---
聖歴1757年3月10日。
帝国軍が王都エルシャインを制圧して、数週間後。
「ファーランド王国政党政府」は解散されて、
帝国領に亡命していたキース三世が再び王位に就いた。
ラステバン宰相は、そのまま宰相の地位を維持して、
軍務の代表には、ファーランド王国軍のスコルティオ将軍。
副代表にはレバノフスキー将軍、その他数名の将軍が選ばれた。
この辺りの人事に関しては、
「ファーランド王国政党政府」の時とほぼ同じであったが、
帝国の支配下に入る事を拒んだ武官や文官は、
政治犯として収容所送りとなったが、
大半の者が帝国の支配下になる事を受け入れた。
ファーランドは歴史的に見ても、
大国の間に挟まれた地理上の問題からも、
大国の支配下になる事が多かった為、
為政者や国民も自身の安全が保障されるのであれば、
新たな支配者を受け入れる傾向が強かった。
そして三日後の3月13日。
皇帝ナバール率いる帝国軍の第三軍の約三万の部隊が
王城エルシャインに入城を果たした。
これによって王都エルシャインには、
皇帝ナバール率いる第三軍の約三万人。
帝国軍の第五軍のハーン元帥指揮下の二万人の兵。
タファレル元帥の二万人の兵。
バズレール元帥の二万人。
合計約九万の兵力に加えて――
プロマテア王国軍の将軍セットレル率いる二万の部隊。
中央エリアのカイン同盟軍一万人。
そしてデーモン族とヒューマンと竜人族の混成部隊四万人。
またファーランド王国軍約五万人。
その戦力の総勢は約二十一万人。
だが皇帝ナバールは、
このうちのファーランド王国軍の約五万の部隊を
ファーランド王国の防衛部隊に任せる事にした。
ついこの間まで敵として戦った王国軍に、
部隊の中枢を任せるのは、少々リスクが多かった。
また軍の肥大化は、歓迎すべき状況でもあるが、
補給線を維持しなければ、あっという間に全軍が瓦解する。
そこでナバールは、
プロマテア王国軍の将軍セットレル率いる二万の部隊。
中央エリアのカイン同盟軍一万人を旧神聖サーラ帝国領に配置。
またデーモン族部隊を率いる「四魔将」の炎のネストールに、
旧バールレナス共和国からも、
支援と補給してもらえるように懇願した。
すると「炎のネストール」は――
「嗚呼、構わないぜ?
但し支援や補給をするだけじゃ退屈だ。
だから次の戦いでは、
オレ達デーモン族にも戦いの場を提供してくれ!」
という条件を出したが、ナバールは快く受け入れた。
「デーモン族の支援は非常に助かる。
また貴公等の戦いの場を提供する事。
それと占領地域の分割統治に関しても話し合いたいと思う」
「まあそこはお互い様って事でいいさ。
ただ占領地域の分割統治に関しては、
オレの一存では決められない。
その辺の事はロリ婆……魔女帝陛下と話し合ってくれ」
「嗚呼、了解した」
こうしてファーランド王国に駐留した帝国軍の主力部隊は、
旧神聖サーラ帝国領、旧バールナレス共和国からも補給線を確保した。
だが帝国本土は、現時点でも包囲された状態が続いていた。
しかし包囲する連合軍の各部隊の兵糧もジワジワ減り、
それ故にこの包囲網を張るにも限界があった。
だが連合軍の総司令官ラミネス王太子は、
この包囲網は解かず、
帝国軍とペリゾンテ王国軍の戦いに一部の増援を送り、
基本的には傍観するといった姿勢を見せていた。
もし帝国軍が負ければ、
一気に帝国本土を攻め落とす。
またペリゾンテ王国軍が負ければ、
帝国軍と停戦交渉を行い、その材料として帝国本土の包囲網を解く。
というダブルスタンダートな姿勢で帝国軍との戦いに挑んだ。
ラミネス王太子のこの姿勢に批判的な声も上がるが、
他の連合軍の為政者や指揮官も長引く戦いで精神を疲弊させていた。
それ故になし崩し的にラミネス王太子の姿勢に賛同して、
帝国軍とペリゾンテ王国軍の勝敗の結果に影響を与える形になった。
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ペリゾンテ王国の王都ウィーラーのホーランド宮殿。
その謁見の間で、国王ミューラー三世は、
宰相ヘッケルと数人の将軍と作戦会議を行っていた。
「宰相、それで全土から集まった戦力はどうなっている?」
「……約十二万の兵が集まりました」
「十二万か、帝国の戦力はどれぐらいになりそうだ?」
「恐らく十万前後と思われます」
と、宰相ヘッケル。
「連合軍の増援部隊は、何人ぐらいになりそうだ?」
「……ラミネス王太子の増援が三千から四千人。
パルナ公国のシャーバット公子殿下率いる連合軍の第五軍が
七万前後ほど加勢に駆けつけてくれるようです」
「シャーバット公子は七万か。 想像以上に良い数字だ。
それに対してラミネス王太子は、四千前後だと?
あの腹黒王子めっ、自分は高見の見物をするつもりだな!」
「あの王太子は食わせ物ですので……」
「まあ良い全軍で二十万前後の部隊か。
これだけの戦力があれば、帝国相手にも戦えそうだな」
「そうですね、それで陛下、各部隊の編制は如何なさいますか?」
「うむ、それは――」
そして国王と宰相、将軍達は十数分ほど、作戦会議を行う。
その結果――
第一軍3万人 司令官:ミューラー三世
第二軍3万人 司令官:ラル・ソルダッシュ元帥
第三軍3万人 司令官:レミュエル・グスタフソン将軍
第四軍3万人 司令官:パウロ・サンタナ将軍
この第一軍から第四軍がペリゾンテ王国軍の全軍となり、
左翼、中央、右翼といった布陣を敷いて、
左翼に第二軍3万人、司令官ラル・ソルダッシュ元帥。
中央の本陣を国王ミューラー三世が率いて、
前部中央部に第四軍3万人.
司令官レミュエル・グスタフソン将軍。
右翼に第四軍3万人、司令官パウロ・サンタナ将軍。
以上の陣形と陣容で帝国軍と戦いに挑む。
またシャーバット公子率いる連合軍の第五軍は、
遊撃部隊として自由に戦わせる予定だ。
但し戦乙女リーファとその盟友は、
国王ミューラー三世率いる本陣に加わり、
状況に応じて前線に投入する事となった。
「全軍の編成は以上だ。
ソルダッシュ元帥、グスタフソン将軍、サンタナ将軍!」
「「「御意」」」
「この戦いは、我がペリゾンテ王国の命運を分ける決戦となるであろう。
だから卿等の力を余に貸して欲しい。
そして共に勝利を掴もうではないか!」
「「「はっ!!」」
ペリゾンテ王国軍は、戦闘前から追い詰められた状況であった。
正直勝ち目があるかは、分からない。
だから国王ミューラー三世は、
覚悟を決めて、戦場に赴こうとしていた。
そして帝国軍もファーランド王国とペリゾンテ王国の国境線を越えて、
皇太子と元皇后を取り戻す為の戦いに挑もうとしていた。
回の更新は2024年2月21日(水)の予定です。
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