第十八話 華麗なる戦乙女(ヴァルキュリア)
---主人公視点---
「せいやァッ!!」
「まだだぁっ! まだだ!」
気がつけばベルナドットの護衛兵は四名まで減少していた。
ベルナドットはその状況でも怯む来なく嗜虐的な笑みを浮べる。
私の聖剣とベルナドットの大剣による斬撃が尚も続く。
だが連戦による疲れなのか、次第にベルナドットの顔に焦りの色が滲みでる。
それでも驚異的な粘りと精神力で耐えている、この男の精神力は並じゃないわね。
とはいえ動きが鈍っているのは事実、これはチャンスだわ!
そして私は次第に斬撃で応酬せず、軽い身のこなしでベルナドットの放つ斬撃を確実に躱す。
この男を剣技だけで倒すのは厳しそうね。
ならばここは魔法も使って、相手の隙を突くわ。
「お嬢様っ!」
「アストロスッ!」
「自分がフォローするので、奴とは二人で戦いましょう!」
「……そうね、そうしましょう」
確かにこの男相手に一騎打ちでは厳しいわ。
ならばここはアストロスにフォローしてもらうべきね。
「行きます! ――ウインド・カッター!!」
アストロスが短縮詠唱で初級風魔法を放つ。
だがベルナドットは慌てることなく、漆黒の大剣を縦横に振るう。
耳に響く音と共に放たれた風の刃が漆黒の大剣で弾かれる。
冗談でしょ? なんという反射神経なの。
だがアストロスは慌てる事なく眉間に力を込めて、魔力を解放する。
すると直線状の軌道で放たれた風の刃が弧を描きながら、
ベルナドットの死角を突いて、その右目を撃ち抜いた。
「うぐッ……おおおッ!! あ、味な真似をっ!!」
「今よっ! アストロス! 連携魔法で行くわよ!」
「はい、お嬢様」
私は即座に後ろに下がりながら、アストロスの傍に立ち並ぶ。
それに呼応するように、アストロスも左手を前に突き出した。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『ワールウインド』!!」
素早く呪文を紡ぎ、左手から中級風魔法を放つアストロス。
放たれた旋風が、ベルナドットの身体に絡みつく。
なる程、狭い場所だから風魔法を使ったのね。
流石アストロスだわ。
私はそう感心しながら、左手を前に突き出して、砲声する。
「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。
我に力を与えたまえ! 『ファイアバースト』!!」
私は叫びながら、緋色の炎を連発する。
爆発音と共にベルナドットの巨大な体が後退を余儀なくされる。
風魔法と火魔法の連携魔法により、魔術反応『熱風』が起こり、
その効果と威力でベルナドットの身を焦がす。
いくらこの男がタフであっても、
その魔法耐性や耐久力は、人間の限界を超える事はないわ。
少なくともこの至近距離で連携魔法を受けて、無傷でいられる道理はないわ。
大広間内に爆発による鼻腔をつく焦げ臭い匂いが充満する。
「うおおお……おおおっッ……もう許さん。
この手で八つ裂きにしてやるわっ!」
黒煙が揺らめきを作るなか、
その中から巨体を震わせながら絶叫するベルナドット。
ベルナドットの呼吸が荒い。 その血走った左眼で、こちらを睨みつけている。
でもこの男も疲労の極致の筈よ。 ここは攻めるべきだわ。
(ランディ、聞こえてるかしら?)
(ああ、聞こえているよ)
(アナタの力を借りたいわ)
(うむ、ならば自分を召喚して『ソウル・リンク』と叫ぶのだ。
そうすれば君の能力値と魔力は倍増する)
(分かったわ!)
「―――これで終わりよ。
――我が守護聖獣ランディよ。 我の元に顕現せよっ!!」
私はそう叫びながら、左手を頭上にかざした。
すると次の瞬間、私の頭上に「ポン」という音を立てて、
光り輝くジャガランディが現れた。
「ランディ、行くわよ! 『ソウル・リンク』ッ!!」
「了解だ、リンク・スタートォッ!!」
そして私とランディの魔力が混ざり合い、
私の能力値と魔力が一気に跳ね上がった。
「うおおおっ……おおおっ!」
す、凄い!
凄い力が溢れてくるわ。
これが守護聖獣の力なのね。
更には私は『能力覚醒』を発動中。
恐らく私の能力値は通常時の四倍以上近く上がってるだろう。
だがこの状態で魔法を使うのは危険だわ。
(ランディッ、これから魔法を使うわ。
但し効果範囲は最小限に止めて、威力も中くらいでお願い!)
(うむ、この場においてはそれが正しい選択だろう)
(では行くわよ!)
(了解だぁっ!)
私は全速力で地面を蹴り、手にした聖剣を光の闘気で覆う。
時間にして数秒足らずで、私とベルナドットの間合いは零距離になる。
これには目を見開いて驚くベルナドット。
だが次の瞬間には手にした大剣で、こちらに照準を定める。
今の私からすれば、その動きはまるで遅い。
「――イーグル・ストライクッ!!」
私は手にした聖剣を横に一閃して、ベルナドットの右腕を切り裂いた。
「ぐ、ぐ、ぐっぐあぁぁっ!?」
ベルナドットは悲鳴を上げて、右手に持った漆黒の大剣を地面に落とす。
そして私は左手で聖剣を握りながら、
右手をベルナドットの胸部に当てた。
私は残された魔力の半分を解放して、叫ぶように砲声した。
「――フレイムボルトッ!!」
零距離射撃。
爆音と共にベルナドットの全身が振り乱れる。
零距離射撃で放たれた炎雷がベルナドットの体内で暴れ狂い、その全身を焦がす。
「ガハアァァァッ…………ゴハアァッ!!」
ベルナドットは白目を剥いたまま、背中から床に倒れた。
そして数秒の間は身体を痙攣させたが、直ぐに動かなくなったわ。
ベルナドットの皮膚は醜く焼けただれて、
その漆黒の鎧からプスプスと煙が吐き出されている。
どうやら即死だったみたいね。
しかし魔法を撃った私の右手もビリビリと痺れている。
初級魔法で良かったわ。
上級、いや中級魔法だったら、
私の右手も無事ではなかったでしょうね。
『ソウル・リンク』の使いどころを見極める必要があるわね。
でも勝利は勝利、これで私の、連合軍の勝ちが確定したわ。
「やりましたね、お嬢様」
「凄いですわ、リーファさん」
「リーファお姉ちゃん、凄いワンッ!!」
アストロス、エイシル、ジェインもこちらに駆け寄ってきた。
そしてベルナドットの死が確定すると、
大広間に残った三人の帝国兵は武器を捨て投降した。
連合軍による残存兵の掃討は思いのほか早く進んだ。
四割近くの兵が投降したのもあるが、
騎士団長エルネスやチェンバレン総長達が
手際よく敵を殺害及び捕縛して六時間たらずで、
ほぼ残存兵掃討の任を終えた。
---三人称視点---
「パルナ公国ばんざい!」
「戦乙女ばんざいっ!」
パールハイム城にパルナ公国の国旗が翻り、兵士達と群衆が歓喜の渦に呑みこまれた。人々は母国が正統な統治者のもとで、国家としての威信を取り戻す事に酔いしれ、声が枯れるまでありとあらゆる賛辞と怒号をあげた。
リーファは王座の間に続く長い渡り廊下から、一階の庭園で喜びに満ちた兵士達と群衆に向かって手を振った。一斉に凄い叫び声が爆発する。
「リーファ・フォルナイゼン万歳!」
四方八方から兵士及び公国民達の叫びが押し寄せる。
全ての場所の戦いが終結したわけでないが、パールハイム城に集結した群衆は、全て終わったような歓喜と歓声のきわみにかけ上っていた。群衆の賛辞と称賛を一身に浴びながら、リーファは一人考え込んだ。
――凄いわ、皆が私を敬い、崇めている。
――この状況に酔いしれる自分が居る。
――だけど大衆、他人はすぐに心変わりする生き物。
――それを忘れてはいけないわ。
――でも今ぐらいは勝利の余韻に酔いしれてもいいでしょう。
今回の戦い……パールハイム城攻防戦による戦死者は、連合軍1297人に対して、総督府帝国軍は8433人という数字が示すように連合軍が圧倒的な大勝利を収めた。
聖暦1755年6月15日。
エレムダール大陸を二分する勢力の間で戦火が交われて、教会軍が勝利して、帝国軍は局地戦であるが敗北を喫したのである。これによって連合軍は勢いづき、帝国では併合領土内で突発的な蜂起が起こった。
そして皇帝ナバールは重い腰をあげ、
各将軍を帝都に集めて対抗策を講じようとしていた。
勢いに乗る連合軍も更なる勝利と栄光を求めて、
次なる戦いに向けて、準備を整えていた。
連合軍と帝国軍の雌雄を決する戦いが始まろうとしていた。
次回の更新は2023年2月13日(月)の予定です。
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