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第百八十八話 窮途末路(前編)



---三人称視点---



 聖歴せいれき1757年2月24日。

 ガースノイド帝国軍は、ファーランドの王都エルシャインの制圧に成功。

 そして帝国旗を翻して、王都を闊歩する帝国軍の兵士達。


 再度、征服される王都エルシャイン。

 エルシャインの住民達は、

 住居の二階から帝国軍の行進を固唾を呑んで見守っていた。


 しかし帝国軍の第五軍の指揮官を務めたハーン元帥は、

 「市民への暴行と略奪行為」の禁止を固く命じた。

 そして多くの帝国軍は、その命令に素直に従った。


 ガースノイド帝国軍は、他国からは野蛮な集団と呼ばれるが、

 実際はかなり統率された練度の高い軍隊である。

 皇帝、元帥、将軍の命令には絶対服従。

 

 だから今回の王都エルシャイン制圧も予想に反して、

 問題はあまり起こらず、上手く事が運んだ。

 

 対する連合軍は、王都の大決戦でその多くの兵士が負傷及び戦死していた。

 決戦前の連合軍の部隊のうちわけは――


 シャーバット公子指揮下の犬族ワンマン部隊二万五千。

 ニャールマン司令官の猫族ニャーマン部隊二万五千。

 傭兵隊長カーライルが率いる傭兵及び冒険者部隊二万五千人。


 ファーランド王国の王城防衛部隊約三万五千人。

 それらを全て合わせた十一万に及ぶ大軍で

 帝国軍と真正面でぶつかったが、

 帝国軍側の「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」。

 そしてデーモン族とヒューマンと竜人族の混成部隊五万人の部隊に

 翻弄されて、約四万以上の戦死者を出すという惨敗に終わった。


 戦いの勝敗がほぼ決まったところで、

 ファーランド王国のラステバン宰相は、

 シャーバット公子率いる連合軍の第五軍を撤退するように願い出た。


 残されたファーランド王国の王城部隊約三万五千人で、

 帝国軍と抗戦しつつ、頃合いを見て降伏する。

 その事を伝えると、シャーバット公子も宰相の言葉に素直に従った。

 それからしばらくしてラステバン宰相は、帝国軍に降伏した。


 総戦力六万前後まで減少した連合軍の第五軍は、

 敵軍の追撃に怯えながら、

 命からがら逃げおおせて、

 帝国領の東部エリアに陣取ったアスカンテレス王国軍に合流した。


 しかし彼等を迎えたアスカンテレス王国軍の総指揮官ラミネス王太子は、

 事務的な態度で彼等を労う言葉はかけたが、

 必要以上に干渉する事もなかった。


 ラミネス王太子は、彼等に医師や回復役ヒーラーを派遣して、

 負傷した兵士達の肉体を癒やして、その上で食料や水を与えた。

 だがそれはある種の飴と鞭であった。


 王都エルシャインの陥落によって、

 帝国軍は因縁深きペリゾンテ王国に差し迫っていた。

 帝国の東部エリアに派遣されていた約二万人のペリゾンテ王国軍は、


 次なる帝国軍の目的はペリゾンテ王国。

 それは誰の目にも明らかであった。

 故にラミネス王太子は、

 疲弊した連合軍の第五軍に休息を与えて、

 頃合いを見て、ペリゾンテ王国に援軍を出すつもりであった。


 尤もリーファとも話したように、

 ラミネス王太子は、ペリゾンテ王国に援軍は出すが、

 過度に支援するつもりはなかった。


 これはラミネス王太子の非情な采配とも言えるが、

 ペリゾンテ王国もこれまで帝国と連合軍の間を

 上手く立ち回り、漁夫の利を得てきた。


 そして連合軍の参加国の多くの国が

 その事でペリゾンテ王国の事を快く思ってなかったのも事実。

 故に各地に散らばった連合軍は、

 帝国領を包囲しつつ、様子見に徹した。


 これによってペリゾンテ王国は激しく揺れ始めた。



---------


 ペリゾンテ王国の王都ウィーラーのホーランド宮殿。

 その二階の謁見室で国王ミューラー三世とその娘が激しく言い争っていた。


「ど、どうしてこうなるのよっ!

 あ、あの男――あの人は僻地に流刑されたのに……。

 たった一年足らずでまた皇帝になるのよ!」


 興奮気味にそう叫ぶ元皇后マリベル。


「今更そんな事言っても何も始まらん。

 奴は――奴の軍勢はこのペリゾンテに迫ってきている。

 こうなれば我が国は全力を持って、帝国軍を迎え撃つ。

 ヘッケル、我が軍の総勢はいくっらぐらいになりそうだ」


「……全土から兵をかき集めて12、13万人くらいにはなるでしょう」


 淡々と答える宰相ヘッケル。


「そうか、国の存亡をかけた戦いになるな」


 国王は玉座に腰かけて、そう呟いた。


「それでお父様、私は何処の国に亡命すれば宜しいのですか?」


 あくまで自己保身を優先するマリベル。

 そんな娘に対して、国王が事務的な口調で答えた。


「亡命? 残念だがお前を亡命させる訳にはいかない」


「な、何故ですの!?」


「お前は仮にも帝国の元皇后。

 お前と皇太子は、ナバールとの交渉の切り札の一つだ」


「なっ……お父様は私を政治の取引材料にするおつもりですか!?」


 ヒステリックに叫ぶマリベル。

 そんな彼女に対して、国王は軽く諭した。


「嗚呼、その通りだ。 お前は王家の娘。

 故に王女として振る舞い、王女として国に尽す。

 そして今のお前の役割は、

 ナバールとの交渉材料になる事だ」


「そ、そ、そ、そんなのはあんまりですわ!

 そ、そ、それに今更、ナバールのもとには戻れませんわ。

 そんな事をしたら、私はともかく、あの人が……」


「あの黒髪の侍従武官じじゅうぶかんの事か?

 奴こそうってつけの生け贄(スケープ・ゴート)

 ナバールも元皇后のお前を殺しはせんだろうが、

 奴の怒りの矛先を別に向ける必要がある」


「か、彼を……ライトベルクを失いたくにわ!」


「いつまでも我が儘を抜かすなぁぁぁっ!!」


「お、お、お父様……」


 マリベルは父がこんなに激高する姿を初めて見た。

 それで彼女も自分の立場がようやく分かった。

 再びナバールの許に戻るか。

 あるいはナバールの手で愛人共々八つ裂きにされるか。


 どちらにせよ、彼女には窮途末路の未来が待っていた。

 その事を悟ったマリベルは、小さく嘆息した。


「結局、私は王家の道具として生きるしかないのですね。

 分かりましたわ。 私も自分の役割を全うしたいと思います。

 でも父上、貴方の勝利を心から願ってますわ……」


「嗚呼、余もまだ死ぬつもりはない。

 可愛い娘を野蛮人の許へ再度、送りたくもない。

 だから余は、ペリゾンテ王国は、必ずナバールに勝ってみせる!」


 彼等の思いとは裏腹に帝国軍は、

 ペリゾンテ王国に向かって進軍を開始した。

 この戦いに勝つか、負けるか。

 ペリゾンテ王国の覇権と存亡をかけた戦いが幕をあけようとしていた。


次回の更新は2024年2月18日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 ペリゾンテ王国もペリゾンテ王国で大変そうですね。 次の舞台になりますが、どう動くのでしょう。 ここでも連合軍(ペリゾンテ王国軍)が敗北したら、帝国が次、どこに侵略してく…
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