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第百八十七話 寝耳に水


---主人公視点---



 それから数日ほど、私は新たに覚えた独創的技オリジナル・スキルの練習に励んだ。

 基本的に宿泊させてもらっている豪邸の庭。

 あるいは騎士ナイト職業ジョブギルドの訓練所で、

 「戦乙女ヴァルキュリアの舞(・ダンス)」と「神速殺しんそくさつ」を

 アストロス、また騎士ウェーバー相手に何度も繰り出した。


 「戦乙女ヴァルキュリアの舞(・ダンス)」は段々とコツを掴んできたけど、

 「神速殺しんそくさつ」はなかなか難しかった。

 基本的に「戦乙女ヴァルキュリアの剣(・ソード)」で、

 居合斬りするのは、色々と難しいのね。


 でもこういう時はひたすら練習あるのみよ。

 また休憩時間には、商業区で「回復薬ポーション」やこの周辺の地図を購入。

 アストロスやジェイン達は、「武器屋」や「防具屋」で、

 武器、防具の新調、あるいは修繕したみたいね。


 これでいつでも戦える。

 と思っていたら、2月23日の正午過ぎに事態が急変した。


「おい、ファーランド王国の王都が陥落したらしいピョン!」


「マジだピョン!?」


「マジ、マジピョン! 

 既に連合軍が王都エルシャインから撤退したらしいピョン!」


「それはヤバいピョン! このパルガは大丈夫ピョン?」


「分からないピョン、でも注意した方が良いピョン!」


 商業区のメインストリートで、

 多くの兎人ワーラビットが騒ぎ立てていた。

 これが本当なら、今すぐラミネス王太子のもとへ行かなきゃ!


「皆、王太子殿下の所へ行くわよ」


「「はい」」「はいだワン」「はいだわさ!」



---------


「リーファ嬢、待っていたよ。

 とりあえずそこのソファに座りたまえ!」


「はい、失礼致します」


 私は目の前のラミネス王太子に小さくお辞儀してから、

 王太子殿下と対面する形で、黒革のソファに腰掛けた。

 残りのアストロス、エイシル、ジェイン、ロミーナは私の後ろに立ったままだ。


「その様子だと君の耳にも入ったようだね」


「ええ、本当に王都エルシャインが陥落したのですか?」


 私の問いに対して、ラミネス王太子は「嗚呼」と頷く。


「連合軍とファーランドの王国軍も奮闘したようだが、

 例の『漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)』の猛攻に遭い、

 大打撃を受けたところで、帝国軍が総力戦を仕掛けたようだ。

 連合軍もそれを迎え撃って、総力戦に持って行き、

 一週間に及ぶ死闘の末、敗れたようだ。

 ラステバン宰相が王城エルシャインに残って降伏したらしい。

 残された連合軍は南西に撤退して、

 我が軍との合流を図っているようだ……」


「そうですか、しかし連合軍も十万を超える大軍でしたのに……。

 やはり『漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)』の力が大きかったのでしょうか?」


 するとラミネス王太子は、首を左右に振った。


「いやそれだけではないようだ。

 どうやらヴィリニス大公国から、

 派遣されたデーモン族とヒューマン、

 竜人族の混成部隊五万人が突如参戦して大暴れしたらしい」


「そ、それは……デーモン族もこの戦いに参戦したという事でしょうか?」


「そうとも取れるが、詳しい事情は私も把握していない。

 だが隙あれば似たような真似を今後も続けるかもしれん……」


「そうですか……」


 これは想像以上に悪い事態になったわね。

 マリーダの事もそうだけど、

 デーモン族が本格的に参戦してきたのは誤算だわ。


「帝国軍だけなら、まだしもデーモン族の相手となると

 冗談ではなくエレムダール全土に血の雨が降るかもしれん。

 とはいえ弱気は禁物。 そして奴等の次の狙いは、

 間違いなくペリゾンテ王国となるであろう」


「それは間違いないでしょう」


「嗚呼、だがそうなるとまた色々と問題が生じる。

 だが私は前にも言ったが、

 ペリゾンテ王国に大きな支援をするつもりはない。

 だからある意味では、ペリゾンテ王国は捨て駒だ」


「……」


「ナバールはペリゾンテ王国を制圧したら、

 皇太子であるナバール二世をの身を確保するであろう。

 そうなると国王ミューラー三世と元皇后マリベルの身が

 危なくなるが、私はこの二人を母国に亡命させるつもりはない」


「そうですか」


「嗚呼、私はむしろこの二人を生け贄として差し出せば、

 ナバールの溜飲も下がると思っている。

 奴とて馬鹿ではない、この辺りで身を引いた方が賢明と悟るであろう。

 そこで我等アスカンテレス王国や連合軍の加盟諸国が

 ナバール、ガースノイド帝国を相手に講和を結ぶ。

 という選択肢も考慮しておくべきであろう」


「そうですね……」


 消極的な策だけど、悪くない考えとも思うわ。

 特にデーモン族の参戦は、

 この戦いの流れを変えかねない。


 だから王太子殿下のこの考えも分からなくもない。

 でも私としては、マリーダをこの手で何とかしたい。

 彼女がこの先もずっと生き続けたら、

 恐らく私にとっても良い結果にはならないでしょう。


「とはいえ帝国相手に弱腰は禁物だ。

 私もナバールに屈したと思われるのも癪だ。

 だからペリゾンテ王国にも四千から五千人の増援を送るつもりだ。

 そしてリーファ嬢、君にもその増援部隊に混じって欲しい」


 そう言って王太子殿下は、無言でこちらを見据えた。

 これは最初から拒否権はなさそうね。

 でも私としてもマリーダと決着をつけたい。

 だから私は王太子殿下が望む答えを口にした。


「はい、私としてもあの女――『漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)』と決着をつけたいところです。

 なのでこの任務、謹んでお受けいたします」


「うむ、君ならそう言ってくれると思ったよ。

 君としても彼女――マリーダ嬢の存在は邪魔であろう。

 だから戦場で正々堂々と決着をつけるがいいさ」


「はい」


「うむ、君には期待しているよ」


「それでは失礼致します」


 そして私達は踵を返して、この部屋から去った。

 とりあえず自室へ戻って少し休みましょう。

 

「デーモン族も参戦ですか。

 これは厳しい戦いになりそうですね」


 と、エイシル。


「それもですが私としては、

 やはり『漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)』の事が気になりますね」


 こちらを見てそう呟くアストロス。


「ええ、でも私はあの女――マリーダに負けるつもりはないわ」


「うん、お姉ちゃんならきっと勝てるワン」


「あたしもそう思うだわさ」


「ジェイン、ロミーナ。 気遣いありがとう。

 とりあえず王太子殿下の呼び出しがあるまで

 自室で休みましょう」


「「はい」」「はいだワン」「はいだわさ」


 そして三日後の2月26日。

 私達は王太子殿下の命令で、

 ペリゾンテ王国に派遣される増援部隊に混じって、

 ペリゾンテ王国の王都ウィーラーへ向かった。


次回の更新は2024年2月17日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言]  オリジナル技の説明を丁寧に書いておりますね。  リーファもマリーダの対策にはきちんと練らないといけないから、大変です。  敵もマリーダ一人に頼らず、デーモン軍と併用して攻めてくるから、わく…
[一言] 更新お疲れ様です。 デーモン族が、これだけ積極的に参加するとは... 少し驚きが大きいですね。次の戦場がエルシャインだと思っていたので、驚きです。 そして、次なる戦いの場はペリゾンテ王国…
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