第百八十五話 独創的技(オリジナル・スキル)・(中編)
---主人公視点---
翌日の2月19日。
今回の訪問先は騎士の職業ギルド。
同行者は前日と同じくアストロスとジェイン。
それとロミーナも冷やかし半分でついて来た。
ちなみにエイシルは、冒険者区と商業区で色々と買い物したい。
と言ったので彼女とは、別行動を取る事となった。
とりあえず夜の十九時にあの豪邸に戻る予定よ。
そして私達は、冒険区内の騎士の職業ギルドへ向かった。
騎士は高い防御力を誇る防御職であると同時に、
高レベルの剣術スキルも使えて、更には回復魔法も使える。
故に騎士は、パーティ戦において重要な役割を果たす。
本当は戦乙女の職業ギルドがあれば、
そこに向かうんだけど、超稀少職である戦乙女は、
職業ギルドなんかは当然無く、
冒険者ギルドで公開されている情報も少ない。
だから今回は騎士の職業ギルドで、
剣術の独創的技を習得したいと思っている。
そして歩くこと、十分余り。
私達四人は目的地に到着した。
騎士の職業ギルドは、
ギルドの玄関付近に受付所と中規模な事務室があり、
敷地の大半が平地の訓練場となっていた。
奥にある屋根付きの木造の建物は診療所であり、
訓練や模擬戦での負傷者は、ここに運ばれる。
また治療は回復魔法を使える騎士が行うので、
負傷者の治療だけでなく、
回復魔法の練習や熟練度も上がるという一石二鳥。
戦乙女になる前に、
騎士で単独活動や討伐依頼もしてたので、
この辺の事情はそれなりに知っているわ。
今この瞬間も多くの騎士が訓練用の木人の前に立ち、
訓練用の木剣を掛け声を上げて振っていた。
「よし、良いぞ。 皆、同時に掛け声を上げながら、木剣を振れ!
ただ無闇に振るんじゃない。 心を込めて振るんだ!」
騎士見習い、あるいは本職の騎士達が木人相手に木剣を振る中、
白銀の甲冑を着た体格の良い男性の竜人族が両腕を組みながら、
発破を掛けていた。
「ん?」
どうやらこちらに気付いたようね。
でも手間は省きたいわ。
だからここは単刀直入で行こう。
「待って! 私は怪しい者じゃありません。
私は連合軍のラミネス王太子に仕える戦乙女です。
これが私の冒険者の証とギルドマスターの紹介状です」
私は左手に冒険者の証。
右手に紹介状を持って、眼前の男性竜人族に見せた。
すると彼の表情が一瞬で変わった。
「これは失礼致しました、戦乙女殿!
私はこの騎士の職業ギルドの師範。
そしてジェルミナ共和国騎士団の騎士ギルベルト・ウェーバーです!」
背筋を伸ばして敬礼する騎士ウェーバー。
まあ良くも悪くも騎士という感じね。
でも竜人族なのにジェルミナ共和国騎士団の所属か。
これは色々と理由がありそうね。
「そんなに畏まらなくていいわ。
ここにはちょっと所用があって訪れただけよ」
「どのような所用でしょうか?」
「そうね、ここでは何ですし、
玄関付近の事務所をお借りしていいかしら?」
「はい、勿論です!」
「じゃあちょっとお借りするわ。
それとウェーバーさん、貴方も同行してください!」
「はい、何なりとお命じください」
そして私達は玄関付近の事務所へ向かった。
---------
とりあえず私は用件を騎士ウェーバーに伝えた。
私達は中規模の事務所の黒革のソファや椅子に腰掛けて、
竜人族の騎士ウェーバーは対面の椅子に座っていた。
「それでどのようなご用件なんでしょうか?」
「ウェーバーさん、端的に云います。
独創的技で剣術を登録しようと思ってるんですが、
剣術のエキスパートである騎士の意見が聞きたいのです」
「成る程、剣術の独創的技ですか」
「ええ」
「ちなみに現時点での技の構想はありますか?」
「そうね、この剣術スキルはスロット2に登録する予定だから、
多くても三連撃、あるいは一撃に特化したものにするつもりよ」
私の言葉を聞いて騎士ウェーバーは、「ほう」と小さく声を漏らした。
「そうですね、私個人の意見を言わせていただきますが、
独創的技で過度な連続技は、
基本的に避けた方が良いですね。 それは剣術スキルも同じです」
「ええ、それは拳士ギルドでも言われたわ」
「と言うと一つ目のスロットには、体術系の技を登録したのですか?」
「そうよ、左構えから左ストレート。
そして左ボディフックで肝臓打ち。
そこからローリング・ソバットに繋げる三連コンボよ」
「成る程、それならその体術スキルとも組み合わせられるような
剣技が良さそうですね。
ちなみに現時点ではどのような剣技を考えていますか?」
「そうね、一つは火炎属性から風属性攻撃、
そして光属性攻撃で締める三連続攻撃。
この三連続攻撃が決まれば、
光属性の魔力反応『太陽光』が発生するわよね?」
「ええ、袈裟切り、逆袈裟を放って、その後に繋ぐ形ですか?」
「そうよ、対人戦では三、四連続攻撃くらいじゃないと、
まず当たらないでしょうかあらね。
でもこれはあくまで候補の一つ、もう一つは……」
そこで私は一度、言葉を止めた。
そして騎士ウェーバーの表情を覗き込んだ。
彼も真剣な表情でこちらを見ている。
一方の私の盟友はアストロス以外は、
退屈そうにそっぽを向いていた。
特にロミーナは軽い欠伸までしていた。
獣人は本当に堪え性がないわね。
まあいいわ、もう一つのアイデアを言いましょう。
「二つ目は突きに特化した剣技を考えているわ。
独創的技は、何度も何度も使って
熟練度を上げる必要があるわ。
だから攻撃モーションが短くて、一発の威力がある突きは、
単体でも、二、三連続の突きでも使い勝手が良い話」
「そこに気付かれるとは流石です。
流石は戦乙女殿といったところですね!」
と、騎士ウェーバー。
「でも突きに関しては既存の剣技も多いから、
わざわざ 独創的技を使うのも少し勿体ないわ。
だから私の本命は三つ目よ」
私はそう言って、椅子から立ち上がった。
そして右足を前に出して、両肩の力を抜いた。
その姿を見てアストロスと騎士ウェーバーが「はっ」とした表情になる。
一方、ジェインとロミーナは眠たげな表情をしていた。
「まさか抜刀術ですか!」
私は騎士ウェーバーの言葉に無言で頷いた。
そうよ、私の本命は、独創的技による抜刀術よ!
次回の更新は2024年2月11日(日)の予定です。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。