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第百八十一話 運命の力(後編)


---主人公視点---



「人間には持って生まれた地位や身分。

 そして美貌、様々な才能などがありますが、

 それだけでは、世の中を上手く渡れない場合があります。

 例えば生まれながら、高い地位や身分を持っていても、

 重い不治の病にかかっていては、

 その人物はある意味、下手な平民より不幸かもしれません」


「ほう、なかなか興味深い話だね」


 ラミネス王太子の青い瞳が僅かな興味に揺れている。


「ええ、でもその全てが人間の生まれ持った運命の力が

 関係しているかもしれません。

 あの怪物ナバールも生まれは、辺鄙へんぴな離島育ち。

 更には貴族とは名ばかりの貧乏子だくさんの貧しい家庭。

 そういう意味じゃ彼は、

 あまり恵まれた育ちとはいえないでしょう」


「そうだな、今となっては誰もがあの男に

 強い関心と畏敬の念を抱くが、

 生まれも平凡、学生時代もまあそこまで優秀であった訳ではない」


 この辺は今のエレムダール大陸の住人なら誰でも知っている話だわ。

 でも彼は――ナバールはある時期から一気に輝き始めた。


「そしてナバールは、二十数歳の時に、

 その時のガースノイド共和国の総裁バレスに見込まれて、

 学生時代に学んだ砲兵戦術を生かして、

 軍人として華々しい戦果を挙げていきます。

 ここら辺から運命が彼を勝者として導き出したように思えます」


「成る程、それが運命の力か……」


 私は若き王太子の言葉に目で頷いた。

 

「そのナバールも一年前の戦いで、

 皇帝の座を追われて、ネルバ島へ流刑されました。

 常識的に考えれば、ここで彼の人生は終わった。

 と誰もが思っていたでしょう。

 ですがその後、彼は再びガースノイドの皇帝に返り咲きました。

 ここまで来ると彼の才覚や能力だけでなく、

 運命の力のようなモノが彼を後押ししている。

 と、私個人は最近そう思っている次第です」


 とりあえず私は思うまま自分の言葉を伝えた。

 少しオカルトな話題が入っているが、

 私個人はあのナバールには、

 人知を越えた何かが味方しているように思う。

 そしてどうやら王太子殿下も同意見であったようだ。


「荒唐無稽の話のように思えて、

 何処か信じてしまう説得力があるな。

 確かにある時期からナバールには、

 何かが力を貸しているように思える。

 そうでなければ、今のこの状況は生まれてないだろう。

 そうなると我々としても、今後どう動くか熟考するべきだな」


 ……。

 私とて安易に運命の力など信用したくない。

 でも彼を――ナバールを見ていると、

 そう思わせてしまう何かがあるような気分に陥るわ。


「恐らくもう少しでファーランド王国は、

 帝国の手に落ちるだろう。

 そうなれば次なる戦場は、ペリゾンテ王国になるだろう。

 そこで我々、連合軍がペリゾンテ王国に加勢するか。

 あるいは必要最低限の援軍だけ送って傍観を決め込むか。

 私はこの二つの選択肢のどちらかを選ぼうと思っている」


 そこまで言うと、ラミネス王太子はこちらに顔を向けた。


「ナバールと徹底的に戦うか。

 あるいは程よいところで講和を結ぶか。

 私としては、両方の可能性を考えて動きたいと思う。

 だからリーファ嬢、君とその盟友には我が傘下に入って貰う」


「……シャーバット公子殿下のご許可は頂いたのでしょうか?」


「既に公子殿下宛てに書状を送ったところだ。

 どちらにせよ、君の母国はアスカンテレス王国。

 ならばアスカンテレス王国の一員として、

 私のもとで戦うべきではないか? ん?」


 ……。

 これはもう従うしかないわね。

 ここで王太子殿下を敵に回す訳にはいかないわ。


「……はい、私もそうしたいと思っております」


「そうか、ところで噂で聞いたが、

 「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」の正体が君の元義妹のマリーダ嬢であった。

 という話は本当かね?」


「事実でございます」


 するとラミネス王太子の凜々しい顔が更に引き締まった。

 

「それが本当であるならば、

 君自身も運命の力に左右されつつあるな。

 その結果、勝つのはキミか? あるいは……。

 まあ良い、運命というものは確かに大事かもしれんが、

 まずは自分の能力と行動力で、

 自分自身の道を進む事が一番重要だと思うな」


「私も同じ考えであります」


「そうか、なら今後の君達の活躍に期待するよ。

 しばらくはこの屋敷で寝泊まりすると良い。

 その間に冒険者ギルドへ行って、

 スキルポイントの振り分け、

 あるいは新たなスキルや魔法を覚えておきたまえ!」


「王太子殿下の心遣いに深く感謝いたします。

 時間が出来次第、仲間と共に冒険者ギルドに向かいます」


「うむ、では早速だが君達の部屋を割り当てよう。

 細かい事は執事長のラースに聞くが良い」


「はいっ!」


 それだけ言い放つと、王太子殿下は。

 ソファから立ち上がり、護衛を引き連れてこの場から去った。

 そして私達も、各々の決意を胸に秘めて、この部屋から出て行った。

 すると私達を待ちかねていたように、

 扉の近くに執事長ラースが立っていた。


「ではこれより皆様をお部屋に案内させて頂きます」


「ええ、お願いしますわ」


 すると執事長がくるりと背を向けて歩き出した。

 そして私達はラースの後をゆっくりとついて行った。


---------


「これは凄い寝室ですね」


 エイシルがこの豪邸の寝室兼客間の天蓋付きのベッドを見て、そう呟く。


「そうね、それ以外にも等身大の鏡や化粧台もあるわね」


「でも兎人ワーラビットのアタシには、

 少しばかり広すぎるだわさ」


 と、ロミーナ。


「まあまあ、そこは目を瞑りましょうよ」


 と、エイシル。


「そうね、まあ寝返り打っても大丈夫だから、

 それで良しとしておくわ」


 そして私達はそれぞれの荷物を部屋の隅に置いた。

 部屋には大きめのシャワーボックスもついていた。

 こんな豪邸に無料で宿泊出来るのは凄いわね。

 でもその見返りは、それ相応のものになるでしょう。


「しかしリーファさんの運命の力のお話は興味深かったです」


「うん、アタシも思わず感心しただわさ」


 エイシルとロミーナは、ベッドに腰掛けてそう言った。

 まあ二人がそう思うのも無理はないわ。

 だから私は思ったまま自分の考えを伝えた。


「ええ、でも運命自体も自分の行動自体で

 変える事は可能よ、だから運命に身を委ねるだけじゃなくて、

 自らの手で自分の人生、運命を変えようとする意思を持つべきよ」


「そうですね」


「うん、自分の人生は自分で生きる道を見つけるべきよね


 エイシルとロミーナがそう相槌を打つ。


「それじゃ今から自由行動としましょう。

 この部屋でシャワーを浴びるのも自由。

 食堂で夕食取るのも自由にしましょう」


「はい」「そうね」


 そして私はまずは身を清めるべく、

 衣服や下着を脱いで、自室のシャワーボックスで汗を流した。


 しかし思えば私も皮肉な運命を辿っているわね。

 婚約破棄されて、実家から追放。

 そして戦乙女ヴァルキュリアになって戦場を駆け巡り、

 その結果、実父と義母と義妹を辺境に流刑。


 それで終わりかと思ったら、

 その義妹が敵となって、再び私の前に現れた。

 自分でも人とは違う人生を歩んでいると思うわ。


 でもここでもし私がマリーダに負けて死んだら、

 それこそ全てが台無しになるわ。

 だから私は絶対に負けない、勝ってみせるわ。


 そうじゃないと惨めな人生を歩むことになる。

 私は必ず自由を掴んで、

 自分が進みたい道を進んでみせる。


 その為ならば、この手でかつての義妹を倒す事も躊躇しないわ。


 しかし私とマリーダの戦いは、まだ始まったばかり。

 そして二人の思惑とは裏腹に事は進んでいき、

 私とマリーダは、戦場で幾度か、剣を交える事になるのであった。


次回の更新は2024年2月3日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言]  リーファも自分が追放された後、戦乙女になり、マリーダを追い出した。  そのマリーダが強敵となって立ちふさがる。なんともいえない運命ですね。  ナバールは運命を受け入れない人のように思えます…
[一言] 更新お疲れ様です。 リーファの語る「運命」は、小説をまるで小説じゃないかのように捉えさせていいですね。 敵が敵たる理由になりますし。 そして、最後の一文 『私とマリーダは、戦場で幾度か、…
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