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第百八十話 運命の力(前編)


---主人公視点---



 翌日の2月15日。

 私達は昨夜、泊まったパルガの街の高級宿で、

 美味しい朝食を摂ってから、身支度を整えた。


 ラミネス王太子との約束は十三時半。

 準備を終えた私達は、十三時に高級宿を発った。

 私達五人に加えて、若き国王と王女二人。

 それと五名の護衛がついた状態で居住区へ向かった。


 都市パルガの住宅街は、

 やはり兎人ワーラビット領であったので、

 獣人サイズの家ややしきが多かったが、

 ヒューマン向けの家ややしきも半数近くあった。


 そんな住宅街を抜けて、向かう先は高級住宅街。

 しばらく進むと小高い台地があり、

 そこに貴族達や王族達が屋敷やしきや別荘を構えていた。


「パルガは古い街だけど、

 意外と近代化について来てるようね」


「そうですね、流石に王都アスカンブルグには及びませんが、

 避暑地として活用している貴族、王族も居るようですね」


 私の言葉にアストロスが相槌を打つ。


「でもお姉ちゃんのお屋敷の方が立派だワン」


「そう?」


「うん、戦いが終わったら、またあのお屋敷に住みたいワン」


「そうね」


 私とジェインが言葉を交わしているうちに、

 高級住宅街に入ったようね。

 この付近の家や屋敷は豪邸ばかりで、

 塀越しに見える庭は広く、垣根や機微も綺麗に手入れされていた。

 

 高級住宅街を歩くこと、五分余り。

 前方に三階建ての豪邸が見え始めた。


「あそこにラミネス王太子が滞在しているようだ」


 若き国王ファン一世が右手の人差し指で、前方の豪邸を指差す。

 三階建てで横幅もかなり広いわね。

 外から淡い光でライトアップされており、

 観る者を魅了する雰囲気を放っていた。


「パーラ、屋敷の警備員に国王ファン一世が来た、と伝えよっ!」


「御意!」


 若き国王に命じられて三十前後の男性ヒューマンの執事が

 屋敷の門に歩み寄り、警備員と何やら言葉を交わす。

 それから待つ事、三分余り。


「お待たせしました。

 中でラミネス王太子殿下がお待ちしております」


「うむ、では中へ入ろう」


 当然といった表情で若き国王と王女が開かれた門から豪邸の中へ入る。

 入り口の付近の花壇に綺麗な白薔薇が咲いていた。

 芝なども綺麗に刈り揃えられているわ。


 そして正面玄関にはまた警備員、

 いや男性ヒューマンの警備兵が二人立っていた。

 そこで入念なボディチェックをされて、

 携帯していた武器は一時預ける事となった。


「では屋敷内にお入り下さい」


「うむ」


 ファン一世が鷹揚に頷く。

 私は警備兵に控えめにお辞儀して、

 若き国王と王女の後ろを歩いた。

 屋敷の中は意外に質素というかシックであった。


 だが天井にある大きなシャンデリア。

 とても綺麗に磨かれた大理石の床は光を反射していた。

 置かれている美術品や調度品のセンスもとても良かった。

 これはラミネス王太子の趣味かしら?


「どうも、ファーランド王国の王族及び従者の方々。

 それと戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友一行。

 私はこの屋敷の執事長ラースです。

 今から応接間に案内するので、後について来てください」


「ああ」


「なかなか良いセンスの屋敷ね」


「ええ、お姉様。 わたくしもそう思います」


 執事長の後ろを歩き。

 若き国王と王女二人が品定めするように、

 屋敷内の美術品や調度品に視線を向ける。


 そして赤い絨毯と黒革のソファが幾つか置かれた応接間に通された。

 とりあえず王族は王族同士で座り、

 私達は五人で向かい合う形で黒革のソファに腰掛けた。

 しばらくするとエルフ族の若いメイドがやって来た。


「お飲み物はどうなさいますか?」


「私は紅茶でお願いします」


「自分も紅茶で」「ボクも紅茶で」


「オイラはオレンジジュースが良いワン」


「あたしもオレンジジュースで!」


 私とアストロスとエイシルは紅茶。

 ジェインとロミーナはそれぞれオレンジジュースを注文した。


「我々は飲み物は要らない。

 それより王太子殿下に早く会わせて欲しい」


「……了解しました. 少々お待ちください」


 いきり立つ若き国王を気にする事無く軽く受け流す執事長。

 ファン一世は少し慌てすぎよね。

 ああいう態度はラミネス王太子に嫌われるわね。

 まあ私には関係ないけど……。


「では今から王太子殿下の許にお連れします」


「うむ」


 そう言葉を交わし、執事長と王族三人が応接間を出た。

 その間にエルフ族の若いメイドが紅茶とオレンジジュースを運んで来た。


「っ!? これは美味しいわ!」


「た、確かに……これは絶品です」


「……本当に美味しいですね」


 私達は運ばれた紅茶に口をつけるなり、驚きの声を上げた。

 これは絶品ね。

 香りも味も超一級品だわ。


 でも慌てて飲んでは駄目ね。

 もう少し香りと味を味わいましょう。


 私は紅茶の入ったティーカップをソーザーの上へ戻した。

 するとアストロスとエイシルも同じ動作を行った。

 ジェインとロミーナも美味しそうにジュースを飲んでるわ。


 こんな感じでティータイムを楽しんで居たけど、

 五分後、応接間のドアが乱暴に開けられた。

 私達は咄嗟にドアに視線を向けた。


 すると不機嫌な表情をしたファン一世と王女二人が立っていた。


「……われはこれで失礼する。

 リーファ殿達の護衛はここまでで結構だ。

 後はキミ達の自由にしたまえっ!」


「えっ? 国王陛下、急にどうなされたのですか?」


「五月蠅いっ! われは非常に不愉快である!

 ……ではさらばだぁっ!」


 若き国王はそう言い残して、乱暴にドアを閉めた。

 ……突然の事態に私達五人も思わず硬直した。

 すると再びドアが開き今度は執事長ラースが現れた。


「長らくお待たせしました。

 今から王太子殿下の所へお連れ致しますので、

 わたくしの後について来てください」


「はい……」


 さてここからが本番ね。

 相手は王太子殿下。

 果たして彼は何を仰るつもりなのか?

 それ故に一言一句気にかけるべきね。


 そして私達は、黒革のソファから立ち上がり応接間を後にした。


---------


「リーファ嬢、よく来てくれた。

 まずはそのソファに腰掛けるが良い」


「はい、王太子殿下」


 ラミネス王太子の部屋の中に案内されて、

 私は黒い大理石のテーブルの前の椅子に座った。

 ちなみにアストロス達四人は、

 私の後ろで直立不動で立っていた。


 部屋の中はそれなりの数の美術品や調度品が置かれている。

 どれも良いセンスだわ。


「この度は私の呼び出しに応じてくれて、感謝する。 

 しかしファーランド王国の王族連中には困ったよ。

 彼等はいつまでも自分が国を支配する王族と勘違いしている。

 没落した王族や貴族など何の価値もないのにな」


「はあ……」


 ここは王太子殿下に同調するのは良くないね。

 他人の悪口に乗っかる女とは思われたくない。

 だからここは曖昧に行きましょう、曖昧に……。


「とりあえず君には、あの王族連中の護衛から降りてもらう。

 大丈夫、代わりに私の配下の者に護衛をつける。

 そしてキミ達には、私の指揮下に入ってもらいたい」


「それは構いませんが、

 シャーバット公子殿下のご了承は得ているのですか?」


「嗚呼、既に公子殿下宛てに書状を出したところだ」


「そうですか」


「嗚呼、こう言っては何だがファーランド王国は、

 まもなく敵の手に落ちるだろう。

 となれば帝国軍の次なる狙いはペリゾンテ王国であろう」


 これに関しては間違いないわ。

 ナバールとしては何としても皇太子。

 そして皇后を奪い返したいところでしょう。


「だが私はペリゾンテ王国に過度な支援する気はない。

 あの国は今まで傍観を決め込んでいたからな。

 だからこの辺で少々痛い目にあってもらうつもりだ」


「……」


「しかし今更だが怪物ナバールは本当に我々の予想を超える。

 ほんの一年前は、ネルバ島に流刑されていたのに、

 今ではまた皇帝の座に就いている。

 正直未だに信じられないよ。

 あの男には神、あるいは悪魔でもいているのか?」


 王太子殿下の気持ちはよく分かるわ。

 私自身似たような事を思っている。

 だけどこうも思う。


 皇帝ナバールは非常に強い運命の力を持っているのでは?

 運命の力、それは自身の運命を良くも悪くも

 強い力で導く力、私にはナバールにはそんな力があるように思えた。

 

「もしかしたらナバールには、

 強い運命の力があるのかもしれませんわね」


「運命の力……だと?

 面白そうな話だな。 是非、その話を聞かせて欲しい」


「はい、では――」


 どうやら王太子殿下も興味を持ったようね。

 でもここは変に駆け引きするつもりはないんわ。

 だからここは素直に思ったことを伝えましょう。



次回の更新は2024年1月31日(水)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 なんだか、傲慢な人が多いですね。 まぁ、王族はいつもこんな感じなので珍しいものではありませんが。 多分、今後ファン一世に降りかかる不運へのフラグでしょう。 そして、2…
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