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第百七十五話 四苦八苦(中編)



---三人称視点---



 開戦から八日が過ぎた1月10日。

 各地で激戦を繰り広げる連合軍と帝国軍の国旗が翻る。

 だが帝国方面の戦いは、

 お互いに決定打に欠けて、膠着状態にもつれ込んでいた。


 帝国の周辺に配置された聖龍の存在は、

 敵である連合軍に大きな重圧感を与えていた。

 しかし帝国方面の部隊はあくまで牽制。


 連合軍のその動きを看破した皇帝ナバールは、

 ファーランド王国の北部に攻め込んだ帝国軍の第五軍に

 増援部隊を送りこみ、戦局を大きく変化させた。


 帝国軍の第五軍は、

 ハーン、タファレル、バズレールの三元帥の騎兵隊を

 総動員して、真正面から騎兵戦を挑み続けて

 遂にファーランドの国境線を越えて、

 ファーランド北部の都市や砦を次々と陥落させた。


 連合軍の第五軍も健闘を見せたが、

 主力となる傭兵及び冒険者部隊は、

 司令官であるオルセニア将軍を失い、

 指揮権を傭兵隊長カーライルに移したが、

 勢いに勝る帝国軍の騎兵隊が縦横無尽に戦場を駆け巡り、

 連合軍の騎兵隊を次々と打ち負かした。


 その中でもハーン元帥は、

 『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』の騎兵隊に混じりながら、

 軍馬を走らせて、長槍を片手に最前線で戦い続けた。


 ハーン元帥の職業ジョブは、騎士ナイト

 レベルは55であり、一戦力としても優れていた。

 だが彼は元来、最前線で戦うような男ではなかった。


 彼は基本的に安全な所から指示を出して、

 戦況の流れによって、自身の安全を確保しながら

 攻める、退くといった戦法を使うタイプの指揮官である。


 一年前の帝国軍と連合軍の戦いでもそれは同じであった。

 彼は途別大きな武勲を立てたわけではないが、

 特別大きな失敗をした訳でもなかった。


 そして帝国と連合軍の事をじっくりと観察して、

 王政復古したガースノイド王国でレイル十六世に仕えた。

 要するに彼は大きな勝負をしない慎重な男だったのだ。


 しかしネルバ島に流刑されたナバールが一年も経たず、

 ガルネスに凱旋、そして再び皇帝の座に就いた。

 それによってハーン元帥は、

 一騒動あった後に、再び皇帝ナバールに仕える事となった。


 だがハーン元帥も分かっていた。

 もう一度裏切り行為を行えば、

 自分の名声は地に墜ちるだろう。


 だから自分はもう帝国軍の一員として、

 今後の人生を歩むしかないのだ。

 その為には彼も帝国もずっと勝ち続ける必要がある。

 そして彼は自身の生き方を変えて最前線に立つ事にした。


「連合軍の騎兵隊……来ます!」


 伝令兵の報告に頷き、

 ハーン元帥は伝令の指し示した方向に視線を向ける。

 

「どうやら敵も退くつもりはなさそうだな。

 それならばこちらも真正面から敵を迎え撃つ!

 『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』の騎兵隊よ!

 私の後に続くが良いっ!」


「ははぁっ!」


 巻き上がる粉塵の中、長槍と長剣が交錯する。

 騎乗者を失った軍馬がそのまま地を駆けるのを無視して、

 ハーン元帥は長槍を振るって、次の騎兵の斬劇を受け止めた。


 そして引きずり込むように体重ウェイトを素早く移動させて、

 敵の騎兵を馬から叩き落す。

 地面に転落した騎兵の悲鳴を、

 隣を駆け抜けた軍馬の馬蹄の轟きが掻き消した。


 騎兵隊同士の乱戦状態で馬から落下すれば、

 落ちた兵士は、まず助からない。


 ハーン元帥は、横合いから突き出された長剣を半身を捻って躱し、

 長剣の刀身を半ばからへし折った。

 そしてその長剣の所有者を一瞬の躊躇もなく、

 長槍で突き刺し、無表情で馬を進めた。


 展開される死闘は、既に指揮系統の存在を無視した乱戦となり、

 ハーン元帥の長槍も既に血で赤く塗装されていた

 次々と襲い掛かってくる連合軍の騎兵隊をハーン元帥は、

 片端から容赦なく刺し殺した。


 纏った漆黒の軽鎧ライトアーマーは、

 既に返り血を浴びて、重く濡れている。

 無表情で長槍を振る帝国元帥の姿は、

 敵騎兵隊だけでなく、

 帝国兵の中にも畏怖の感情を与えていた。

 

 戦いは徐々に終幕へと向かっていた。

 戦いの沈静化は、戦場における人間の減少を意味していた。

 勇敢だがやや無謀な突撃の末に、

 連合軍の騎兵隊は次々と倒れ、

 帝国軍は次々に騎兵隊及び敵兵を掃討していった。


 そしてハーン、タファレル、バズレールの三元帥は、

 自身も先陣に立ちながら、

 自らも敵兵を迎え撃ち、程よいところで退却。


 また突進、そして退却。

 と上手い具合に相手に揺さぶりをかけて、

 その止めに「漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)」マリーダを

 再び前線に立たせて、

 魔法攻撃を中心とした範囲攻撃で連合軍の兵士を死に追いやった。


「このままでは我が部隊の敗北は、時間の問題だワン。

 だからここは戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友に、

 一肌脱いで貰うだワン」


「はっ!」


 シャーバット公子は、副官エーデルバインにそう指示を下した。

 だがリーファ達が前線に向かう頃には、

 マリーダも先陣から中衛に後退しており、

 直接リーファと戦う事を避けていた。


 これに関しては、

 マリーダ本人はリーファと戦いたがっていたが、

 彼女を指揮するハーン元帥が――


「現時点でマリーダ殿と戦乙女ヴァルキュリアとでは、

 多少レベル差があるので、正面決戦は避けてもらう。

 但し中距離及び遠距離から、

 魔法攻撃や魔力無効攻撃などを仕掛けて、

 敵の前線部隊に大きく揺さぶりをかけてもらいたい。

 マリーダ殿からすれば、少々不満があるかもしれんが、

 一ヶ月もすれば戦乙女ヴァルキュリアのレベルにも追いつき、

 そうなれば、いつでも一騎打ちする機会も与えよう」


 という言葉にマリーダも大人しくし従った。

 実際この数日の戦いだけで、

 マリーダのレベルは37から40まで上がっていた。


 先日、リーファと一騎打ちした際に相手の能力値ステータス

 確認したが、その時のリーファのレベルは48であった。

 この調子で敵兵を沢山倒していれば、

 いずれリーファのレベルを追い越す事も出来そうだ。


 その事だけを楽しみにして、

 マリーダは黒い軍馬に乗り、戦場を縦横無尽に駆け巡った。

 それによって連合軍は更なるダメージを受けた。


 その結果、連合軍の第五軍は退却を余儀なくされた。

 その南下して都市エーハイルに籠城して、

 帝国軍の第五軍を迎え撃つが、

 結局、十日後の1月20日に都市エーハイルから撤退。


 そして防衛拠点を都市ザクレムと移すが、

 既に戦いの流れは完全に帝国軍に傾いていた。

 こうなれば王都エルシャインに攻め込まれるであろう。


 となれば「ファーランド王国政党政府おうこくせいとうせいふ」が政府転覆するのも時間の問題。

 その結果、国王ファン一世や宰相ラステバンは害され、

 帝国は亡命していたキース三世を再び王位に就けるであろう。


 それ自体は避けられない運命。

 だが最低限、現国王ファン一世と宰相ラステバン。

 そしてその他の王族と忠臣達を助ける必要があった。


 シャーバット公子は、それを優先させるべく、

 臣下とリーファとその盟友を引き連れて、王城エルシャインへ向かう。


「恐らくザクレムの防衛も持って十日であろう。

 その間に国王ファン一世や宰相ラステバンを

 連合軍の何処かの国に亡命させるワン。

 その為にリーファ殿やその盟友に国王ファン一世の護衛を頼むワン!」


「はい、分かりました」


 こうしてファーランド王国における戦いは、既に大勢は決した。

 しかし帝国軍の進撃はまだまだ終わらないであろう。

 彼等の目的はペリゾンテ王国に幽閉された皇太子の奪還。


 その為には今より多くの血を流す事になるであろう。

 だが今のシャーバット公子やリーファには、

 そんな先の事を考える余裕などなく、

 目の前の任務を優先することだけに、精神を集中させていた。


次回の更新は2024年1月21日(日)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 マリーダがリーファに追いつくのも時間の問題ですね。 そして、舞台は再びエルシャインですかね。 約100話程して、再度この土地に焦点が合うとは... ラングと戦ったのも…
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