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第百七十四話 四苦八苦(前編)



---三人称視点---



 オルセニア将軍が戦死した事によって、

 竜人族の傭兵隊長カーライルが後の指揮権を引き継いだが、

 ハーン将軍率いる『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』の騎兵隊によって、

 連合軍の傭兵及び冒険者部隊は、苦戦を強いられた。


 戦闘が開始して三日後の一月五日。

 両軍の被害は合わせて、二千五百人を超えようとしていた。


「連合軍の被害は約1800人に対して、

 帝国軍は700人、我が軍が押された状況が続いてます」


「そうか」


 兵士からの報告を聞くなり、

 シャーバット公子は表情を曇らせた。

 

「公子殿下、敵側に居る漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)による

 被害が尋常ではありません。

 このままでは我が軍の被害は増えるばかりです」


 チワワの副官エーデルバインがそう告げた。


「そんな事は私も分かっている。

 だが戦乙女ヴァルキュリア殿でも勝てなかったのだ。

 だからその漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)の相手は、

 一人で向かわず、多人数で相手を消耗させて、

 戦闘続行不能に追い込むのだぁっ!」


「それを実行してますが、

 なかなか上手くいきません。

 やはりここは戦乙女ヴァルキュリア殿に戦ってもらうべきでしょう」


 だがシャーバット公子は、副官の進言に首を左右に振った。


「いやこの戦いは恐らく長期戦になるであろう。

 だから戦乙女ヴァルキュリアは、我が軍の切り札として、

 使うべきだワン。 だが漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)

 無視する訳にもいかぬ。 こちらも騎兵隊を出しつつ、

 相乗りした犬族ワンマン猫族ニャーマンの魔導師部隊で

 集中的に魔法攻撃を仕掛けよ。

 戦況はこちらがやや劣勢だがまだ負けた訳じゃない!」


「……それで戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友は、

 どのようにお使いなさるつもりでしょうか?」


戦乙女ヴァルキュリア殿とその盟友は中衛で

 攻撃魔法及び回復魔法を使って、

 味方の前線部隊を支援するように伝えよ!」


「御意!」


「恐らく漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)はまだ戦い慣れしておらぬだろう。

 長時間戦えば肉体だけでなく、精神も疲労する。

 そうなれば戦う事も出来なくなるであろう。

 その為には多少の犠牲を払う事になるだろう。

 そしてその役目を傭兵及び冒険者部隊に任せる」


「ですが指揮官のオルセニア将軍を失って、

 傭兵及び冒険者部隊の士気は下がっております」


「なら金で釣れ! 敵の将軍や漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)

 多額の賞金を懸けるだワン!

 兎に角、ここは踏ん張らないといけないワン」


「了解致しました」


 指揮官としてシャーバット公子は威勢良くそう指示を下した。

 だが肝心の兵士達に勇気と闘志を与えたかは分からない。

 しかしそれまで静まりかえっていた兵士達が口々に呟きを漏らす。


「そうだな、俺達みたいな傭兵や冒険者にとっては、

 金が何よりも大事だ!」


「ああ、ここが腕の見せ所だな!」


「おう、今なら優勢と思って敵も油断しているだろうからな」


 こうして連合軍の第五軍の士気が少し上昇した。

 そして連合軍と帝国軍の国境線における交戦は、

 新たな局面を迎えようとしていた。



---------


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『フレアバスター』!!」


 リーファは左手に魔力を集中させて、

 前方目掛けて、大声で呪文を唱えた。

 次の瞬間、リーファの左手から眩く輝いた光炎フレアが迸った。


「ぬおっっ!?」


「ま、魔導師部隊! 対魔結界を頼む!」


「む、無理です! 間に合いませんっ!!」


 迸った光炎フレアが敵の中央陣に着弾。

 そして耳朶に響く爆音と共に、

 地震のように大地が激しく振動する。 


「我は汝、汝は我! 聖なる大地ハイルローガンよ。 

 我に力を与えたまえ! 『プラズマバスター』!!」


 そう呪文を紡ぐなり、

 エイシルの両手杖の先端の魔石に眩い光の波動が生じた。

 そしてエイシルは、両手杖を握る両腕を大きく引き絞る。

 次の瞬間、魔石から迸った光の波動が神速の速さで帝国兵に迫った。


「き、ぎ、ぎゃあああ……あああァァァッ!?」


 その光の波動が一発、二発、三発と連続して帝国兵に命中。

 それによって魔力反応が『核熱かくねつ』が発生。

 そして光の波動が流星のように降り注がれた。


 身体を高熱で焼かれて、

 絞り出すような断末魔と共に絶命する帝国兵。


「我々も後に続くだワン!」


「ニャオーン! 狩りの時間だニャン!」


 リーファ達の後に続くように、

 犬族ワンマン猫族ニャーマンの魔導師部隊も

 各属性の魔法攻撃を使い分けて、

 帝国兵を死の世界へといざなう。


 しかし帝国軍とてやられてばかりではない。

 ハーン元帥の『ネオ・ブラックフォース騎士団ナイツ』の騎兵隊を

 中心とした騎兵及び弓騎兵を前線に押し出し、

 戦況の挽回を試みる。


 だが連合軍の魔導師部隊は、

 それらの騎兵を相手する事無く、中列に後退。

 そして傭兵及び冒険者部隊の騎兵や歩兵が前へ出て、

 白兵戦で応戦する。


「魔導師部隊は撃っては逃げ、撃っては逃げるワン。

 そして敵の騎兵隊に対しては、

 こちらも騎兵隊で白兵戦を挑む。

 但し漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)が現れたら、

 騎兵隊も後退させて、中間距離から魔法攻撃を仕掛けよ!」


「ははっ!」


 シャーバット公子の言葉に頷く副官エーデルバイン。

 シャーバット公子のこの戦術は、

 特別に秀でた戦術ではなかったが、

 指示を受ける兵士としては分かりやすかった。


 それ故にこの広い戦場でも常に柔軟かつ臨機応変に動けた。

 そして漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)が現れたら、

 堂々と逃げて、遠距離から魔法攻撃。

 あるいは対魔結界や障壁バリアを張って相手の動きを封じた。


「撃っては離れる、ヒット&アウェイだな」


 黒い軍馬に乗ったハーン元帥がそう呟いた。

 すると同様に黒い軍馬に乗ったマリーダが相槌を打つ。


「ですわね、恐らく私に対する牽制攻撃でしょう」


「嗚呼、いくら君が漆黒ブラックの戦女(・ヴァルキリー)と云えど、

 何十時間も何百時間も戦う事は不可能だからな。

 だから君は相手の挑発に乗る事無く、

 自分のペースで敵に魔法攻撃を仕掛けたまえっ!」


「……分かりました」


「私も誇り高き帝国元帥だ。

 淑女レディである君にばかり負担を背負わせんよ。

 我々の騎兵隊とタファレル元帥、バズレール将軍と

 力を合わせて、この手で連合軍を叩き潰してみせよう!」


 こうして帝国軍の第五軍は、マリーダ頼りの戦術を改めて、

 三元帥の部隊を中心とした騎兵戦及び白兵戦に切り替えた。

 これによって帝国軍と連合軍の戦いは、

 尚も激しさを増して、様々な戦いが繰り広げられた。



次回の更新は2024年1月20日(土)の予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 戦乙女達の戦闘が終わり、戦法が変わってきましたね。 そして、珍しく連合軍が劣勢。 これまでは全戦全勝だったので珍しいですね。 この戦場を無事に勝利で乗り越えられればい…
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